上 下
10 / 43
第二章 勇者一行としての旅

こいつら遊びでダンジョン攻略しているのか

しおりを挟む
 翌朝、ユリの病室を訪れると、既にメンバー全員が集まっていて、知らない中年男性もいた。
 握手を求められ、自己紹介されたが、例のミッシェル国防大臣だった。
 ユリは暗殺期日の明朝まで、入院する予定だったが、もうその必要がないので、これから王宮に戻るのだとか。
「そうだ。クリフト近くのダンジョンに隠しダンジョンがあり、飛んでもない魔物が居たという話だが、君は何か知ってるかね」
 大臣の言葉が聞こえたのか、皆が注目してきた。
「ええ、僕も同行していましたので、よく知っています。地下四十階層に不気味な墓地があり、大量のスケルトンを使役する視認できない幽霊の魔物が居ました。不可視とは違い、存在そのものがない浮遊する幽霊で、攻撃してもダメージを与えられません。僕には見えませんでしたが、大鎌を武器にしているようで、攻撃の一瞬だけ実態化するみたいです。直ぐに撤退判断したのですが、A級クランのリーダーが首を切り落とされ、一名が重態。二人が大怪我を負い、もう一人も腕に深い傷を負いました」
「リハビリに丁度いいわね。大臣、私たちに行かせて」
 そんな訳で、大臣のリムジンで王宮に戻り、直ぐにクリフトへと旅立ち、例のダンジョンボス攻略に行くことになった。


「このB級ダンジョンを再攻略したのって何日前」
 ダンジョンに着くと直ぐ、ユリが訊いてきた。
「記憶が定かじゃないけど、たしか二週間くらい前」
「微妙なところね。じゃあ、行きましょうか」
 微妙と言う意味が分からなので、ローラに聞いてみると、魔物が復活し始めるのが二週間経過後からなんだそう。
 階層ボスは、四週間位たたないと復活しないが、徘徊している低級魔物は三週間位でほとんどが復活すると教えてもらった。

 地下一階層に入ると、勇者パーティーにはダンジョンマップを渡しておいたのに、彼らは最短ルートとは違う方向にすたすた歩き出した。
「こっちです」
 僕が正しい最短ルートを案内しようとしたが、無視してどんどん先に歩いていく。
 もしかして、復活した魔物を退治しようとしているのかなと、大人しく着いていくことにした。

 すると程なくボカンと大爆発。ユリが爆裂魔法トラップ、地雷を踏んだのだ。
 迂闊にすたすた歩くから、こんな初歩的トラップに引っかかるんだ。大怪我したはずなので、急いでエクストラヒールを掛けないと。
 そんなことを考えながら、砂塵が治まるの待っていると、ユリは別の場所に平然と立っていた。擦り傷だらけで、血もでているが、脅威的反射神経で飛び退いて、大ダメージ食らうのを回避したらしい。
 直ぐにヒールで治療したが、ローラから「こんなのでいちいち治療してたら、魔力が無くなるだけだから、治療の必要はないわ」と言われた。

 その理由は直ぐに分かった。また、見え見えのトラップを踏んで、飛び出した槍で、串刺しになりかけたのだ。
「トラップマスターなんだろう。なんでトラップの場所を教えないんだ」
 フレイアに訊くと、教えてくれた。
「ユリの趣味。気配感知で、トラップ位置もどんなトラップかも分かってるんだ。だから絶対に避けれると信じて、反射神経を鍛えているみたい。時々、こっちも巻き込まれて、死にかけることもあるけど、好きにやらせてる」
 そんなことを話していると、突然毒矢が飛んできて、頬をかすめた。猛毒らしく、直ぐに眩暈がしてきた。
「御免、そっちまで飛ぶと思わなくて」 ユリは手を合わせ、ウインクするように片目を閉じ、謝った。
 可愛いので許すが、直ぐに毒消しを発動しなけば、死んでいた。勇者ユリは飛んでもないマゾの迷惑女だ。

 その後も次々とトラップを発動していくが、落とし穴にも落ちないし、トラバサミにもかからない。石礫も、落石も、熱湯噴水も、軽度のダメージで通過していく。
 しかもすたすたと速足で移動しているので、全トラップが発動してるのに、二十分もかからず通過した。

 二階層に移動してからも、ユリはそんな調子でトラップを踏み続けたが、今度はローラまで異常行動を始めた。
「あっ、マメアサ見っけ」
 第二階層には植物がかなり生えているのだが、薬草採取を始めたのだ。
 彼女は、エコバックみたいな布袋にそれをいくつも詰め込むと、僕に持たせた。
 その後も、薬草らしき植物をつぎつぎと採取して鞄にいれ、今度は大根のようなものを引き抜いた。
「ぎゃあ~~~~っ」
 引き抜いた途端、その植物が悲鳴を上げた。すると、激しい目構いがしてきて、僕はその場に倒れることになった。耳鳴りが止まらないし、頭痛までする。くらくらと眩暈が続き、ヒールを掛けるようとしても、精神集中できなかった。
 他のメンバーはちゃんと両手で耳を塞いでいた。
「ごめんね。これマンドレイクというんだけど、悲鳴で精神錯乱を起こすの。ちゃんと対応してくれると思って、何も注意しなかった。薬草の知識はなかったんだね」
 ダンジョンで薬草採取する人なんて見たこと無いから、マンドレイクの対応方法何て知る由もない。
 ローラがヒールを掛けてくれて、僕が自分で精神安定に特化したヒールを発動し、完治したが、困った人たちだ。
 ローラに、どうして耳をふさがずに平気なのかを尋ねたら、音遮断魔法を自分の耳に施していたと教えてくれた。なら僕らに掛けてくれてもいいだろうと文句を言ったら、「両手が使える人は、自分で防げるから、魔力の無駄遣いでしょう」と言われた。本当に腹が立つ。

