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黒曜の瞳に囚われて
最終章:真実のダイヤモンド
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ペントハウスに戻ると、サイラスは私をソファに座らせ、自分は私の前に跪いた。
「まず、謝罪を。君を危険に晒したことを、心から詫びる」
「いいえ、サイラス様。あなたは私を助けに来てくれました」
「だが、原因を作ったのは私だ。……そして、君を偽りの婚約者という立場に縛り付けたのも、私だ」
彼は一度言葉を切り、そして意を決したように続けた。
「オーレリア。君との契約は、今日限りで終わりにしたい」
その言葉に、私の心臓が凍りついた。終わり。それは、この甘美な鳥籠から解放されることを意味すると同時に、彼との関係が終わることも意味していた。
「……そうですか。……分かりました。お世話に、なりました」
声が震えるのを、必死で抑える。涙が零れ落ちそうになるのを、ぐっと堪える。
そんな私を見て、サイラスは苦しそうに顔を歪めた。
「違う、そうじゃない。……ああ、言葉が足りなかった。私が言いたいのは、偽りの関係は終わりにして、本当の関係を始めたい、ということだ」
「え……?」
「初めて君を見た時、あの夜会で、毅然と元婚約者と対峙する君の姿に、心を奪われた。その瞳の奥にある、決して折れない強い光に。それは、私が母の中に探し求めていたけれど、見つけられなかった光だった」
彼は私の手を取り、その瞳で真っ直ぐに私を見つめた。
「最初は、母の面影を君に重ねていたのかもしれない。君を守ることで、過去の無力だった自分を慰めようとしていたのかもしれない。だが、共に過ごすうちに、分かったんだ。私は、オーレリア・ヴァレリウスという一人の女性を、心から愛してしまったのだと」
彼の告白は、あまりにもストレートで、私の心の壁をいとも簡単に打ち砕いた。
「君の聡明さも、不器用な優しさも、時折見せるはにかんだ笑顔も、全てが愛おしい。君がいない人生など、もう考えられない。だから……」
彼は、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。
その箱をゆっくりと開くと、中には、夜空の全ての星を集めて閉じ込めたかのような、大粒の黒いダイヤモンドの指輪が収められていた。
「これは、偽物じゃない。私の、真実の想いだ。オーレリア、どうか私と、本当に結婚してほしい。私の生涯を、君に捧げたい。君の隣で、君だけを守り、愛し抜くことを、ここに誓う」
溢れ出る涙を、もう止めることはできなかった。
偽りの婚約者。契約の関係。そう割り切ろうとしていたのに、心の奥底では、ずっと彼に惹かれていた。彼の孤独に触れるたびに、彼の不器用な優しさに触れるたびに、愛おしさが募っていた。
「……はい」
私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯頷いた。
「はい……喜んで。私も、サイラス様を……愛しています」
私の返事を聞くと、サイラスは安堵の息を漏らし、そして子供のように無邪気な笑顔を見せた。それは、私が初めて見る彼の表情だった。
彼は私の左手の薬指に、黒いダイヤモンドの指輪をそっとはめた。ひんやりとした感触が、夢ではないことを教えてくれる。
彼は指輪をはめた私の手を恭しく持ち上げると、その甲に、そして涙の跡が残る私の頬に、優しく口づけた。
「ありがとう、オーレリア。……君を手に入れるためなら、世界さえ敵に回す覚悟だった」
「もう、あなたは一人で戦う必要はありません。これからは、私もあなたの隣にいます」
「ああ、そうだな。君は、私の唯一の光だ」
私たちは、どちらからともなく唇を寄せた。
それは、契約でも、偽りでもない、初めての真実の口づけだった。
こうして、私の偽りの婚約者生活は終わりを告げた。
そして、サイラス・ナイトシェードという、世界で一番不器用で、世界で一番私を愛してくれる人の、本当の妻としての人生が始まった。
彼の溺愛は、以前と何も変わらない。いや、むしろ、以前よりも深く、甘くなったかもしれない。
けれど、もうそこに息苦しさはなかった。
なぜなら、その鳥籠はもう、黄金でできた檻ではない。
彼の深い愛で編まれた、世界で一番温かくて、安心できる、私のための巣なのだから。
