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第五章 コトリバコ編

242話

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「なるほど……な」

 俺を殺す! と、言う殺意に満ちた視線を向けてくる2匹の鬼。
その眼を真正面から受け止めつつ、俺は鬼の後ろで必死に立ち上がろうとしている純也へと視線を向けるが――、

「どこを見ている!」

 頭上から俺目掛けて落下してくる鬼。
 手には刃が燃える日本刀を手にしており、それを俺目掛けて振り下ろしてくる。

「面白い」

 迎撃する構えを取ったところで――、「待て! やめろ!」と、純也が叫んでくるが、鬼は剥き出しの殺気を一切! 抑えることなく日本刀を振り下ろしてくる。
 振り下ろされた日本刀の峰を拳で殴り軌道を逸らす事で最小限の動きで、鬼の攻撃を避けると同時に、その場で跳躍し体を空中で横回転させながら、氷の矢を避けつつ、鬼の腕を掴んだまま胴回し蹴りを鬼の頭へと放つ。
 分厚いタイヤを蹴ったような感触と共に、鬼の巨体が3メートルほど吹き飛ぶ。

「やはり固いな」

 続けざまに、離れた個所から氷の矢を放ってくる鬼。
 それらの攻撃は早くはあるが直線的。
 避けることは難しくない。

「やはり当たらんか!」
「当然だ」
 
 身体強化どころか波動結界すら使わず足さばきと重心移動から来る攻撃だけで、2匹の鬼の初撃を凌ぎつつ、呟く。

「その程度の攻撃で、この俺が倒せると思うのか?」
「主よ! この者は、手加減をしていたら勝負になりませぬ! 力の行使の許可を!」
「駄目だ! お前の攻撃は炎を纏う。そんな攻撃をしたら優斗を――、下手したら――」
「ですが!」
「やれやれ――、無能な――、いや……覚悟の無い主を持つと苦労するな?」
「貴様っ!」
「力の差を分かっているのは鬼だけで、純也は、俺との力の差が理解できてないらしい」

 戦いの場において、相手を殺さずに戦おうなぞ、どこまで甘いのか。
 まぁ、それは俺も同じか……。

「少し本気で行くぞ」
 
 身体強化を行うと同時に、吹き飛ばした鬼へと一瞬で近づく。

「――おのれ!」

 鬼が拳を振り下ろしてくるが、その拳を左手で受け止める。
 威力だけは、凄まじいのは――、受け止めた際の破壊力が伝導し、俺の足元の砕けた闘技場の床が証明している。
 俺は鬼の手を掴んだまま、鬼を頭上へと投げる。
 数十メートルの高さまで吹き飛ばした鬼を見上げ――、そして……俺は、咄嗟に飛来してきた10本近い氷の矢を全て素手で破壊する。

「馬鹿な!」
「言っただろう? 少し本気を見せると――」

 砕けた闘技場の破片を投げる。
 俺が投げた破片は10センチほどの大きさだが、身体強化された腕力から放たれた破片は音速を超える。
 投げた闘技場の破片は、鬼の足を吹き飛ばす。
 そして、鬼は闘技場の上に落下すると、日本刀を杖代わりにして立ち上がる。

「――さて、純也」
「優斗……」
「お前、一体、何をしているんだ?」
「何?」
「お前を守るために、こいつらは俺を殺すつもりで出てきた。だが、お前は愚かにも、俺を殺すのが嫌だという理由だけで、こいつらの力に制限をかけている。さらにもっと言えば――」

 俺は肩を竦める。

「お前は、誰かを傷つける為に、自身の手は汚さずに自分以外の誰かに任せるつもりなのか?」
「――なっ!」

 目を見開く純也。

「言っておくぞ。お前に足りない覚悟は、相手を殺す覚悟。そして――、殺した結果を受け止める心構えだ。そのどれもが、お前には足りてない」
「……それは……」
「お前は、死ぬ覚悟すら出来ていない」
「――ッ」
「死ぬ覚悟なんてモノは誰でも出来る。それすら、お前は出来ていない。さらに自分の手を汚す覚悟も、相手を殺すという気概すらない。そんな奴が戦場で使い物になるはずがない」


 


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