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第二十七話
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11月の半ばの朝、俺が部屋で勉強をしていた時、ドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは真夏さんを連れた茉莉ちゃんだった。
「真夏さん、それに茉莉ちゃんも。どうしたの?」
「ねーねー、今日っていいふーふの日なんだよね?」
「いい夫婦の日……ああ、言われてみれば今日は22日か」
11月22日は一般的にいい夫婦の日と言われている。文化の日や勤労感謝の日などもある11月をゆとりの創造月間にしようと政府が提唱した事でとある団体が夫婦で余暇を楽しむライフスタイルというスローガンを掲げて制定したのがいい夫婦の日であり、その後もいい夫婦の日の勧める団体が出てきたりその年における理想の夫婦を選出するイベントも出てきたり、と日本でも有名な日の一つだ。
「でも、それがどうしたの?」
「あのねあのね、パパとママで今日はお出掛けしてきたらどうかなって」
「お出掛け?」
「茉莉ちゃんが言うには、私達はまだ夫婦ではないにしても先日パーティーでも婚約を発表した仲、恋人同士なので今日くらいは自分を気にせずに出掛けてきたらどうかという事なのです」
「なるほど。たしかに婚約者同士ってことは一般的には恋人同士って事になりますからね」
それを口にして俺は少し照れてしまった。まだしっかりとした告白もしていないから俺達はまだ恋人同士ではないが、お互いに好意があるのは間違いなくて、両家の親公認の婚約者である上に先日会社のパーティーで公表したのだから世間的に見れば俺達は恋人同士のようなものだ。それを改めて感じて照れてしまったのだ。それは真夏さんも同じようで、茉莉ちゃんの隣で軽く俯きながら顔を赤くしていた。
「ふふ……改めてそれを口にされるとなんだか照れてしまいますね」
「たしかに。でも、そんな情報どこから聞いたの?」
「真宙叔父さんと夏海叔母さん! それでね、今日は日曜日だし、パパとママのために私のお世話をしてくれるっていうから、パパとママはお出掛けしてきてほしいの」
「真宙さん達か……」
その気持ちは嬉しいし、それを無碍にする気はない。何より、先日のパーティーもそうだけど、受験で忙しい真夏さんの気分転換になるなら俺も真夏さんと出掛けたい。
「それじゃあ出掛けましょうか、真夏さん。真宙さん達の気遣いを無駄にしたくないですし、俺達って何だかんだでデート的な事をしてなかったので俺は真夏さんとデートがしたいです」
「で、デート……そうですね。私もいずれは冬矢さんとデートをしたいなと思っていましたし、これもいい機会ですからね」
「はい。それじゃあ着替えたらすぐに行きましょうか。茉莉ちゃん、いい子にしててね」
「うん! パパ、ママ、楽しんできてね!」
笑顔の茉莉ちゃんに二人揃って頷き、俺達は出かける準備を始めた。それから数分後、軽く身だしなみを整えた後に俺達は茉莉ちゃんに見送られながら家を出て少し肌寒くなってきた中を歩き始めた。
「さて、どこに行きましょうか。流石に夜には帰るとして、お昼に帰ったら茉莉ちゃんに怒られちゃいますし」
「ふふ、そうですね。せっかくなので電車に乗って少し遠くまで行って、お昼ご飯を食べたり色々なお店をまわったりしてみましょう。デートだと考えて変に気を張るよりは普通のお出掛けだと考えた方が楽しいと思いますし、お留守番してくれている茉莉ちゃんに何かを買っていってあげたいですから」
「そうですね。それじゃあまずは駅まで行きますか」
「はい」
俺達は最寄りの駅まで向かい、切符を買って電車に乗った。そして二駅離れた大きな駅に着いた後、俺達は駅を出てから街中を歩き始めた。もう少しで12月になるという事もあってか、街には厚着をしている人が多くいて、気温もやっぱり冬に近い物になっていた。
