3 / 58
「安倍晴明」
参、賀茂家当主
しおりを挟む
小春たちの住む陰陽寮から、忠行の住む賀茂家の屋敷まで、白とともに歩く。
今宵は雲のない、きれいな月夜だ。悠々と小春を導く白の毛並みが、月の光に反射してきらきらと光る。
「白さん、今日は綺麗な月ですね」
月を見上げながら言うと、白はふん、と鼻を鳴らした。
『綺麗、という概念は分かりません』
私は式神なので、と告げる白。白のように力を持ったあやかしは、式神として使役することが出来る。一般的に、陰陽師の力が強ければ強いほど、力の強い式神を多く使役できるのだ。
白は、過去の賀茂家の当主に救われて、賀茂家に代々仕える式神になったと聞いている。
小春よりずっと前から賀茂家に仕えているので、小春は白のことを「白さん」と呼んでいる。
口調は大人びているけれど、嬉しいときには尻尾が揺れたり、都合が悪いときには耳や尻尾がしゅんと下がったり、見ていて飽きない。いつか白の首元に顔をうずめてもふもふしたいというのは小春の密かな夢だ。
きっと、白にそれを言ったら怒られてしまうだろうけど。
私は由緒正しい賀茂家の式神ですよ、と尻尾を地面にたたきつけながら言う白を思い浮かべて、小春は口元を緩めた。
「今日みたいに、雲のない夜空のことを、綺麗って言うんですよ」
『ふぅん。……今から主様に会うのに、ずいぶん余裕そうですね』
「げ。白さん、私怒られるでしょうか?」
『そうでしょうね。坊ちゃんに怪我させたのは事実ですから』
何を言ってるんだ、とでも言わんばかりの白の目線に、小春は肩を落とす。
小春だって、白のような式神を使役したかったのだ、と言ったらさらに忠行は怒るだろう。
何事も基本が肝要だぞ、と野太い声で告げる忠行の姿を思い浮かべると、自然とため息が漏れた。
『まあ、坊ちゃんが怒ってないのは良かったじゃないですか』
白に励まされながら、賀茂家の屋敷までたどり着く。
すでに夜更けになっていることもあり、賀茂家はしんと静まり返っていた。中庭のかがり火が、煌々とした灯りを小春たちに投げかける。賀茂家に仕える女房たちをはじめ、すでに皆寝静まっているのだろう。
他の貴族の家であれば、護衛の兵がいるものではあるが、そこは陰陽師を輩出する賀茂家である。無人のように見えて、歴代の賀茂家当主に使役されたあやかしたちが賀茂家を守っている。
今宵は、そのあやかしたちの気配がどこかせわしない。
何かあったのだろうか。
妙な胸騒ぎを感じながら、春の冷気に冷たくなった廊下をぺたぺたと歩く。
「ただいま、参りました」
忠行の部屋の前に膝をつき、部屋に向かって声をかけると、「入れ」と低い声が響いた。
「失礼いたします」
中では、忠行が文をしたためているところだった。
「来たか、晴明」
「はい」
すらすらと動く筆。書き終えるやいなや、鳥の式神がそれをくわえて羽ばたく。
「……大変なことが起こった」
忠行は筆を置いてそう重々しく言った。
今宵は雲のない、きれいな月夜だ。悠々と小春を導く白の毛並みが、月の光に反射してきらきらと光る。
「白さん、今日は綺麗な月ですね」
月を見上げながら言うと、白はふん、と鼻を鳴らした。
『綺麗、という概念は分かりません』
私は式神なので、と告げる白。白のように力を持ったあやかしは、式神として使役することが出来る。一般的に、陰陽師の力が強ければ強いほど、力の強い式神を多く使役できるのだ。
白は、過去の賀茂家の当主に救われて、賀茂家に代々仕える式神になったと聞いている。
小春よりずっと前から賀茂家に仕えているので、小春は白のことを「白さん」と呼んでいる。
口調は大人びているけれど、嬉しいときには尻尾が揺れたり、都合が悪いときには耳や尻尾がしゅんと下がったり、見ていて飽きない。いつか白の首元に顔をうずめてもふもふしたいというのは小春の密かな夢だ。
きっと、白にそれを言ったら怒られてしまうだろうけど。
私は由緒正しい賀茂家の式神ですよ、と尻尾を地面にたたきつけながら言う白を思い浮かべて、小春は口元を緩めた。
「今日みたいに、雲のない夜空のことを、綺麗って言うんですよ」
『ふぅん。……今から主様に会うのに、ずいぶん余裕そうですね』
「げ。白さん、私怒られるでしょうか?」
『そうでしょうね。坊ちゃんに怪我させたのは事実ですから』
何を言ってるんだ、とでも言わんばかりの白の目線に、小春は肩を落とす。
小春だって、白のような式神を使役したかったのだ、と言ったらさらに忠行は怒るだろう。
何事も基本が肝要だぞ、と野太い声で告げる忠行の姿を思い浮かべると、自然とため息が漏れた。
『まあ、坊ちゃんが怒ってないのは良かったじゃないですか』
白に励まされながら、賀茂家の屋敷までたどり着く。
すでに夜更けになっていることもあり、賀茂家はしんと静まり返っていた。中庭のかがり火が、煌々とした灯りを小春たちに投げかける。賀茂家に仕える女房たちをはじめ、すでに皆寝静まっているのだろう。
他の貴族の家であれば、護衛の兵がいるものではあるが、そこは陰陽師を輩出する賀茂家である。無人のように見えて、歴代の賀茂家当主に使役されたあやかしたちが賀茂家を守っている。
今宵は、そのあやかしたちの気配がどこかせわしない。
何かあったのだろうか。
妙な胸騒ぎを感じながら、春の冷気に冷たくなった廊下をぺたぺたと歩く。
「ただいま、参りました」
忠行の部屋の前に膝をつき、部屋に向かって声をかけると、「入れ」と低い声が響いた。
「失礼いたします」
中では、忠行が文をしたためているところだった。
「来たか、晴明」
「はい」
すらすらと動く筆。書き終えるやいなや、鳥の式神がそれをくわえて羽ばたく。
「……大変なことが起こった」
忠行は筆を置いてそう重々しく言った。
7
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜
黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。
ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。
彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。
賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。
地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す!
森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。
美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。
さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる!
剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。
窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される
めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」
ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!
テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。
『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。
新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。
アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる