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第44話:旅立ち

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選抜戦から日が経ち、翌月になる。

今日はハリト団にとって特別な朝。
王都留学へ出発する日なのだ。

「うーん、荷物はこんな感じかな?」

マリエル邸の自室で、オレは荷物の自分の最終確認をしていた。
大きな背負い袋の中には、勉強道具や着替えが入っている。

他にも必要品は荷あるが、王都で購入することにした。

「王都か……エルザ、元気にしているかな……」

少し前に突然、姿を消した幼馴染のことを思い出す。

見舞いに行った後に、エルザは病室から姿を消してしまっていたのだ。
オレの置き手紙には『ハリト、ありがとう』と一文だけ書かれてあった。

おそらエルザは責任を感じているのかもしれない。
心の整理が付いていないのかもしれない。

だからオレは今回、後を追わないことにした。
いつか彼女が笑顔で戻ってくることを、信じて待つことにしたのだ。

「ふう……よし、それじゃ待ち合わせ場所にいくか」

少し早いが、待ち合わせ場所に向かう。
マリエルとミーケははまだいない。

二人とも準備が終わったら、やってくるはずだ。
屋敷の中で少し待つ。

「お待たせしました、ハリト様」

「待たせたニャー!」

少し経ってから、マリエルとミーケがやってきた。
二人とも女の子らしい背負い袋を、背負っている。

「ん? ミーケは随分と荷物が少ないね?」

「ん? そうかニャー? これで多い方ニャン。なんだったら裸一貫ででも大丈夫ニャン!」

「あっはっはは……さすがに王都を裸で歩いていたら、憲兵さんい捕まっちゃうよ、ミーケ」

「そうニャん? 王都も面倒くさそうニャん」

猫獣人であるミーケは、服や物に固執しない。
どこでも自由に生きていける、自然児なのだ。

「そういえばマリエルも、そんな少ない荷物で大丈夫?」

「はい、ハリト様。私は王都に実家があるので」

「あっ、そうか」

たまに忘れてしまうけど、マリエルは王女様。
王都生まれの王都育ち。
今回は里帰りみたいな感覚なのだ。

「よし、それじゃそろそろ出発しようか?」

「はい!」

「ニャー!」

荷物の最終チェックも終わったので、玄関ホール向かう。
待っていたのは屋敷の皆さん。

まずは屋敷の女主イザベーラさんに、挨拶をする。
イザベーラさんも後日、王都に応援に来てくれるという。

メイドさんたちと執事の人たちにも、今までことを感謝していく。

門番の剣士さんにも感謝だ。
今後のマリエルのことを守ることを、オレは誓う。

「みんな、ありがとニャー!」

あっ、そういえば。
ミーケが猫獣人であることは、今では屋敷の人は知っている。

以前、猫好きのイザベーラさんに抱っこされた時に、正体がバレてしまったのだ。
でも屋敷の皆は、ミーケのことを大歓迎。

むしろオレよりも猫獣人のミーケの方が、人気があった。

「みなさん、ありがとうございました! また戻ってきます!」

今回は短期留学だが、何ヶ月かかるか分からない。
オレは最後に後ろを振り返り、屋敷の人たちに挨拶をする。

その後、オレたち三人は屋敷から、学園の校門へと歩いていく。
遠目に、校舎が見えてきた。

「短期留学だけど、なんか、寂しいニャー……」

「そうですわね……」

通い慣れた学び舎を目にして、ミーケとマリエルは感傷的になっていた。
次は王都学園に通うことなる。

年頃の少女にとって、思い出の地を離れるのは辛いことなのだ。

「ん? なんだ?」

――――その時であった。

オレは何かの声に気が付く。
校舎の一室から、何かの叫び声が聞こえてきたのだ。

「もしかして……あれは、クラスの皆⁉」

教室の窓から顔を出してきたのは、クラスメイトたち。
まだ授業中だというのに、全員が外を向いて手を振ってきたのだ。

「マリエル様! 頑張ってください!」

「王都学園でも負けないでください!」

「ミーケちゃん、ファイトだぜ!」

「オレたちキタエル学園の代表として、頑張ってくれよ!」

クラスの皆は大きな叫んできた。

キタエル学園一年の代表者であるオレたちの背中を、激励という声で押してくれたのだ。

そして校舎からの声援は、更に広がっていく。
他のクラスの人たちも、窓から声援を送ってきたのだ。

「おい、ハリト! お前も頑張れよ!」

「王都のエリート連中に負けるんじゃないぞ」

「オレたちの分まで頼んだぜ!」

一年の全クラスの人たちだ。
誰もが激励の声を送ってきた。

そういえ選抜戦以降は、他のクラスの人とも急に仲良くなった気がした。
本気で剣を交えて、他校生を倒したことによって、オレのことを仲間として見ていてくれたのだ。

「みんな……まだ授業中だというのに……」

おそらく全員、後で先生に怒られるであろう。
だが叱られるのを覚悟までして、皆は激励してくれたのだ。

「まったく、もう……」

思わず胸が熱くなる。
こんな熱い想いは初めて。

キタエル剣士学園に入学して、本当に良かった。

「ふう……さて、皆の分まで、王都で頑張ろう!」

「そうだニャン、ハリトたん!」

「ですわね! 皆さんの想いを胸に!」

もはや三人とも感傷的にはなっていない。

仲間たちから託された想いと声援を受けて、覚悟を決めていたのだ。

「それじゃ、再出発前にハリトたん、例のアレをやろうニャン!」

「えっ、アレを? 皆が見ている、こんな場所で⁉」

「ですわね! 景気づけに頼みます、ハリト様!」

いつもだったら恥ずかしいが、今だったらやれる気がする。
三人で円陣を組む。

「そうだね、それじゃいくよ……『ハリト団、ファイト!』」
「「「おー!」」」

こうしてオレたち三人は新たな地、王都に向かうのであった。













そんなハリト団一行を、更に遠くから見つめている一人の少女がいた。

「ハリト……私も、もっと強く……自分の負の部分に二度と負けないくらいに、強くなってくるから……」

かつて【聖女】と呼ばれた少女は、王都とは別の方角へと旅立つ。

その視線の先にあるのは、伝説の【剣神】が住むと言われる紅蓮山脈。

「またハリトに会えるようになった時は……私のこの気持ちを伝えるんだから……」

こうしてエルザも過酷な修行へと旅立つのであった。
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みんなの感想(22件)

拗らせ大王
2020.08.11 拗らせ大王

慢心したらダメでしょう?邁進しないと。

解除
ヒロカレー
2020.06.03 ヒロカレー

エルザの失踪時に捜索してたのはハルトだけでなく
王族殺害未遂犯として国中から捜索されるべきでは?
立場上、貴族の養父にも知らん振りなんて出来ず
何らかの責任をとってもらう必要もある重い国家的事案だし。
ハルトの幼馴染だから、とマリエルが庇う表現も全くなかったし。
ハルト目線なら最低限に庇う気もするだろうけど、
マリエルにしてみれば、目の前で好きな男が散々罵倒されて
自分にも侮辱的な暴言を吐かれていきなり殺されかけた
最悪な経験しか残らないだけだから。

解除
Last Mob
2020.05.31 Last Mob

学園選抜だったのでは?
話が繋がらない、どうして他の学園が来るの? 説明不足後で解釈は愚の骨頂!
盛り上げようとするのは分かるが、手順が悪い。
選抜戦が始まるまでに、ある程度の説明があった方がいい。

解除
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