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夜明けのティアラ
第五章:真実の愛の力
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ゼノの過去が暴露されたことで、社交界の風当たりは一気に強まった。彼を「国を揺るがしかねない危険人物」と見なす者が増え、私たちを遠巻きにする貴族たちの態度は、あからさまに冷たくなっていた。
しかし、私の心は不思議なほど穏やかだった。隣には、愛する人がいる。守るべきものが、私にはある。その事実が、私に鋼のような強さを与えてくれていた。
「ゼノ様、私にできることはありませんか?」
書斎で難しい顔をして書類を眺める彼に、私は尋ねた。彼の事業にも、悪意ある噂の影響が出始めているらしかった。
ゼノは顔を上げ、疲れたように微笑んだ。
「君は、ただ私の側にいてくれるだけでいい。それが、私にとって一番の力になる」
「いいえ、それだけでは嫌です」
私はきっぱりと言った。
「私も、あなたのために戦いたいのです」
その日から、私の戦いが始まった。
私は、これまでゼノが私に与えてくれたものを、今度は彼のために使うことにした。
私は、貴婦人たちが集まるサロンや茶会に、一人で積極的に顔を出した。
最初は、誰もが私を好奇の目で見、陰口を叩いた。
「まあ、アステル嬢。まだあのような男と……」
「反逆者の肩を持つなんて、どうかしているわ」
そんな言葉にも、私は怯まなかった。
「皆様、噂だけで人を判断するのは、あまりに早計ではございませんか?」
私は、穏やかに、しかし毅然とした態度で語りかけた。
「わたくしが知るゼノ様は、誰よりも誠実で、思慮深い方です。彼は、過去に縛られるのではなく、未来を見据えて、この国で懸命に生きていこうとしていらっしゃいます」
私は、ゼノが匿名の慈善家として、孤児院や病院に多額の寄付を続けていたことを話した。彼が、才能ある若き芸術家たちのパトロンとなり、その活動を支えていることを語った。それらは全て、彼が私に与えてくれた知識の中から見つけ出した、紛れもない事実だった。
「人の価値は、生まれや過去の噂で決まるものではありませんわ。その方が今、何を為しているか、その人柄で判断するべきではないでしょうか」
私の言葉は、少しずつ、しかし着実に人々の心を動かし始めた。特に、ゼノの慈善活動の恩恵を受けていた者たちや、彼の誠実な商売ぶりに助けられていた者たちが、次々と私の意見に同調してくれた。
「確かに、クォーツ氏は信頼できる人物だ」
「リラ嬢の言う通りかもしれない……」
社交界の空気は、ゆっくりと変わり始めていた。
ゼノは、私の行動の全てを知っていた。
ある夜、彼は私を後ろから優しく抱きしめ、私の髪に顔を埋めた。
「リラ……君は、私が思っていた以上に、強く、賢い女性だ。君のような人が、なぜ今まで自分の価値に気づかずにいたのか、信じられない」
「それは、ゼノ様が教えてくださったからですわ。あなたが、私に光を当ててくださったから」
私たちは、お互いの存在が、どれほどかけがえのないものになっているかを、改めて確認し合っていた。この困難が、私たちの愛をより一層強く、本物のものへと変えてくれたのだ。
追い詰められたのは、セドリックだった。彼が流した噂の効果は薄れ、逆に彼の執念深さや器の小ささを非難する声が上がり始めていた。イザベラも、旗色の悪さを感じ取ったのか、徐々に彼と距離を置き始めていた。
そして、彼は最後の、そして最悪の手段に打って出た。
ある日、私が一人で庭を散歩していると、数人の屈強な男たちに突然取り囲まれた。
「少し、付き合ってもらうぜ、お嬢さん」
その背後には、歪んだ笑みを浮かべるセドリックの姿があった。
「リラ、君が素直に戻ってこないからだ。少し手荒になるが、許してくれよ。あの男から引き離してしまえば、君も目が覚めるだろう」
恐怖に声も出なかった。しかし、私が男たちに腕を掴まれそうになった、その瞬間。
一陣の風のように現れた影が、男たちを次々となぎ倒していった。
それは、ゼノだった。彼の動きは、まるで訓練された騎士のように無駄がなく、洗練されていた。あっという間に全ての男たちを打ちのめすと、彼は震える私の元へと駆け寄った。
「リラ! 無事か!?」
「ゼノ様……!」
私は彼の胸に飛び込み、安堵から涙を流した。
「セドリック・ヴァレンティス!」
ゼノの怒りに満ちた声が響く。
「貴様だけは、許さない」
