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黒曜石の瞳に宿るは、ただひとつの真実
第五章:暴かれる真実と本当の敵
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セレスティアナが抱いていた疑問の答えは、思いがけない形で明らかになった。それは、カイエンが書斎で誰かと密談しているのを、偶然聞いてしまったことから始まった。
「…計画通り、ヴァレンティスは追い詰められています。クラインフェルトからの資金援助がなければ、もはや時間の問題かと」
「そうか。リリアーナという女の動きは?」
「ゼノンを焚きつけ、伯爵家の財産を完全に掌握しようと画策しているようです。婚約破棄の夜会も、あの女が仕組んだもの。セレスティアナ様の心を完全に折り、社会的に再起不能にすることが目的でした」
息を呑むような会話。セレスティアナは、壁に背を預けてその場にへたり込んだ。やはり、すべては仕組まれていたのだ。ゼノンの愛も、リリアーナの儚さも、すべてが自分を陥れるための芝居だった。
そして、会話は核心に触れていく。
「しかし公爵様。なぜ、あれほどセレスティアナ様に…?」
部下の問いに、カイエンはしばらく沈黙した。やがて、重い口を開く。
「…俺がまだ、何者でもなかった頃の話だ」
彼の声は、いつもの覇気を失い、どこか遠くを見ているような響きをしていた。
「俺は、ラズフォード家の血を引いてはいたが、庶子だった。母は早くに亡くなり、屋敷の片隅で、誰からもいないものとして扱われていた。そんなある日、庭で倒れているところを、一人の少女に見つけられた」
セレスティアナの心臓が、大きく跳ねた。
「その少女は、俺の汚れた姿を見ても怯むことなく、自分のハンカチで傷の手当てをしてくれた。『大丈夫?痛かったでしょう?』と、そう言って笑いかけてくれたんだ。たったそれだけのことだ。だが、闇の中にいた俺にとって、その笑顔は唯一の光だった」
まさか。そんなことが。
「その少女が、セレスティアナだった。俺はその時からずっと、彼女を見てきた。ヴァレンティスとの婚約が決まった時も、彼女が自分を殺してまで相手に尽くしている姿を、歯痒い思いで見ていた。そして、あの夜会だ。俺の光が、愚か者たちの手で消されようとしているのを、見過ごすことなどできるはずがなかった」
それが、理由。
気まぐれでも、同情でも、所有欲でもない。
カイエンは、ずっと昔から、自分だけを見ていてくれた。自分が誰にも見向きもされなかった頃の彼を救ったように、今度は彼が、絶望の淵にいた自分を救い出してくれた。
彼の「溺愛」は、あまりにも永く、深い想いに裏打ちされた、本物の愛だったのだ。
涙が、後から後から溢れて止まらなかった。それは、悲しみの涙ではなかった。ようやく本当の愛を見つけられた、喜びの涙だった。
「…計画通り、ヴァレンティスは追い詰められています。クラインフェルトからの資金援助がなければ、もはや時間の問題かと」
「そうか。リリアーナという女の動きは?」
「ゼノンを焚きつけ、伯爵家の財産を完全に掌握しようと画策しているようです。婚約破棄の夜会も、あの女が仕組んだもの。セレスティアナ様の心を完全に折り、社会的に再起不能にすることが目的でした」
息を呑むような会話。セレスティアナは、壁に背を預けてその場にへたり込んだ。やはり、すべては仕組まれていたのだ。ゼノンの愛も、リリアーナの儚さも、すべてが自分を陥れるための芝居だった。
そして、会話は核心に触れていく。
「しかし公爵様。なぜ、あれほどセレスティアナ様に…?」
部下の問いに、カイエンはしばらく沈黙した。やがて、重い口を開く。
「…俺がまだ、何者でもなかった頃の話だ」
彼の声は、いつもの覇気を失い、どこか遠くを見ているような響きをしていた。
「俺は、ラズフォード家の血を引いてはいたが、庶子だった。母は早くに亡くなり、屋敷の片隅で、誰からもいないものとして扱われていた。そんなある日、庭で倒れているところを、一人の少女に見つけられた」
セレスティアナの心臓が、大きく跳ねた。
「その少女は、俺の汚れた姿を見ても怯むことなく、自分のハンカチで傷の手当てをしてくれた。『大丈夫?痛かったでしょう?』と、そう言って笑いかけてくれたんだ。たったそれだけのことだ。だが、闇の中にいた俺にとって、その笑顔は唯一の光だった」
まさか。そんなことが。
「その少女が、セレスティアナだった。俺はその時からずっと、彼女を見てきた。ヴァレンティスとの婚約が決まった時も、彼女が自分を殺してまで相手に尽くしている姿を、歯痒い思いで見ていた。そして、あの夜会だ。俺の光が、愚か者たちの手で消されようとしているのを、見過ごすことなどできるはずがなかった」
それが、理由。
気まぐれでも、同情でも、所有欲でもない。
カイエンは、ずっと昔から、自分だけを見ていてくれた。自分が誰にも見向きもされなかった頃の彼を救ったように、今度は彼が、絶望の淵にいた自分を救い出してくれた。
彼の「溺愛」は、あまりにも永く、深い想いに裏打ちされた、本物の愛だったのだ。
涙が、後から後から溢れて止まらなかった。それは、悲しみの涙ではなかった。ようやく本当の愛を見つけられた、喜びの涙だった。
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