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一の姫
十九、お地蔵さま
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小春は思わず駆け出した。
行くべきところはもうすでに分かっていた。
あの、お地蔵さまのところだ。
そこに行けば、きっと六花にも、六条の君――千代にも会える。
根拠は分からないけれど、なぜかその確信があった。
自分の足音さえ深く響く屋敷のなかを駆け抜けて、そのまま庭に出る。
頭のなかに地図があるように、勝手に足が進んでいく。
庭は、あの時と同じように奇麗な月の光が照らしていた。
「……! 兄上!」
月が見知った姿を照らす。保憲の横顔を見つけた瞬間、ふっと張り詰めていた糸が緩んだように感じる。
保憲が、小春を振り返って驚いた顔をした。
「小春、どうしてここが分かったんだ」
保憲の目の前にあるのは、さきほど見ていた小さなお地蔵さま。
その前にしゃがみ込み、手を合わせていたのは美しい女だった。
「誰ですの?」
白いかんばせを見せて、女は小春というより保憲にたずねた。
月光に透き通るような長い髪。伏せられた睫毛。
ゆっくりと、その目が小春に向けられる。
「……あ」
小春は思わず息をのんだ。
千代に、そっくりだったのだ。千代がそのまま成長していれば、こうなるだろう。
そう思わずにはいられないほど、目鼻立ちに千代の面影があった。
「保憲さま。こちらのお方は?」
千代は立ち上がり、保憲にたずねた。
小春はその場から一歩進み、千代の前で礼をする。
「安倍晴明と申します」
「あなたね。保憲さまの弟弟子というのは。あたし、あなたに会うって言ってないんだけど」
「申し訳ございません」
謝罪し、深くお辞儀をする。
そのうえから、呆れたような千代の声が響いた。
「いいわ。……ところで、どうしてここが分かったの。やっぱり、陰陽師だから?」
楽しそうな声音に、小春は何と言ったらよいのか分からず口をつぐんだ。
「いえ……」
「そうじゃないの? つまらないの」
ふい、と千代の視線が小春から保憲にうつる。
――言い出すなら、今しかないと思った。
「六花のことを、知っていますか?」
千代は驚きの表情を浮かべ、小春の顔を見た。
「どこでその名を?」
「……本人から、教えてもらいました」
「そんなはずないわ。あたしだって、随分前から会ってないのよ」
わなわなと、千代の唇が震える。
まるで迷子になった子どものように頼りない声で、千代はつぶやいた。
「あなた、どこで会ったの? 六花は、元気だった?」
「先ほど、この屋敷のなかで会いました。元気だったと思いますよ」
「それじゃ、六花はまだここにいるのね。……よかった」
ほっと息を吐いた千代は、先ほど祈っていた小さなお地蔵さまを見た。
「あなた、本当に陰陽師なのね。だから六花のことが見えたのだと思うわ。私は、もうずっと彼女のことを見ていない。今まで、あんなにずっと一緒にいたのに。あんなにたくさん遊んでもらったのに」
千代は、きっと六花のことが大好きだったのだ。
この家に売られたときから、千代のいちばん側にいたのは、六花だった。
六花もまた、千代のことが好きだったのだ。
だからこそ、きっと――。
六花の正体。
それはきっと、座敷童。
親に捨てられた子どものあやかし。
行くべきところはもうすでに分かっていた。
あの、お地蔵さまのところだ。
そこに行けば、きっと六花にも、六条の君――千代にも会える。
根拠は分からないけれど、なぜかその確信があった。
自分の足音さえ深く響く屋敷のなかを駆け抜けて、そのまま庭に出る。
頭のなかに地図があるように、勝手に足が進んでいく。
庭は、あの時と同じように奇麗な月の光が照らしていた。
「……! 兄上!」
月が見知った姿を照らす。保憲の横顔を見つけた瞬間、ふっと張り詰めていた糸が緩んだように感じる。
保憲が、小春を振り返って驚いた顔をした。
「小春、どうしてここが分かったんだ」
保憲の目の前にあるのは、さきほど見ていた小さなお地蔵さま。
その前にしゃがみ込み、手を合わせていたのは美しい女だった。
「誰ですの?」
白いかんばせを見せて、女は小春というより保憲にたずねた。
月光に透き通るような長い髪。伏せられた睫毛。
ゆっくりと、その目が小春に向けられる。
「……あ」
小春は思わず息をのんだ。
千代に、そっくりだったのだ。千代がそのまま成長していれば、こうなるだろう。
そう思わずにはいられないほど、目鼻立ちに千代の面影があった。
「保憲さま。こちらのお方は?」
千代は立ち上がり、保憲にたずねた。
小春はその場から一歩進み、千代の前で礼をする。
「安倍晴明と申します」
「あなたね。保憲さまの弟弟子というのは。あたし、あなたに会うって言ってないんだけど」
「申し訳ございません」
謝罪し、深くお辞儀をする。
そのうえから、呆れたような千代の声が響いた。
「いいわ。……ところで、どうしてここが分かったの。やっぱり、陰陽師だから?」
楽しそうな声音に、小春は何と言ったらよいのか分からず口をつぐんだ。
「いえ……」
「そうじゃないの? つまらないの」
ふい、と千代の視線が小春から保憲にうつる。
――言い出すなら、今しかないと思った。
「六花のことを、知っていますか?」
千代は驚きの表情を浮かべ、小春の顔を見た。
「どこでその名を?」
「……本人から、教えてもらいました」
「そんなはずないわ。あたしだって、随分前から会ってないのよ」
わなわなと、千代の唇が震える。
まるで迷子になった子どものように頼りない声で、千代はつぶやいた。
「あなた、どこで会ったの? 六花は、元気だった?」
「先ほど、この屋敷のなかで会いました。元気だったと思いますよ」
「それじゃ、六花はまだここにいるのね。……よかった」
ほっと息を吐いた千代は、先ほど祈っていた小さなお地蔵さまを見た。
「あなた、本当に陰陽師なのね。だから六花のことが見えたのだと思うわ。私は、もうずっと彼女のことを見ていない。今まで、あんなにずっと一緒にいたのに。あんなにたくさん遊んでもらったのに」
千代は、きっと六花のことが大好きだったのだ。
この家に売られたときから、千代のいちばん側にいたのは、六花だった。
六花もまた、千代のことが好きだったのだ。
だからこそ、きっと――。
六花の正体。
それはきっと、座敷童。
親に捨てられた子どものあやかし。
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