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第五話
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「茉莉ちゃんのパパ、そして真夏さんの婚約者……あの、まだ話が見えてこないんですが」
「そうですよね。なので順番にお話しします。まず、茉莉ちゃんのパパの件ですが、仕事の都合で一年ほど伯父様と伯母様が海外に行かないといけなくなったそうなんです。あの三が日に起きたというトラブルの関係で」
「海外に……」
「冬矢さん、株式会社タノモギという名前をご存じですか?」
「え? あ、はい。オモチャをメインで扱ってる企業ですけど……え、まさか」
真夏さんは静かに頷く。
「ご想像の通りです。伯父様と伯母様は株式会社タノモギの社長と副社長、そして茉莉ちゃんは社長令嬢なんです。なので、三が日であろうと会社のトラブルを解決するためにお二人は途中で向かわなければいけなかったんです」
「なるほど……」
「海外でのお仕事をしないといけないのはその通りなのですが、茉莉ちゃんは生まれながら軽度のパニック障害を持っていて、まだ人混みの中は大丈夫なんですが、乗り物に乗ると症状が出てしまうので伯父様達も連れていきたくても連れていく事が出来ない状況なんです」
「それで、アダ名とはいえパパって呼んで慕ってくれる俺に白羽の矢が立ったわけですね」
「もちろん、ママとして私もそのお手伝いはします。なので、冬矢さんには一時的に私と茉莉ちゃんとの共同生活をしてもらう事にはなります」
「二人との共同生活……」
それを聞いて、俺の頭の中にその光景が浮かぶ。真夏さんや茉莉ちゃんと一緒に食事をしたりどこかに出掛けてみたり、そんな本当の家族のように過ごす俺達の姿が浮かんで、いいなと感じた。
「とりあえず両親にも相談してからにはなりますけど、俺はもちろん大丈夫ですよ。あの日出会ったのも何かの縁ですし、そういう事情があるならお手伝いしたいです」
「ありがとうございます。伯父様達も冬矢さんのご両親にご挨拶には伺うと言っていたので、その際に改めて説明はします。次に私の婚約者になってもらいたい件ですが、これは私の両親からのお願い事なんです」
「真夏さんのご両親……もしかして、真夏さんのご両親も……」
「はい。父は田母神製薬の社長の田母神真宙、母はミツナの名前で活動している作家の田母神夏海です。以前から父は取引先や会食などでお会いした方から私との縁談を持ち込まれていたそうなのですが、それがあまりにも多い上にこれだと思える相手がいなかったそうです。そんな時に私が冬矢さんのお話をしたところ、二人とも冬矢さんに可能性を感じたそうで、私が嫌じゃなければ冬矢さんに婚約者になってもらえないか打診してほしいと言ってきたのです」
「可能性って、俺はそんなに優れた人間じゃないですよ。家だって普通の家庭ですし」
それを聞いた真夏さんは微笑んでから俺の手を握ってきた。
「あ……」
「冬矢さんは本当にすごい人ですよ。それに、家庭がどうとかは関係ないですし、私も冬矢さんなら婚約者になってほしいと思っています。だからこうしてお話をしたんです」
「真夏さん……」
「もちろん断ってもらっても構いません。ですが、冬矢さんさえよければ、この件を受けていただけませんか?」
真夏さんは真剣な顔で言う。けれど、その表情は少し不安そうであり、その姿を見た瞬間に俺の答えは決まった。
「わかりました、真夏さん。これもまずは両親にも相談してからにはなりますけど、俺はもちろん構いません」
「冬矢さん……」
「やっぱり俺は真夏さんに釣り合うような男ではないと思いますけど、それならそうなれるように頑張ればいいだけですから。だから、それを見守っていてください。隣で、ずっと」
「はい、もちろんです。ふふ、素敵なプロポーズでしたよ」