「やっぱりもう肌寒くなってきましたね。茉莉ちゃんもそうですけど、俺達もまた風邪を引かないように体調管理はしっかりとしないとですね」
「そうですね。あの時はお休みさせてまでお世話してもらいましたし、嬉しさはあっても申し訳なさはあったので風邪を引かないのが一番ですね」
「はい。それにしても、この生活もあと二か月くらいなんですね……」
「はい……」
そう、楽しいこの共同生活も1月になって少し経てば終わりだ。俺達は婚約者でいずれは結婚して夫婦になるつもりだからまた一緒に暮らす事は出来るけど、茉莉ちゃんは違う。実の両親である松也さんと結里さんが戻ってきて三人での生活に戻るけれど、俺達がまた三人での生活をする機会は恐らくない。そもそもこの生活だって茉莉ちゃんがパニック障害で飛行機に乗られないからそれが理由で海外に行く松也さん達についていけなかったからなのだから、それがなくなれば俺達がまた一緒に暮らす理由はないのだ。覚悟していた事ではあるけれど、それはやっぱり寂しかった。
「俺達って本当に茉莉ちゃんに元気づけられてきましたよね。パパママって呼んで慕ってくれている上に今日みたいに何かを考えてはそれを実行したり提案してくれたりしていたわけですし、茉莉ちゃんがいなかったらここまでうまく行っていたかわからないかもしれませんね」
「そうですね。私達もお互いに想い合いながら生活はしていたと思いますが、茉莉ちゃんの存在は私達の関係にとっていいクッションになっていたと思います。だからこそ不要な衝突もなく来られたと思いますし、茉莉ちゃんには感謝しかありませんよ」
「はい。ただ、今後俺達が同棲したり結婚して夫婦になったりした際は茉莉ちゃんに頼りきりにはなれません。だからこそ、もっとお互いの事を知って、時には絆を深めるためのケンカも必要になってくる気がします。もちろん、ケンカしなくて済むならそれに越した事はないですけど、お互いに変に遠慮しながらの生活だといい夫婦にはなれない気がしますから」
「同感です。冬矢さん、私も頑張っていきますから誰からも羨まれるような夫婦になれるように頑張っていきましょうね」
「はい」
俺達は笑い合い、自然と手を繋いだ。もちろん、全てがうまく行く夫婦なんてのはないだろうし、ちょっとした衝突が大きな亀裂になってそれが原因で離婚する人達もいるだろう。俺達だってそうならないとも限らない。けれど、お互いにこうして想い合っていて、お互いにケンカをしながらでも頑張ろうと決めた事で俺達の絆はより深まった。これなら大丈夫だろうと確信出来たのだ。
そして俺達は街中を歩いてウインドウショッピングをしながら茉莉ちゃんのお土産によさそうなものを探し、俺達にとって馴染み深くなったファミレスでお昼ご飯を食べた。そんなこんなで時間もゆっくりと過ぎていき、ある程度街中を見終わって、茉莉ちゃんだけじゃなく真宙さんと夏海さんに渡すお土産も見繕った頃、空はすっかり暗くなっていてそろそろ帰らないといけない時間になっていた。
「もうだいぶ暗くなってきましたね。真夏さん、寒くないですか?」
「大丈夫ですよ。冬矢さんこそ大丈夫ですか?」
「俺も大丈夫です。しっかりと厚着をしているからというのもありますけど、やっぱり真夏さんが近くにいてくれるからかとても身も心もあたたかいです」
「ふふ、同じですね。私も冬矢さんがいるからかいつものこの時期よりもあたたかく感じますし、なんだったらもう少し外にいてもいいかなと思うくらいです」
「流石に茉莉ちゃんのためにも帰らないとですけどね。それじゃあそろそろ帰りましょうか」
「はい」
俺達は駅に向かって歩き出す。暗くなった空の下を歩き、同じように帰っていく人達の中を抜けていき、もう少しで駅だというところまできたその時だった。
「あ……」
「え? あ……」
突然聞こえた声に驚きながらそちらを見る。するとそこにはもう会う事はないと思っていた人物がいた。