 この調子じゃ、いつになったら隠しダンジョンに行けるかわからないと思いながら、地下三階層を彷徨っていると、「やっぱりあった」と、ユリがダンジョンの壁を上り、発掘作業を始めた。
「これからが大変だぞ」 アーロンが僕の背中を叩いてきた。
「魔水晶って、こういう洞窟に多いんだ。ユリの趣味だから諦めろよ」
 フレイアが、ユリの趣味が魔水晶探しだと教えてくれた。ダイヤモンドの様な希少鉱物でかなり高価だときいていたので、こんな場所で採取できるとは知らなかった。
「じゃあ、お願いね。荷物持ちさん」
 由梨は数キロある石の塊を渡してきた。
「これが魔水晶?」
「そう、この赤い光を放っているのが魔水晶の結晶。でもほとんどが価値のない石。丁寧に取り出さないと、価値ある結晶を取り出せないから、周りをごっそり取ってきたの」
 僕は、それを背中のリュックに入れ、担いだが、この調子で、何十個も採取されたら、確かにとんでもない罰ゲームだ。

 五階層では、とんでもないトラップに遭遇することになった。
「アーロン、天井が落ちてくるみたいだから、耐えて。行くよ」
「ユウスケ、伏せて」 ローラに言われて、頭を抱えるようにしゃがみ込んだが、僕は背骨が折れたんじゃないかという程の大ダメージを受けることになった。他の皆は、地面に完全に伏せていた。
 落ちてきた天井を、アーロンが支えたのだが、天井がしなって、僕の背中を強打したのだ。
 フレイアが直ぐに起きて解除処理し、天井が上がって行ったが、こいつら、何なんだといいたくなった。
 態とトラップを踏んで回避特訓をするユリ。とんでもなく重い天井を一人で支えきるアーロン。それを一瞬で解除してしまうフレイア。僕のことより、マンドレイクを心配そうに確認するローラ。
 こんなパーティーでやっていく自信がこの時、完全に喪失した。

 八階層になると、初めて徘徊する魔物に遭遇した。といっても弱小のゴブリンとスライムだ。
 ゴブリンは臭いから嫌いと、僕一人で戦わせ、四人は離れて様子を伺っていたが、スライムの方はユリが「よしよしいい子ね」と頭をなぜると、なぜかユリの後を着いていくようになった。これも『慈愛』の効果なのかもしれない。
 でも、程なくそのスライムは天国に召されることになった。ユリが地雷を踏んで、巻き込まれたのだ。
「ついてきちゃダメっていったのに」と言っていたので、態とではなさそうだが、ご愁傷様だ。
 まあ、その後も二匹のスライムに遭遇し、その二匹は、最後まで彼女に無事についてきた。

 十階層では、猪の魔物カプロスと遭遇した。
「おっ、うまそうだ」
 アーロンがそんなことを言い出して、斧をしまい、素手で格闘して抑え込み、フレイアが手と足を纏めるように押さえ、ユリが天使の輪で手足を縛って捕獲した。
 アーロンはローラの杖を借りて、その杖をカプロスの足と胴の間に通して、僕と二人で抱え上げ、運ぶことになった。猪鍋でもつくるつもりなのかなと思ったけど、それなら、解体して美味しい部位だけ取ればいいだけで、無駄に重いのに生きたまま運ぼうとするのが、僕の苛めとしか思えなかった。

 この日は結局、十三階層で野営することになったが、僕は既にへとへとだった。魔水晶は結局三個しか見つからず、大したことはなかったが、マンドレイク三匹、薬草山盛りで五キロ位ある籠を右手にもち、六十キロくらいあるカプロスを肩に担いで運んだのだから当然だ。

 そして、夕食となったが、その夕食もとんでもなかった。
 しし鍋ならまだ我慢できたが、カプロスのステーキと、スライムスープだったのだ。
 アーロンがカプロスを素早く捌いて、ステーキを焼き、ローラが薬草と共にスライムを鍋に突っ込んで、スープを作った。
 肉は血抜きして寝かせた方が美味しいのではと聞いてみると、魔物の場合は、死ぬと三十分程で塵となって消えるから、生きたまま運び、素早く調理しないとならないのだとか。スライムも美味しいスープの素になるのだとかで、ペットとして従えていたのではなかった。
 こんなゲテモノ料理を食べるのかと、ぞっとしたが、とても美味しかった。カプロスは猪なので豚の様な味だと思ったが、牛肉に近い豚と牛が混ざった様な味で美味しかったし、スライムのスープはコーンスープの様なとろみがあるが、薬草が香辛料の役割をして、すっきりとした後味のコンソメスープに近い味わいだった。

 でもこれからも、魔物を食べるのかと思うと、ぞっとする。あれほど、入りたかった勇者一行のパーティーだったが、こんなとんでもないパーティーだと知っていれば、絶対に入りはしなかった。
 僕は、僅か一日で、この勇者パーティーをやめたくなっていた。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:109,731pt お気に入り:3,057

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,627pt お気に入り:2,112

悪女と呼ばれた死に戻り令嬢、二度目の人生は婚約破棄から始まる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:823pt お気に入り:2,473

貴方へ愛を伝え続けてきましたが、もう限界です。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,008pt お気に入り:3,802

かわいい猛毒の子

ミステリー / 完結 24h.ポイント:127pt お気に入り:26

婚約破棄ですか? 仕方ありませんね

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1,862

処理中です...