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紫電の瞳に浄化の光を宿して
第三章:過去の清算
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わたくしの持つ「浄化」の能力の噂は、やがて専門家たちの間で静かに広まり始めていた。そして、それは思わぬ形で、過去の亡霊を呼び覚ますことになる。
その頃、王都では原因不明の魔力の乱れが頻発し、社会問題となっていた。魔力を動力源とする街灯が明滅したり、魔導列車が遅延したりと、市民生活にも影響が出始めていたのだ。
調査の結果、その原因がリリアーナ嬢の持つ、あまりに強大で不安定な魔力にあることが判明した。彼女の存在そのものが、周囲の魔力バランスを崩していたのだ。リシャールは彼女の魔力を制御しようと試みたが、彼の力では到底及ばず、ヴァロワ家の権威は失墜の一途を辿っていた。
そんなある日、工房の扉を叩く者がいた。わたくしが扉を開けると、そこに立っていたのは、憔悴しきった様子のリシャールだった。
「セレスティアナ…!」
彼はわたくしの手を取ろうとして、すんでのところでわたくしは身を引いた。
「ヴァロワ公爵子息。どのようなご用件でしょうか」
わたくしは冷たく言い放った。彼の前で、もう二度と臆する自分ではいたくなかった。
「すまなかった! 私が、私が愚かだったんだ!」
リシャールは、みっともなく取り乱していた。
「君のその力が必要なんだ! 君にしか、リリアーナの魔力を…いや、この国の魔力の乱れを鎮めることはできない! だから、頼む! 私のところへ戻ってきてくれ! もう一度、婚約を…」
「お断りいたします」
わたくしは、彼の言葉を遮った。
「わたくしは、もう貴方様の婚約者ではございません。そして、二度とそうなるつもりもありません」
「なっ…! 私の家名と地位を捨てると言うのか!」
「ええ。わたくしには、家名や地位よりも大切なものがございますので」
わたくしは、きっぱりと言い切った。そうだ、わたくしにはゼファニヤがいる。わたくしの本当の価値を認めてくれた、大切な人が。
「今のわたくしには、わたくしの力を信じ、必要としてくれる人のそばにいる幸福があります。貴方様がかつて捨てられたものの中に、わたくしの全てがありました。どうぞ、お引き取りください」
その時だった。工房の奥から、静かな足音が近づいてきた。
「――その令嬢は、俺の助手だ。勝手に連れ帰られては困る」
ゼファニヤが、腕を組んでリシャールの前に立ちはだかった。その紫電の瞳は、絶対零度の光を放っている。
「貴様は…あの時の平民か! なぜここに!」
「自己紹介がまだだったな。俺はゼファニヤ・レンフィールド。この工房の主で、一応、辺境伯の爵位も持っている」
辺境伯。その言葉に、リシャールは息を呑んだ。一介の魔導具師ではなかったのか。辺境伯といえば、領地こそ王都から遠いが、絶大な権限を持つ大貴族だ。
「レンフィールド辺境伯…だと…? まさか、あの帝国一の魔導具師と名高い…」
「そのまさかだ。そして、セレスは俺の庇護下にある。今後一切、彼女に近づくことも、声をかけることも許さん。もし破れば、ヴァロワ公爵家そのものを敵に回すことになると思え」
ゼファニヤの威圧感に、リシャールは完全に気圧されていた。彼は悔しそうに顔を歪め、わたくしとゼファニヤを交互に見ると、捨て台詞一つ吐けずに逃げるように去っていった。
扉が閉まると、工房に静寂が戻った。
「……ゼファニヤ様」
「ん?」
「ありがとうございました」
「礼を言う必要はない。俺のものを守るのは当然だろう」
さらりと言ってのける彼に、心臓が大きく鳴る。
「俺の…もの…?」
「ああ、そうだ。何か文句でもあるか?」