「愛花……」
妊娠をしてお腹がすっかり大きくなった愛花がそこには立っていた。
「どうぞ」
ドアを開けて入ってきたのは真夏さんを連れた茉莉ちゃんだった。
「真夏さん、それに茉莉ちゃんも。どうしたの?」
「ねーねー、今日っていいふーふの日なんだよね?」
「いい夫婦の日……ああ、言われてみれば今日は22日か」
11月22日は一般的にいい夫婦の日と言われている。文化の日や勤労感謝の日などもある11月をゆとりの創造月間にしようと政府が提唱した事でとある団体が夫婦で余暇を楽しむライフスタイルというスローガンを掲げて制定したのがいい夫婦の日であり、その後もいい夫婦の日の勧める団体が出てきたりその年における理想の夫婦を選出するイベントも出てきたり、と日本でも有名な日の一つだ。
「でも、それがどうしたの?」
「あのねあのね、パパとママで今日はお出掛けしてきたらどうかなって」
「お出掛け?」
「茉莉ちゃんが言うには、私達はまだ夫婦ではないにしても先日パーティーでも婚約を発表した仲、恋人同士なので今日くらいは自分を気にせずに出掛けてきたらどうかという事なのです」
「なるほど。たしかに婚約者同士ってことは一般的には恋人同士って事になりますからね」
それを口にして俺は少し照れてしまった。まだしっかりとした告白もしていないから俺達はまだ恋人同士ではないが、お互いに好意があるのは間違いなくて、両家の親公認の婚約者である上に先日会社のパーティーで公表したのだから世間的に見れば俺達は恋人同士のようなものだ。それを改めて感じて照れてしまったのだ。それは真夏さんも同じようで、茉莉ちゃんの隣で軽く俯きながら顔を赤くしていた。
「ふふ……改めてそれを口にされるとなんだか照れてしまいますね」
「たしかに。でも、そんな情報どこから聞いたの?」
「真宙叔父さんと夏海叔母さん! それでね、今日は日曜日だし、パパとママのために私のお世話をしてくれるっていうから、パパとママはお出掛けしてきてほしいの」
「真宙さん達か……」
その気持ちは嬉しいし、それを無碍にする気はない。何より、先日のパーティーもそうだけど、受験で忙しい真夏さんの気分転換になるなら俺も真夏さんと出掛けたい。
「それじゃあ出掛けましょうか、真夏さん。真宙さん達の気遣いを無駄にしたくないですし、俺達って何だかんだでデート的な事をしてなかったので俺は真夏さんとデートがしたいです」
「で、デート……そうですね。私もいずれは冬矢さんとデートをしたいなと思っていましたし、これもいい機会ですからね」
「はい。それじゃあ着替えたらすぐに行きましょうか。茉莉ちゃん、いい子にしててね」
「うん! パパ、ママ、楽しんできてね!」
笑顔の茉莉ちゃんに二人揃って頷き、俺達は出かける準備を始めた。それから数分後、軽く身だしなみを整えた後に俺達は茉莉ちゃんに見送られながら家を出て少し肌寒くなってきた中を歩き始めた。
「さて、どこに行きましょうか。流石に夜には帰るとして、お昼に帰ったら茉莉ちゃんに怒られちゃいますし」
「ふふ、そうですね。せっかくなので電車に乗って少し遠くまで行って、お昼ご飯を食べたり色々なお店をまわったりしてみましょう。デートだと考えて変に気を張るよりは普通のお出掛けだと考えた方が楽しいと思いますし、お留守番してくれている茉莉ちゃんに何かを買っていってあげたいですから」
「そうですね。それじゃあまずは駅まで行きますか」
「はい」
俺達は最寄りの駅まで向かい、切符を買って電車に乗った。そして二駅離れた大きな駅に着いた後、俺達は駅を出てから街中を歩き始めた。もう少しで12月になるという事もあってか、街には厚着をしている人が多くいて、気温もやっぱり冬に近い物になっていた。
「やっぱりもう肌寒くなってきましたね。茉莉ちゃんもそうですけど、俺達もまた風邪を引かないように体調管理はしっかりとしないとですね」
