氷の薔薇は愛に目覚める～婚約破棄された令嬢と救国の王子～

氷の薔薇、最後の戦い 2

数週間にも及ぶ、想像を絶するほどの困難な旅の末、エリザベスは、まるで幽霊のように、王都の、その喧騒と欺瞞に満ちた厚い壁の内側へと、再び潜入することに成功した。しかし、オルダス公爵の、まるで蜘蛛の巣のように、王都の隅々にまで張り巡らされた監視の目は、彼女が予想していた以上に厳しく、そして執拗であり、思うように、そして安全に情報を集めることは、ほとんど不可能に近いように思われた。彼女が、そのあまりの困難さに、そして自らの無力さに、絶望しかけた、まさにその時だった。まるで天の啓示のように、あるいは、彼女の、これまでの人生で密かに蒔いてきた、小さな善意の種が、ようやく芽吹いたかのように、予期せぬ、そして思いもよらないところから、いくつもの、そして何よりも温かい、救いの手が、次々と差し伸べられたのだ。
それは、かつて彼女が、まだ、周囲から「氷の薔薇」と恐れられ、そして敬遠されながらも、王都の華やかな社交界の中心にいた頃、ほんの些細な、そして彼女自身にとっては取るに足りないほどの親切心から、あるいは、クライフォルト公爵令嬢としての、その強大な立場と影響力から、陰ながら、そして誰にも知られることなく助けたことのある、名もなき、そして社会の片隅でひっそりと生きていたような人々――父親の借金のために、まさに身売りされようとしていた、哀れな小貴族の美しい娘、上司の不正を告発しようとして、逆に不当な扱いを受け、絶望の淵にいた、正義感の強い若い下級役人、類稀な才能と知識を持ちながらも、その出自の低さから、誰にも認められず、機会に恵まれなかった、孤独な初老の学者――だった。彼らは、エリザベスが、世間で面白おかしく、そして悪意をもって語られているような、冷酷で自己中心的な「悪役令嬢」であるという、オルダス公爵一派によって巧みに流布された噂を、決して鵜呑みにせず、彼女のかつての、ほんの一瞬だけ見せた、しかし忘れられないほどの優しさや、あるいは、不正を許さない公正さ、そして知性的な会話を、その胸の奥に、大切な宝物のように記憶しており、今、彼女が、王国中から追われる身となり、絶体絶命の窮地に立たされていることを、様々なルートから知り、自らの、そして家族の身に危険が及ぶことを顧みずに、それぞれの、ささやかだが、しかし重要な立場から、秘密裏に、そして命がけで、エリザベスに有益な情報を提供し、彼女の、この絶望的なまでの孤独な戦いを、陰ながら、そして献身的に支援してくれたのだ。
さらに、あの、希望の光が灯り始めたエルム村で、エリザベスの、その献身的で、そして何よりも人間愛に満ちた姿に、心の底から深い感銘を受け、彼女を、もはや自分たちの救世主のように慕っていた村人たちの中から、数名の、特に勇敢で、そして機転の利く若者たちが、エリザベスの、危険だから村に残っていてほしいという制止を振り切り、彼女の、そのあまりにも危険な後を、まるで忠実な猟犬のように追って、この巨大で複雑な王都へと、命からがらやって来て、彼女の手足となって、王都の地理にも、そして人の心の裏表にも通じている彼らの知恵と経験を活かし、時には物乞いに、時には大道芸人に、時には酒場の給仕に姿を変えながら、オルダス公爵一派の、厳重な監視の目を潜り抜け、命がけで、しかし驚くほど巧みに情報収集や、協力者たちとの連絡役を務めてくれた。彼らの、素朴だが、しかし何ものにも代えがたいほどに揺るぎない、エリザベスへの絶対的な忠誠心と、そして彼らがもたらす、泥臭いが、しかし極めて重要な情報は、エリザベスにとって、何よりも心強く、そして何よりも温かい支えとなった。
これらの、予期せぬ、そして何よりも、その動機が純粋で美しい、数多くの協力者たちの存在は、エリザベスに、人は、決して一人では生きていくことはできないのだということ、そして、ほんの小さな、そして時には忘れかけてしまうような善意の行いが、いつか、巡り巡って、大きな、そして想像もできないほどの力となって、自分自身に返ってくるのだという、人生の、そして人間の絆の、深く、そして美しい真実を、改めて、そして痛いほどに教えてくれた。彼女は、もはや孤独ではなかった。