「結婚自体はまだ先の話ですけどね。とりあえず今日帰ったら両親にも話してみます。婚約者の件や茉莉ちゃんとの共同生活の件、そしていつ頃なら話し合いの時間を作れそうか」
「はい、ありがとうございます。私も両親や伯父様達にお話をしてみます。冬矢さん、改めてこれからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
安心したように笑う真夏さんに俺も安心感を抱く。俺自身の力なんてまだちっぽけで、周りから見れば俺と真夏さんは釣り合いが取れていないだろう。けれど、やると決めた以上は自分を高めるためにいっぱいやろう。そしていつかは、周りからも認められるようになるんだ。
真夏さんを見ながらそう誓い、まずは何が出来るかを考えようとした時、真夏さんはクスッと笑ってから俺の鼻先を人差し指でツンとつついた。
「わっ……ど、どうしたんですか?」
「まだとはいえ、婚約者の私を前にしながら他の事を考えてるからですよ。私の前では私の事をメインにしてください。いいですか?」
「それはいいですけど、もしかして真夏さんって結構焼きもち妬く方ですか?」
「私だって甘えたい時があるだけですよ。これまで両親以外に甘えられる相手なんていませんでしたから、年下とはいえ甘えられる相手が増えそうなのは嬉しいんです。生徒会長もそうですが、普段は品行方正で成績優秀な優等生を演じてますからそれがどうにも苦になる時もあるんです」
「たしかにストレスは多そうですよね。生徒からも先生達からも頼られて、それでいて成績優秀なのが当然な人のように見られるわけですから」
「そうなんです。だから、両親の前と貴方の前だけではそんな私から抜け出して、甘えん坊な私でいさせてください。もちろん、冬矢さんが甘えてきてくれてもいいですけどね」
真夏さんがクスッと笑う。その無邪気さが不思議と茉莉ちゃんと重なって見え、やはり従姉妹なんだなと感じた。
そんな真夏さんを愛おしく思い、こんな可愛らしい人の婚約者になれる事を嬉しく感じていた時、生徒指導室のドアがガタリと鳴った。
「誰だろ……」
「先生であればノックはすると思いますし、私か冬矢さんのクラスメートかもしれませんね。もうホームルームも終わっている時間ですから」
「え?」
それを聞いて俺は携帯電話を取り出す。すると、真夏さんが言うように時間はかなり経っていた。
「いつの間に……でも、よくわかりましたね?」
「ふふっ、私って結構体内時計が正確なんですよ。なので、だいたいの感覚で動く事が出来るんです」
「それはすごいですね。それじゃあ一度教室に戻らないといけませんね」
「はい。せっかくなので、冬矢さんさえよかったら一緒に下校しませんか? 私も今日は生徒会の仕事はないので、色々お話がしたいんです」
「もちろんいいですよ。それじゃあまた後で昇降口で待ち合わせましょうか」
「はい。それではまた後で」
「また後で」
真夏さんと声を掛け合った後、俺は生徒指導室を出た。そして教室に戻ろうとしたその時だった。
「ねえ」
突然声をかけられて立ち止まる。そちらに顔を向けると、そこにはあまり顔を合わせたくない相手がいた。
「お前か、愛花」
別れたばかりの元カノ、内藤愛花がそこにはいた。けれど、もう愛花への愛情なんてのは俺にはない。他に好きな相手が出来たと言って自分から別れを告げてきた上にその相手の自慢ばかりしてきた奴とこれ以上顔を合わせたくない。
「何か用か。俺はお前に用なんてないけど」
「生徒指導室で何をしてたの」
「お前には関係ないだろ。もう俺とお前はただのクラスメートでしかないんだからな」
愛花に対して俺は吐き捨てるように言う。こんな奴と一緒にいたくないし、一緒にいるところを真夏さんに見られたくはなかった。
「用事がそれだけなら俺は行くぞ」
「ま、待ってよ!」
それを無視して俺は歩き始めた。薄情なのかもしれないが、俺の気持ち的には正直どうでもよかった。愛花の事よりも優先したい事があったのもあるが、愛花の顔をこれ以上見たくなかったのだ。
