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第43話:パワハラ聖女だった幼馴染を

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キタエル学園の選抜戦、決勝戦の直後。
魔族化したエルザが、強襲してくる事件が勃発。

オレは何とか彼女を助け出し、波乱に満ちた選抜戦は無事に終わった。
選抜戦から一週間後、オレはカテリーナ先生に呼び出しをされる。



校舎にあるカテリーナ先生の個室にやってきた。
今日も白衣とミニスカート、眼鏡で、先生はエロスを醸し出している。

「先生、どんな用事ですか?」

「今日までの会議で、ある程度決まったことの報告です」

「おお、なるほど。どんな感じになりました」

公にはカテリーナ先生が、上級魔族を倒したことになっている。
お蔭で今後の魔族を対策のために、先生は毎日のように会議にも参加していたのだ。

「まずは大陸各地の各学園には、今回の事件のことは連絡。キタエル学園として警告しておきました」

通信用の魔道具を使えば、遠距離でも音声で情報共有が可能。
上級魔族が出現したことは、他校も知ることとなったのだ。

「今のところ他の街で、魔族は大丈夫なんですか?」

「ええ、今のところは。でも授業でも教えていた通り、魔族は油断ならない存在です」

「たしか変装や潜入が、得意なんですよね」

研究によると、魔族の全体的な数は、それほど多くはない。
だが魔族は特殊な能力を持つ。
姿を変えて、市民に紛れることも可能なのだ。

「あと上級魔族が降臨したことは、他校でも問題になっていました」

「“魔王”の復活が近い……という前兆ですか?」

「はい、そうです。遠くはない未来に、です」

今から数十年間前に、魔王は出現。
当時の英雄剣士たちが、命をかけて討伐した。

だが魔王は完全には殺せない存在だった。
直属の上級魔族の出現は、魔王の復活を示唆しさしているのだ。

「これから学園は、どうなってしまうんですか、先生?」

「会議によると、各学園は今まで以上に有能な剣士の育成に、力を費やしていく方針です。上級魔族や魔王を倒せる若者を、発掘して育成するためにです」

「なるほどです。かなり大変になっていきそうですね。先生や皆は……」

「あら? 他人事のように言うのですね? そんなハリト君が、これからの中心人物になっていく、可能性が高いのですよ?」

「えっ……オレがですか⁉ どうして……?」

「ハリト君は単騎で上級魔族を撃破。しかも加護が無しで、神剣の本来の力を発揮せず、です。分かりましたか?」

「ああ、なるほどです」

本来、学園剣士では上級魔族クラスを単騎撃破できない。
一任前の加護持ちの剣士が、波長の合う神剣を使って、初めて上級魔族を対等になるのだ。

「だからハリト君には期待していますよ」

「いやー、でも今回の件は偶然というか、たまたまなんですよ、先生」

魔族化エルザを倒した攻撃は、あれ以来発動できていない。
もしかしたら大事な幼馴染を助けるための、火事場のクソ力だったのかしれない。

とにかくオレの実力は未熟なのだ。

「あと先生は、これは予想なんですが、本来の上級魔族は、もっと強いと思います」

「なんですって……アレよりも、更に強力に?」

「はい、あの上級魔族は未完成な部分がありました。だから本来の力ではないと思います」

これは戦ってみた直感で、オレが知ったこと。
おそらくエルザの魔族化は完璧ではなかった。
だから彼女は人に戻れたのだ。
あくまでも戦ってみたオレの直感だが。

「なるほどです。今の“ハリトの直感”は、かなり信ぴょう性があると思います。その情報は今回の情報は私の方で上手くまとめて、他校の上層部にも連絡しておきます」

「なるほどです。ありがとうございます」

先生は他校への連絡係りを、受けてくれた。
他校で信頼をおける者に『今回の魔王と魔族は何か強くなりそうな感じだから、みんな頑張って生徒を育てね』みたいな感じで、警告するらしい。

「ところでハリト君は、今後はどうするつもりですか?」

「えっ、オレ……ですか? 正直なところ、もっと“強くなりたい”と思っています」

上級魔族にも剣術技は有効だった。
だが今のオレは完璧には、自分の力を引き出せない。

だから、これからもっと鍛えて強くなりたいのだ。

(あと『もしも夢が叶うなら』、自分用の神剣と、加護も欲しいな……)

これはあくまで剣士としての最終的な目標。
壮大すぎて口に出は出せない。

まずは無事にキタエル学園を卒業することが、近い目標だ。

(とりあえず今後もハリト団として、マリエルとミーケと鍛錬の日々。なおかつ自分の強さを高めていこう!)

