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異世界の残酷な洗礼編

035:自愛あふれる聖眼様の教え

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「おい、ちょっといいか? 俺はこのヘタクソな回復呪文の練習台になるって事なのかよ」
「あら、下等種にしてはモノ分かりがいいですわね。ただ――その目つきが気に入りませんわね」
「そいつは残念。生まれつきのイケ眼なんでね」
「本当に生意気ですわね。昨日切り刻んだ下民と同じく、怯えれば可愛げもあるというのに」

 その言葉に真乃依が食いつき、無邪気に喜びながら昨日あった事を思い出す。
 どうやらよほど、その光景が面白かったようだ。

「ぷっ! アハハハハハ! しっしょ~、昨日の村人は最高に笑えたよねぇ~。今日はコイツでそれが見れるとか、マジでやばたん」

 今……なんて言った? 真乃依のやつなにを?

「真乃依……お前、今なんて言ったんだ?」
「ハァ? 下等な村人を、アタシが聖女になるためにかてにしたってだけなのに、何キレてんの? キモすぎぃ」
「お前は何を言っているのか理解しているのか?」
「知ってるしぃ。それこそ戦極パイセンこそ、アタシが聖女って意味理解してねぇんじゃね?」

 戦極はギリリと奥歯を噛みしめ、真乃依が異世界コチラに馴染んできた事に怒りを覚える。
 たった数日で、生きた村人を人と思わない言動にイラつきながらも、次の言葉を戦極が話す前にエカテリーナが動く。

「理解していないようなので……次はもっと深手を負うと嬉しいですわ」

 エカテリーナは右手の中指にはめた指輪を戦極へと見せつける。
 その指輪、まるで人の血液をすすったが如くドス赤く輝いた瞬間、髪の毛よりも細い何かが戦極を襲う。

 とっさにそれを察知し、背後へと飛び退く――が。

「グッゥゥゥゥ! 一体なんだッ!?」

 チィ、左足がやられた?
 とっさに後ろへ飛んだはずだが、なぜアキレス腱がやられるッ!
 攻撃は前から来たはずだ、だがなぜ背後からも来るんだ。
 ヤバイ、これは機動力が奪われちまった。

「ほらほら、まだまだイキますわよ?」
「チィッ!!」

 戦極は残った右足で器用に細い何かをかわす。
 そのたびに足元の石畳には細い線がはいり、石畳ですら切断されているのが分かる。
 その事実に戦極は戦慄しながらも、残った足で賢明に避ける、が。

「ホホホホ。なんですのその無様な避け方は? 流石は下等種といったところですわね」
「ハァハァ、下等種でも命が惜しいものでね」
「まぁ品がない。それよりマリエ、ちゃんと回復呪文をなさい。せっかくの生きの良い実験体が、死んでしまいますわよ?」
「わ、分かっているつ~の! つか、戦極パイセン動かないでほしいんですけど~?」

 この状況で動くなってのがムリがあるだろ!
 だが、回復をもらわないと流石にヤバイ。どうする……ッ、そうか!
 真乃依の回復に合わせて、その場所へと移動すりゃいい。

「そんな事、わたくしが見抜けないと思って? 甘いですわねぇッ!!」
「なッ、グウウウウウウウッ!!」
「アハハハ! しっしょ~エグすぎぃ~」

 馬鹿な! 完全に裏を読んで攻撃後の隙を狙ったはずだ。
 なぜ動ける? まさか――。

「――ハメられた、か」
「ホホホホ。今頃気がつきましたの? だから下等種と言われるのですわ。この〝血糸けっしの指輪〟は自由自在。攻撃の隙などありませんわ。マリエ!」
「はいは~い。癒やしの光よ、この手に集まりの者を癒せ――ライトヒール!」

 ありがとよ真乃依。桜の半分ほど回復したぜ。
 これで何とか動けるが、これではいずれ……どうする、どうしたらいい!?
 まて、焦るな戦極。俺はもっとヤバイ修行をクリアした。
 思い出せ、死地にこそ活はある。

「さぁさぁ~あと何度耐えられるかしら? 踊りなさい下等種!」

 戦極は必死によけながらも、体を切り刻まれる。
 その様子、まさに悲惨の一言だろう。

 傷口がパックリと裂け、そこから鮮血が吹き出た瞬間、真乃依の魔法によりギリギリ動けるほど回復。
 その直後、またしても体が裂け、倒れるが回復という生き地獄。

 そんな状態でも戦極は生きる事をあきらめない。
 むしろエカテリーナの攻撃が、段々と目で追えるようになったが、それでも真乃依の下手な回復術により、全快とは程遠いダメージで足がもたつく。

 やがて数時間が過ぎ去り、太陽はすでに赤く燃え沈みゆく。
 真乃依は片手に持った、燻製された極上の魚をはさんだパンをかじりつつ、戦極へテキトウなヒール・・・・・・・・を続ける。
 無駄に魔力量が多いのか、一向に疲れる気配はない。

 むしろアクビをしつつ、戦極へ無気力にヒールを放つ。
 そんな様子を豪華な木製のガゼボに戻り、メイドが入れた香りの濃い茶をすすりながら、エカテリーナは戦極へと攻撃。

 疲労と空腹。それにのどかわきが極限にたっし、意識がギブソン砂漠をあるくが如く、朦朧もうろうとなった刹那――。

「しまッ――グガアアアアアアアア!!!!」

 なんだ……左腕が熱い。まて、まさかッ!?

「グウウウウウウウッ!! 俺の左腕がッ……」
「あら? ごめんあそばせ。少し手元が狂ってしまいましてよ。悪気は無かった……と、いう事にしてくれたら嬉しいのですわ」
「あっはっはっは! しっしょ~そりゃ無いってぇ。戦極パイセンの左腕、ぶっ飛んでんじゃん! リアルガチすぎてヤバミ~」
「それは仕方なくてよマリエ。だってそうでしょう?」
「わかりみ~。つまりこういう事っしょ?」

 エカテリーナとマリエは醜悪な顔をあわせて微笑むと、戦極へとあざわらうように吐き捨てる。


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