もふもふ子狐のせいで、廃棄(ゴミ)の烙印を押されたハズレ男。あまりにも酷い扱いをされたので、異世界召喚をした国を爽快バトルにて滅ぼします

竹本蘭乃

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異世界の残酷な洗礼編

040:しずく

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040:しずく

 ◇◇◇


 ――わん太郎と美琴がキンタロウアメをモフってる頃、戦極はフェリスに運ばれて馬小屋へと向かう。
 見た目はなんとか回復したが、疲労は回復してはいないようだ。
 さらに血液も十分じゃないのか、体もダルそうだった。

「変態さん大丈夫? もうすぐ着くから、ガマンしてね」
「すまないフェリス……お前にも世話になりっぱなしだな」
「なにを言っているのよ。このぐらいなんでも無いってば」

 しばし無言になる二人。下を見れば桜と剛流が必死に追いかけてくるのが見える。
 そんな状況に苦虫を噛み締めながら、戦極はフェリスの首に持たれかかり休む。

「俺一人が生き残るために、三人には本当に迷惑をかけちまったな……」
「らしくないよ変態さん。いつものように不敵に余裕さをみせてくれなきゃ」
「余裕さか……。余裕なんてのはこの世界に来てからは無いさ。ただ俺の血・・・が、そうさせているだけだ。これはもう呪いのたぐいじゃないのかと、今は思うほどだ」

 フェリスは黙って聞く。血の呪いの意味を理解しているからだ。
 それは戦極が寝言で言っていたのを、すぐそばで聞いて知っていたから。
 
 この世界で苦痛と言うには壮絶なものを経験し、悪夢からか寝言で思わず漏らした内容。
 それは〝裏切られた先祖のかたきを異世界で討つ〟と言う、信じられない一言だった。
 その時はただの寝言だと思っていたが、血の呪いという言葉でそれをフェリスは察する。 
 だからこそ、双子の月を見上げながら、フェリスは歌う。

 その声はしっとり艷やかで、静かだが優しい歌声が戦極の心を癒やす。
 蒼い月の光を見つめながら、戦極は頬に温かい感覚を感じた。
 ツゥと両の頬をつたい流れる感覚に、それが何なのかを理解しつつも、ぬぐうこともせず好きにさせる。

 やがて馬小屋わがやが見えてきたころ、フェリスは静かに下りるのだった。

「さぁ付いたわよ変態さん。……変態さん?」

 ちょうどそこへ桜と剛流がやってくると、フェリスへと声をかけた。
 どうやら勇者のステータスといえど、フェリスの速度についてくるのは大変だったらしく、息が荒いまま話す。

「はぁはぁ。フェリスさん、戦極さんは大丈夫ですか?」
「ええ、サクラちゃん大丈夫よ。ただ疲れて寝ちゃったみたいね……悪いけど背中からおろして、彼のベッドわら山へと寝かせてくれないかしら」
「はい分かりました。じゃあ剛流くん、反対側をささえて」
「う、うんわかったよ。いくよ? せ~の」

 剛流の掛け声で、桜も力を入れて戦極を担ぐ。
 そして藁山わらやまへと運び、戦極を寝かせた。

「こんなになるまで今日は何をしたのかしら?」

 フェリスはそう言うと、桜たちへと向き直る。
 そして桜は見て、聞いた事をフェリスへと伝えると、フェリスは激怒し震えた。
 あまりの怒りに、周りの馬達が怯えたはじめた事で冷静さを取り戻す。

「そう……そんな事があったのね。自分がそばにいてあげれたら、そんな事にはならなかったと思うと悔しいよ」
「それは私たちも一緒です」

 剛流も首を縦にふり同意をしめす。
 そして桜はフェリスに、ここを長い時間離れられない理由を聞く。

「あの、フェリスさん。どうしてここを離れられないんですか?」
「そうね……ここは馬たちがいるからね。離れられないのよ」
「馬、ですか?」
「そう、馬がいるからね」

 その言葉でこれ以上聞くことは出来ないと思った桜は、話題を変えようとする。
 ふと視線を剛流に向けると、彼が背負っている物を見て思いだす。

「あ! そうだった。剛流くんリュックを持ってくれてありがとうね」
「い、いや大丈夫だよ。戦極さんを背負った時は、桜ちゃんがもってくれていたし」
「あら、いい香りがするわね。変態さんの食事かしら?」

 剛流はリュック下ろすと、中から食事を取り出す。
 いつもより多くの食料であり、干し肉や携行食。それにドライフルーツなどもあった。
 それをフェリスへ見せると、剛流は戦極の隣へとリュックを置く。

「今日はもう目覚めそうもないわね。ありがとう二人とも。変態さんが目覚めたら、ちゃんと渡しておくからね」
「はい、お願いします。じゃあ今日は帰ろうか剛流くん」
「う、うん。そうだね、それじゃあフェリスさん失礼します」

 二人はぺこりと頭を下げると、二度戦極を振り返りながら帰っていく。
 そんな二人を見てフェリスは心が暖かくなる。

「いい子たちね……。変態さん、早く起きてあの子たちを安心させてあげてね」

 そう言うとフェリスは音もなく去っていく。
 馬房にいる馬たちは、動かない戦極をやさしい瞳で見つめる。
 やがて双子の月が完全に輝き、その月光を馬小屋の中へと差し込ませ戦極を癒やすのだった。


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