今後について大まかな方針が決まった。

「ふっふっふ……その顔では自分の決意は、無事に決まった感じかしら?」

「あっ、はい。慢心しないでコツコツと頑張っていきます!」

「良い心がけですね。あっ、そういえば。ハリト団は選抜戦で、ちゃんと優勝の扱いになりましたよ」

「えっ、本当? ということは?」

「キミたち三人は来月から、選抜チームとして王都に行けます。名目上は“王都剣士学園”に短期留学と形なります」

「えっ、本当ですか⁉ ありがとうございます、先生!」

今回のことで、一番の吉報だった。
何しろ選抜戦の優勝は、オレたちの願いだったのだ。

(そっか……王都学園に行けるのか)

これを聞いたら、二人とも大喜びするだろうな。
早く教えてあげたい。

「今日の話はこれで終わりです。帰る前に、“彼女”の顔を見ていきますか?」

「あっ、はい」

カテリーナ先生と奥の部屋に向かう。
カーテンが閉められた薄暗い部屋。

その端のベッドの上に、金髪の少女が静かに眠っている。

「エルザ……早く目を覚まして、元気になってね」

あの激戦の直後から、彼女は未だに意識を取り戻さない。
先生の見解だと、極度に魔力と精神が欠乏した病状だという。

「ちなみに先生、今回の事件でエルザの罪は……」

「それは不問になると思います。あの時の彼女は、明らかに精神が異常な状態でした。ハリト君の説明してくれた通り、手にしていた“黒剣”に支配されていたのでしょう」

「そうですか、それを聞いて一安心しました。あっ、そういえば黒剣の破片は?」

「いえ、未だに見つかっていません。消滅したか、もしくは……」

「他の魔族ですか?」

「その可能性もあります。ですが今は証拠もないので、あまり責任を負って考える必要はありません」

エルザを操っていた黒剣は、たしかに破壊した手応えがあった。
だが完璧には消滅できた感じはない。

だから何となく気になってしまうのだ。

「ありがとうございます。とりあえずは気にしないで、前を向いていきます!」

「そうですね、ハリト君には、その方が似合います。さて、そろそろ私も用事がありますので」

「あっ、はい。最後にエルザに挨拶をして言って、いいですか?」

「ええ、もちろんです。私は隣の部屋で準備をしています。ですがくれぐれもエルザさんの身体に、淫《みだ》らなことをしてはいけません。するなら彼女が起きてからですよ」

「も、もちろんです」

相変わらずカテリーナ先生は、変にエロスな言い方をする。
先生が出かけてしまう前に、早くエルザに挨拶をしよう。

彼女の枕元に立つ。

「えーと、エルザ。元気にしている? いや、元気じゃないか……ごめん。そういえ先生にさっき聞いたんけど、エルザのことは不問になりそうなんだって! だから、いつでも元気に戻ってきてよ!」

眠ったままの幼馴染の手を握り、オレは語りかける
話しかけながら、彼女に元気な力を。
エルザが笑顔で戻って来られるように、安心する話をしていく。

「あっ。でもエルザが目を覚ましたら、一応は皆に謝った方がいいかな? あっ、でも謝るのは校舎の件に関してだよ。ほら、転入早々で、いきなりウチのクラスで大騒ぎしちゃったからね」

話かけながら、不思議な感覚に陥る。

何故なら王都にいた時は、エルザのことは苦痛の対象。
毎日のように、罵声を浴びせられていたオレにとって、この少女は恐怖の対象でしかなかった。

「あっ、そうだ。エルザが目を覚ましたら、今度はちゃんとキタエル学園に通ってみようよ! 最初は大変かもしれないけど、エルザなら大丈夫だよ! だってオレと違って、小さい時から積極的で、才能もあったからね。今のエルザなら、絶対に大丈夫だよ!」

だが今は違う。
王都で苦労していた彼女の気持ちが、オレも少しだけ分かるようになったのだ。

最近のオレは不思議な力を会得して、キタエル学園で剣士として学んできた。
その時にエルザの苦しみが、少しだけ理解できたのだ。

エルザは幼い時から、聖女として大きすぎる力を持っていた。
同時に想像を絶するようなプレッシャーも、王都では受けていたのだ。

今となって当時の彼女の苦しみが、少しだけ分かる。

「あっ、もしも住む場所が不安なら、オレたちと一緒に住もうよ? マリエルとミーケは二人とも良い子だから、今のエルザなら絶対に仲良くなれるから! 四人で一緒に授業を受けて、週末には鍛錬にいこうよ! すごく楽しくて充実しているから!」

このキタエル学園には、王都のようなプレッシャーもない。
きっとエルザの心の闇も、だんだんと浄化されていくであろう。

昔のようなエルザに。
故郷にいた時のように、素直で真面目な幼馴染エルザに戻るはずだ。

「ふう……なんか、言いすぎちゃったね。うるさくてゴメン。あとはゆっくり休んで、元気になったら、ちゃんと目を覚ましてね。いつでも大歓迎でオレは待っているから」

そう言い残して、エルザの手を離す。
今の自分が言えるエールは、全て伝えた。

あとは彼女の一日でも早い回復を、願うだけだ。

さて。
カテリーナ先生も準備が出来たみたいだし、オレも出ていかないと。

――――そんな時だった。

「ん? エルザ? 気のせいか?」

一瞬だけ後ろのエルザが、動いたような気がした。

でも振り向いても、寝たままだった。
気のせいだったのだろう。

「さて、戻ろうとするか」

こうしてマリエルとミーケの待つ別邸に、オレは戻るのであった。






だが、その日の夜。
事件が起きる。

用事から戻ってきたカテリーナ先生が、発見したのだ。

もぬけの殻になったベッドを。

オレ宛ての置き手紙を。

エルザはキタエル学園から、完全に姿を消してしまったのだ。

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