「そうですね。あの時はお休みさせてまでお世話してもらいましたし、嬉しさはあっても申し訳なさはあったので風邪を引かないのが一番ですね」
「はい。それにしても、この生活もあと二か月くらいなんですね……」
「はい……」
そう、楽しいこの共同生活も1月になって少し経てば終わりだ。俺達は婚約者でいずれは結婚して夫婦になるつもりだからまた一緒に暮らす事は出来るけど、茉莉ちゃんは違う。実の両親である松也さんと結里さんが戻ってきて三人での生活に戻るけれど、俺達がまた三人での生活をする機会は恐らくない。そもそもこの生活だって茉莉ちゃんがパニック障害で飛行機に乗られないからそれが理由で海外に行く松也さん達についていけなかったからなのだから、それがなくなれば俺達がまた一緒に暮らす理由はないのだ。覚悟していた事ではあるけれど、それはやっぱり寂しかった。
「俺達って本当に茉莉ちゃんに元気づけられてきましたよね。パパママって呼んで慕ってくれている上に今日みたいに何かを考えてはそれを実行したり提案してくれたりしていたわけですし、茉莉ちゃんがいなかったらここまでうまく行っていたかわからないかもしれませんね」
「そうですね。私達もお互いに想い合いながら生活はしていたと思いますが、茉莉ちゃんの存在は私達の関係にとっていいクッションになっていたと思います。だからこそ不要な衝突もなく来られたと思いますし、茉莉ちゃんには感謝しかありませんよ」
「はい。ただ、今後俺達が同棲したり結婚して夫婦になったりした際は茉莉ちゃんに頼りきりにはなれません。だからこそ、もっとお互いの事を知って、時には絆を深めるためのケンカも必要になってくる気がします。もちろん、ケンカしなくて済むならそれに越した事はないですけど、お互いに変に遠慮しながらの生活だといい夫婦にはなれない気がしますから」
「同感です。冬矢さん、私も頑張っていきますから誰からも羨まれるような夫婦になれるように頑張っていきましょうね」
「はい」
俺達は笑い合い、自然と手を繋いだ。もちろん、全てがうまく行く夫婦なんてのはないだろうし、ちょっとした衝突が大きな亀裂になってそれが原因で離婚する人達もいるだろう。俺達だってそうならないとも限らない。けれど、お互いにこうして想い合っていて、お互いにケンカをしながらでも頑張ろうと決めた事で俺達の絆はより深まった。これなら大丈夫だろうと確信出来たのだ。
そして俺達は街中を歩いてウインドウショッピングをしながら茉莉ちゃんのお土産によさそうなものを探し、俺達にとって馴染み深くなったファミレスでお昼ご飯を食べた。そんなこんなで時間もゆっくりと過ぎていき、ある程度街中を見終わって、茉莉ちゃんだけじゃなく真宙さんと夏海さんに渡すお土産も見繕った頃、空はすっかり暗くなっていてそろそろ帰らないといけない時間になっていた。
「もうだいぶ暗くなってきましたね。真夏さん、寒くないですか?」
「大丈夫ですよ。冬矢さんこそ大丈夫ですか?」
「俺も大丈夫です。しっかりと厚着をしているからというのもありますけど、やっぱり真夏さんが近くにいてくれるからかとても身も心もあたたかいです」
「ふふ、同じですね。私も冬矢さんがいるからかいつものこの時期よりもあたたかく感じますし、なんだったらもう少し外にいてもいいかなと思うくらいです」
「流石に茉莉ちゃんのためにも帰らないとですけどね。それじゃあそろそろ帰りましょうか」
「はい」
俺達は駅に向かって歩き出す。暗くなった空の下を歩き、同じように帰っていく人達の中を抜けていき、もう少しで駅だというところまできたその時だった。
「あ……」
「え? あ……」
突然聞こえた声に驚きながらそちらを見る。するとそこにはもう会う事はないと思っていた人物がいた。
「愛花……」
妊娠をしてお腹がすっかり大きくなった愛花がそこには立っていた。
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