「……諦めない」
そんな声が聞こえた気がしたが、俺は気のせいだと思ってそのまま教室に向けて歩いていった。
「そうですよね。なので順番にお話しします。まず、茉莉ちゃんのパパの件ですが、仕事の都合で一年ほど伯父様と伯母様が海外に行かないといけなくなったそうなんです。あの三が日に起きたというトラブルの関係で」
「海外に……」
「冬矢さん、株式会社タノモギという名前をご存じですか?」
「え? あ、はい。オモチャをメインで扱ってる企業ですけど……え、まさか」
真夏さんは静かに頷く。
「ご想像の通りです。伯父様と伯母様は株式会社タノモギの社長と副社長、そして茉莉ちゃんは社長令嬢なんです。なので、三が日であろうと会社のトラブルを解決するためにお二人は途中で向かわなければいけなかったんです」
「なるほど……」
「海外でのお仕事をしないといけないのはその通りなのですが、茉莉ちゃんは生まれながら軽度のパニック障害を持っていて、まだ人混みの中は大丈夫なんですが、乗り物に乗ると症状が出てしまうので伯父様達も連れていきたくても連れていく事が出来ない状況なんです」
「それで、アダ名とはいえパパって呼んで慕ってくれる俺に白羽の矢が立ったわけですね」
「もちろん、ママとして私もそのお手伝いはします。なので、冬矢さんには一時的に私と茉莉ちゃんとの共同生活をしてもらう事にはなります」
「二人との共同生活……」
それを聞いて、俺の頭の中にその光景が浮かぶ。真夏さんや茉莉ちゃんと一緒に食事をしたりどこかに出掛けてみたり、そんな本当の家族のように過ごす俺達の姿が浮かんで、いいなと感じた。
「とりあえず両親にも相談してからにはなりますけど、俺はもちろん大丈夫ですよ。あの日出会ったのも何かの縁ですし、そういう事情があるならお手伝いしたいです」
「ありがとうございます。伯父様達も冬矢さんのご両親にご挨拶には伺うと言っていたので、その際に改めて説明はします。次に私の婚約者になってもらいたい件ですが、これは私の両親からのお願い事なんです」
「真夏さんのご両親……もしかして、真夏さんのご両親も……」
「はい。父は田母神製薬の社長の田母神真宙、母はミツナの名前で活動している作家の田母神夏海です。以前から父は取引先や会食などでお会いした方から私との縁談を持ち込まれていたそうなのですが、それがあまりにも多い上にこれだと思える相手がいなかったそうです。そんな時に私が冬矢さんのお話をしたところ、二人とも冬矢さんに可能性を感じたそうで、私が嫌じゃなければ冬矢さんに婚約者になってもらえないか打診してほしいと言ってきたのです」
「可能性って、俺はそんなに優れた人間じゃないですよ。家だって普通の家庭ですし」
それを聞いた真夏さんは微笑んでから俺の手を握ってきた。
「あ……」
「冬矢さんは本当にすごい人ですよ。それに、家庭がどうとかは関係ないですし、私も冬矢さんなら婚約者になってほしいと思っています。だからこうしてお話をしたんです」
「真夏さん……」
「もちろん断ってもらっても構いません。ですが、冬矢さんさえよければ、この件を受けていただけませんか?」
真夏さんは真剣な顔で言う。けれど、その表情は少し不安そうであり、その姿を見た瞬間に俺の答えは決まった。
「わかりました、真夏さん。これもまずは両親にも相談してからにはなりますけど、俺はもちろん構いません」
「冬矢さん……」
「やっぱり俺は真夏さんに釣り合うような男ではないと思いますけど、それならそうなれるように頑張ればいいだけですから。だから、それを見守っていてください。隣で、ずっと」
「はい、もちろんです。ふふ、素敵なプロポーズでしたよ」
「結婚自体はまだ先の話ですけどね。とりあえず今日帰ったら両親にも話してみます。婚約者の件や茉莉ちゃんとの共同生活の件、そしていつ頃なら話し合いの時間を作れそうか」