ゼファニヤは、わたくしの顔を覗き込むようにして、意地悪く笑った。その距離の近さに、わたくしは何も言えなくなり、ただ俯くことしかできなかった。彼の言葉が、わたくしの心に甘く、深く染み渡っていく。過去との決別は、こうして、彼の力強い宣言によって成し遂げられたのだった。
その頃、王都では原因不明の魔力の乱れが頻発し、社会問題となっていた。魔力を動力源とする街灯が明滅したり、魔導列車が遅延したりと、市民生活にも影響が出始めていたのだ。
調査の結果、その原因がリリアーナ嬢の持つ、あまりに強大で不安定な魔力にあることが判明した。彼女の存在そのものが、周囲の魔力バランスを崩していたのだ。リシャールは彼女の魔力を制御しようと試みたが、彼の力では到底及ばず、ヴァロワ家の権威は失墜の一途を辿っていた。
そんなある日、工房の扉を叩く者がいた。わたくしが扉を開けると、そこに立っていたのは、憔悴しきった様子のリシャールだった。
「セレスティアナ…!」
彼はわたくしの手を取ろうとして、すんでのところでわたくしは身を引いた。
「ヴァロワ公爵子息。どのようなご用件でしょうか」
わたくしは冷たく言い放った。彼の前で、もう二度と臆する自分ではいたくなかった。
「すまなかった! 私が、私が愚かだったんだ!」
リシャールは、みっともなく取り乱していた。
「君のその力が必要なんだ! 君にしか、リリアーナの魔力を…いや、この国の魔力の乱れを鎮めることはできない! だから、頼む! 私のところへ戻ってきてくれ! もう一度、婚約を…」
「お断りいたします」
わたくしは、彼の言葉を遮った。
「わたくしは、もう貴方様の婚約者ではございません。そして、二度とそうなるつもりもありません」
「なっ…! 私の家名と地位を捨てると言うのか!」
「ええ。わたくしには、家名や地位よりも大切なものがございますので」
わたくしは、きっぱりと言い切った。そうだ、わたくしにはゼファニヤがいる。わたくしの本当の価値を認めてくれた、大切な人が。
「今のわたくしには、わたくしの力を信じ、必要としてくれる人のそばにいる幸福があります。貴方様がかつて捨てられたものの中に、わたくしの全てがありました。どうぞ、お引き取りください」
その時だった。工房の奥から、静かな足音が近づいてきた。
「――その令嬢は、俺の助手だ。勝手に連れ帰られては困る」
ゼファニヤが、腕を組んでリシャールの前に立ちはだかった。その紫電の瞳は、絶対零度の光を放っている。
「貴様は…あの時の平民か! なぜここに!」
「自己紹介がまだだったな。俺はゼファニヤ・レンフィールド。この工房の主で、一応、辺境伯の爵位も持っている」
辺境伯。その言葉に、リシャールは息を呑んだ。一介の魔導具師ではなかったのか。辺境伯といえば、領地こそ王都から遠いが、絶大な権限を持つ大貴族だ。
「レンフィールド辺境伯…だと…? まさか、あの帝国一の魔導具師と名高い…」
「そのまさかだ。そして、セレスは俺の庇護下にある。今後一切、彼女に近づくことも、声をかけることも許さん。もし破れば、ヴァロワ公爵家そのものを敵に回すことになると思え」
ゼファニヤの威圧感に、リシャールは完全に気圧されていた。彼は悔しそうに顔を歪め、わたくしとゼファニヤを交互に見ると、捨て台詞一つ吐けずに逃げるように去っていった。
扉が閉まると、工房に静寂が戻った。
「……ゼファニヤ様」
「ん?」
「ありがとうございました」
「礼を言う必要はない。俺のものを守るのは当然だろう」
さらりと言ってのける彼に、心臓が大きく鳴る。
「俺の…もの…?」
「ああ、そうだ。何か文句でもあるか?」
ゼファニヤは、わたくしの顔を覗き込むようにして、意地悪く笑った。その距離の近さに、わたくしは何も言えなくなり、ただ俯くことしかできなかった。彼の言葉が、わたくしの心に甘く、深く染み渡っていく。過去との決別は、こうして、彼の力強い宣言によって成し遂げられたのだった。
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