この誘拐未遂事件が、決定打となった。セドリックの悪事は王宮の知るところとなり、ヴァレンティス公爵家は激怒した。彼は公爵家の面汚しとして、嫡男の座を剥奪され、領地の片隅へと追いやられた。彼の傍らには、早々に見切りをつけたイザベラの姿は、もうなかった。
全ての嵐が、過ぎ去った。
しかし、私の心は不思議なほど穏やかだった。隣には、愛する人がいる。守るべきものが、私にはある。その事実が、私に鋼のような強さを与えてくれていた。
「ゼノ様、私にできることはありませんか?」
書斎で難しい顔をして書類を眺める彼に、私は尋ねた。彼の事業にも、悪意ある噂の影響が出始めているらしかった。
ゼノは顔を上げ、疲れたように微笑んだ。
「君は、ただ私の側にいてくれるだけでいい。それが、私にとって一番の力になる」
「いいえ、それだけでは嫌です」
私はきっぱりと言った。
「私も、あなたのために戦いたいのです」
その日から、私の戦いが始まった。
私は、これまでゼノが私に与えてくれたものを、今度は彼のために使うことにした。
私は、貴婦人たちが集まるサロンや茶会に、一人で積極的に顔を出した。
最初は、誰もが私を好奇の目で見、陰口を叩いた。
「まあ、アステル嬢。まだあのような男と……」
「反逆者の肩を持つなんて、どうかしているわ」
そんな言葉にも、私は怯まなかった。
「皆様、噂だけで人を判断するのは、あまりに早計ではございませんか?」
私は、穏やかに、しかし毅然とした態度で語りかけた。
「わたくしが知るゼノ様は、誰よりも誠実で、思慮深い方です。彼は、過去に縛られるのではなく、未来を見据えて、この国で懸命に生きていこうとしていらっしゃいます」
私は、ゼノが匿名の慈善家として、孤児院や病院に多額の寄付を続けていたことを話した。彼が、才能ある若き芸術家たちのパトロンとなり、その活動を支えていることを語った。それらは全て、彼が私に与えてくれた知識の中から見つけ出した、紛れもない事実だった。
「人の価値は、生まれや過去の噂で決まるものではありませんわ。その方が今、何を為しているか、その人柄で判断するべきではないでしょうか」
私の言葉は、少しずつ、しかし着実に人々の心を動かし始めた。特に、ゼノの慈善活動の恩恵を受けていた者たちや、彼の誠実な商売ぶりに助けられていた者たちが、次々と私の意見に同調してくれた。
「確かに、クォーツ氏は信頼できる人物だ」
「リラ嬢の言う通りかもしれない……」
社交界の空気は、ゆっくりと変わり始めていた。
ゼノは、私の行動の全てを知っていた。
ある夜、彼は私を後ろから優しく抱きしめ、私の髪に顔を埋めた。
「リラ……君は、私が思っていた以上に、強く、賢い女性だ。君のような人が、なぜ今まで自分の価値に気づかずにいたのか、信じられない」
「それは、ゼノ様が教えてくださったからですわ。あなたが、私に光を当ててくださったから」
私たちは、お互いの存在が、どれほどかけがえのないものになっているかを、改めて確認し合っていた。この困難が、私たちの愛をより一層強く、本物のものへと変えてくれたのだ。
追い詰められたのは、セドリックだった。彼が流した噂の効果は薄れ、逆に彼の執念深さや器の小ささを非難する声が上がり始めていた。イザベラも、旗色の悪さを感じ取ったのか、徐々に彼と距離を置き始めていた。
そして、彼は最後の、そして最悪の手段に打って出た。
ある日、私が一人で庭を散歩していると、数人の屈強な男たちに突然取り囲まれた。
「少し、付き合ってもらうぜ、お嬢さん」
その背後には、歪んだ笑みを浮かべるセドリックの姿があった。
「リラ、君が素直に戻ってこないからだ。少し手荒になるが、許してくれよ。あの男から引き離してしまえば、君も目が覚めるだろう」
恐怖に声も出なかった。しかし、私が男たちに腕を掴まれそうになった、その瞬間。
一陣の風のように現れた影が、男たちを次々となぎ倒していった。
それは、ゼノだった。彼の動きは、まるで訓練された騎士のように無駄がなく、洗練されていた。あっという間に全ての男たちを打ちのめすと、彼は震える私の元へと駆け寄った。
「リラ! 無事か!?」
「ゼノ様……!」
私は彼の胸に飛び込み、安堵から涙を流した。
「セドリック・ヴァレンティス!」
ゼノの怒りに満ちた声が響く。
「貴様だけは、許さない」
この誘拐未遂事件が、決定打となった。セドリックの悪事は王宮の知るところとなり、ヴァレンティス公爵家は激怒した。彼は公爵家の面汚しとして、嫡男の座を剥奪され、領地の片隅へと追いやられた。彼の傍らには、早々に見切りをつけたイザベラの姿は、もうなかった。
全ての嵐が、過ぎ去った。
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