そして私は、その巣の中で、彼の黒曜の瞳に見守られながら、永遠の愛を誓ったのだった。
「まず、謝罪を。君を危険に晒したことを、心から詫びる」
「いいえ、サイラス様。あなたは私を助けに来てくれました」
「だが、原因を作ったのは私だ。……そして、君を偽りの婚約者という立場に縛り付けたのも、私だ」
彼は一度言葉を切り、そして意を決したように続けた。
「オーレリア。君との契約は、今日限りで終わりにしたい」
その言葉に、私の心臓が凍りついた。終わり。それは、この甘美な鳥籠から解放されることを意味すると同時に、彼との関係が終わることも意味していた。
「……そうですか。……分かりました。お世話に、なりました」
声が震えるのを、必死で抑える。涙が零れ落ちそうになるのを、ぐっと堪える。
そんな私を見て、サイラスは苦しそうに顔を歪めた。
「違う、そうじゃない。……ああ、言葉が足りなかった。私が言いたいのは、偽りの関係は終わりにして、本当の関係を始めたい、ということだ」
「え……?」
「初めて君を見た時、あの夜会で、毅然と元婚約者と対峙する君の姿に、心を奪われた。その瞳の奥にある、決して折れない強い光に。それは、私が母の中に探し求めていたけれど、見つけられなかった光だった」
彼は私の手を取り、その瞳で真っ直ぐに私を見つめた。
「最初は、母の面影を君に重ねていたのかもしれない。君を守ることで、過去の無力だった自分を慰めようとしていたのかもしれない。だが、共に過ごすうちに、分かったんだ。私は、オーレリア・ヴァレリウスという一人の女性を、心から愛してしまったのだと」
彼の告白は、あまりにもストレートで、私の心の壁をいとも簡単に打ち砕いた。
「君の聡明さも、不器用な優しさも、時折見せるはにかんだ笑顔も、全てが愛おしい。君がいない人生など、もう考えられない。だから……」
彼は、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。
その箱をゆっくりと開くと、中には、夜空の全ての星を集めて閉じ込めたかのような、大粒の黒いダイヤモンドの指輪が収められていた。
「これは、偽物じゃない。私の、真実の想いだ。オーレリア、どうか私と、本当に結婚してほしい。私の生涯を、君に捧げたい。君の隣で、君だけを守り、愛し抜くことを、ここに誓う」
溢れ出る涙を、もう止めることはできなかった。
偽りの婚約者。契約の関係。そう割り切ろうとしていたのに、心の奥底では、ずっと彼に惹かれていた。彼の孤独に触れるたびに、彼の不器用な優しさに触れるたびに、愛おしさが募っていた。
「……はい」
私は、涙で濡れた笑顔で、精一杯頷いた。
「はい……喜んで。私も、サイラス様を……愛しています」
私の返事を聞くと、サイラスは安堵の息を漏らし、そして子供のように無邪気な笑顔を見せた。それは、私が初めて見る彼の表情だった。
彼は私の左手の薬指に、黒いダイヤモンドの指輪をそっとはめた。ひんやりとした感触が、夢ではないことを教えてくれる。
彼は指輪をはめた私の手を恭しく持ち上げると、その甲に、そして涙の跡が残る私の頬に、優しく口づけた。
「ありがとう、オーレリア。……君を手に入れるためなら、世界さえ敵に回す覚悟だった」
「もう、あなたは一人で戦う必要はありません。これからは、私もあなたの隣にいます」
「ああ、そうだな。君は、私の唯一の光だ」
私たちは、どちらからともなく唇を寄せた。
それは、契約でも、偽りでもない、初めての真実の口づけだった。
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そして、サイラス・ナイトシェードという、世界で一番不器用で、世界で一番私を愛してくれる人の、本当の妻としての人生が始まった。
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けれど、もうそこに息苦しさはなかった。
なぜなら、その鳥籠はもう、黄金でできた檻ではない。
彼の深い愛で編まれた、世界で一番温かくて、安心できる、私のための巣なのだから。
そして私は、その巣の中で、彼の黒曜の瞳に見守られながら、永遠の愛を誓ったのだった。
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