「はい、ありがとうございます。私も両親や伯父様達にお話をしてみます。冬矢さん、改めてこれからよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
安心したように笑う真夏さんに俺も安心感を抱く。俺自身の力なんてまだちっぽけで、周りから見れば俺と真夏さんは釣り合いが取れていないだろう。けれど、やると決めた以上は自分を高めるためにいっぱいやろう。そしていつかは、周りからも認められるようになるんだ。
真夏さんを見ながらそう誓い、まずは何が出来るかを考えようとした時、真夏さんはクスッと笑ってから俺の鼻先を人差し指でツンとつついた。
「わっ……ど、どうしたんですか?」
「まだとはいえ、婚約者の私を前にしながら他の事を考えてるからですよ。私の前では私の事をメインにしてください。いいですか?」
「それはいいですけど、もしかして真夏さんって結構焼きもち妬く方ですか?」
「私だって甘えたい時があるだけですよ。これまで両親以外に甘えられる相手なんていませんでしたから、年下とはいえ甘えられる相手が増えそうなのは嬉しいんです。生徒会長もそうですが、普段は品行方正で成績優秀な優等生を演じてますからそれがどうにも苦になる時もあるんです」
「たしかにストレスは多そうですよね。生徒からも先生達からも頼られて、それでいて成績優秀なのが当然な人のように見られるわけですから」
「そうなんです。だから、両親の前と貴方の前だけではそんな私から抜け出して、甘えん坊な私でいさせてください。もちろん、冬矢さんが甘えてきてくれてもいいですけどね」
真夏さんがクスッと笑う。その無邪気さが不思議と茉莉ちゃんと重なって見え、やはり従姉妹なんだなと感じた。
そんな真夏さんを愛おしく思い、こんな可愛らしい人の婚約者になれる事を嬉しく感じていた時、生徒指導室のドアがガタリと鳴った。
「誰だろ……」
「先生であればノックはすると思いますし、私か冬矢さんのクラスメートかもしれませんね。もうホームルームも終わっている時間ですから」
「え?」
それを聞いて俺は携帯電話を取り出す。すると、真夏さんが言うように時間はかなり経っていた。
「いつの間に……でも、よくわかりましたね?」
「ふふっ、私って結構体内時計が正確なんですよ。なので、だいたいの感覚で動く事が出来るんです」
「それはすごいですね。それじゃあ一度教室に戻らないといけませんね」
「はい。せっかくなので、冬矢さんさえよかったら一緒に下校しませんか? 私も今日は生徒会の仕事はないので、色々お話がしたいんです」
「もちろんいいですよ。それじゃあまた後で昇降口で待ち合わせましょうか」
「はい。それではまた後で」
「また後で」
真夏さんと声を掛け合った後、俺は生徒指導室を出た。そして教室に戻ろうとしたその時だった。
「ねえ」
突然声をかけられて立ち止まる。そちらに顔を向けると、そこにはあまり顔を合わせたくない相手がいた。
「お前か、愛花」
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「何か用か。俺はお前に用なんてないけど」
「生徒指導室で何をしてたの」
「お前には関係ないだろ。もう俺とお前はただのクラスメートでしかないんだからな」
愛花に対して俺は吐き捨てるように言う。こんな奴と一緒にいたくないし、一緒にいるところを真夏さんに見られたくはなかった。
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それを無視して俺は歩き始めた。薄情なのかもしれないが、俺の気持ち的には正直どうでもよかった。愛花の事よりも優先したい事があったのもあるが、愛花の顔をこれ以上見たくなかったのだ。
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