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静寂の歌姫と冷徹公爵の契約婚
第1章:偽りの夜会
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王都の夜を彩る、煌びやかなシャンデリアの光。王家主催の夜会は、選ばれた貴族たちの社交場であり、同時に、見えない棘が飛び交う戦場でもあった。
伯爵令嬢リリアンヌ・クワイエットは、壁際に置かれた椅子にひっそりと腰掛け、その喧騒をやり過ごしていた。彼女の婚約者である侯爵子息、アレクシス・ド・ロシュフォールは、今夜も友人たちと楽しげに談笑している。その輪の中に、リリアンヌの居場所はない。
「リリアンヌ、少し話がある。こちらへ」
不意に、冷たい声で呼ばれた。アレクシスが、いつになく真剣な表情でリリアンヌの前に立っている。彼の隣には、今をときめく子爵令嬢、イザベラが勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っていた。胸騒ぎを覚えながら、リリアンヌは言われるがままに、少し離れたテラスへと向かった。
ひんやりとした夜風が、リリアンヌの頬を撫でる。
「リリアンヌ・クワイエット。君との婚約を、今この時をもって破棄させてもらう」
アレクシスの言葉は、まるで鋭い氷の刃のようにリリアンヌの胸に突き刺さった。
「……え? あ、あれくしす、さま……? 何かの、ご冗談でしょう?」
「冗談ではない。私は本気だ」
信じられない、というように目を見開くリリアンヌに、アレクシスは追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「理由はわかっているはずだ。君は『無能』だからだ。我がロシュフォール家に、魔力の一つもまともに使えぬ令嬢を嫁がせるわけにはいかない。君のその血は、我が家の栄光を汚すだけだ」
「無能」という言葉が、リリアンヌの心を抉る。確かに、彼女は他の貴族令嬢のように、炎や水といった華々しい魔法を使うことができない。彼女の持つ力は、「音」を操るというあまりにも繊細で、実用性がないとされてきたものだった。小鳥のさえずりを真似たり、風の音を少しだけ変えたりする程度の、取るに足らない力。それが、貴族社会における彼女の評価だった。
「そん、な……。ですが、私たちの婚約は、両家の合意のもとで……」
「状況は変わったんだよ、リリアンヌ嬢」
隣で黙っていたイザベラが、嘲るように口を挟んだ。彼女の手のひらの上では、小さな炎がゆらめいている。これ見よがしな魔力の誇示だった。
「アレクシス様は、私という『真実の愛』を見つけられたの。そして、私のこの力こそが、ロシュフォール家の未来に貢献できる。そうでしょう? アレクシス様」
「ああ、その通りだ、イザベラ。君こそが私の女神だ」
うっとりとイザベラを見つめるアレクシス。その瞳には、もはやリリアンヌの姿は映っていなかった。周囲から、ひそひそとした囁き声と、隠すことすらない嘲笑が聞こえてくる。
「まあ、クワイエット伯爵家のご令嬢が…」
「やはり、魔力なしでは侯爵家には相応しくなかったのよ」
「イザベラ様の方が、よほどお似合いだわ」
世界から音が消えていくような感覚。足元が崩れ落ち、深い奈落へと堕ちていく。リリアンヌは、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
伯爵令嬢リリアンヌ・クワイエットは、壁際に置かれた椅子にひっそりと腰掛け、その喧騒をやり過ごしていた。彼女の婚約者である侯爵子息、アレクシス・ド・ロシュフォールは、今夜も友人たちと楽しげに談笑している。その輪の中に、リリアンヌの居場所はない。
「リリアンヌ、少し話がある。こちらへ」
不意に、冷たい声で呼ばれた。アレクシスが、いつになく真剣な表情でリリアンヌの前に立っている。彼の隣には、今をときめく子爵令嬢、イザベラが勝ち誇ったような笑みを浮かべて寄り添っていた。胸騒ぎを覚えながら、リリアンヌは言われるがままに、少し離れたテラスへと向かった。
ひんやりとした夜風が、リリアンヌの頬を撫でる。
「リリアンヌ・クワイエット。君との婚約を、今この時をもって破棄させてもらう」
アレクシスの言葉は、まるで鋭い氷の刃のようにリリアンヌの胸に突き刺さった。
「……え? あ、あれくしす、さま……? 何かの、ご冗談でしょう?」
「冗談ではない。私は本気だ」
信じられない、というように目を見開くリリアンヌに、アレクシスは追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「理由はわかっているはずだ。君は『無能』だからだ。我がロシュフォール家に、魔力の一つもまともに使えぬ令嬢を嫁がせるわけにはいかない。君のその血は、我が家の栄光を汚すだけだ」
「無能」という言葉が、リリアンヌの心を抉る。確かに、彼女は他の貴族令嬢のように、炎や水といった華々しい魔法を使うことができない。彼女の持つ力は、「音」を操るというあまりにも繊細で、実用性がないとされてきたものだった。小鳥のさえずりを真似たり、風の音を少しだけ変えたりする程度の、取るに足らない力。それが、貴族社会における彼女の評価だった。
「そん、な……。ですが、私たちの婚約は、両家の合意のもとで……」
「状況は変わったんだよ、リリアンヌ嬢」
隣で黙っていたイザベラが、嘲るように口を挟んだ。彼女の手のひらの上では、小さな炎がゆらめいている。これ見よがしな魔力の誇示だった。
「アレクシス様は、私という『真実の愛』を見つけられたの。そして、私のこの力こそが、ロシュフォール家の未来に貢献できる。そうでしょう? アレクシス様」
「ああ、その通りだ、イザベラ。君こそが私の女神だ」
うっとりとイザベラを見つめるアレクシス。その瞳には、もはやリリアンヌの姿は映っていなかった。周囲から、ひそひそとした囁き声と、隠すことすらない嘲笑が聞こえてくる。
「まあ、クワイエット伯爵家のご令嬢が…」
「やはり、魔力なしでは侯爵家には相応しくなかったのよ」
「イザベラ様の方が、よほどお似合いだわ」
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