四人で話せば賢者の知恵? ~固有スキル〈チャットルーム〉で繋がる異世界転移。知識と戦略を魔法に込めて、チート勇者をねじ伏せる~

藤ノ木文

文字の大きさ
133 / 254

125話 フリッツ

しおりを挟む
「むしろ貴方にはこう自己紹介をするべきですね。自分はウィッシュタニア第三王子直轄第二部隊の隊長を勤めるフリッツと申します。以後お見知りおきください、勇者トシオ様」


 フリッツ
 人 男 26歳
 パラディンLv21


 不法進入者が現れた直後に緊急の案件として飛んでくる奴とくれば、それはもう限られている。
 自称でも何でもない、今度こそ本物のウィッシュタニアの関係者だ。
 そして昨晩の焼肉パーリィで見た顔でもある。

 黄緑の髪に精悍な面持ちのイケ顔、190センチは有ろう長身を包んだ衣服は筋肉で盛り上がっている。
 ボディビルダーの様なガチガチに膨れ上がった筋肉ではなく、体操選手のようなしなやかで力強い身体付き。
 レンさんと同じソフトマッチョでこれ程のイケメンなら、さぞや女性も黙ってはいないことだろう。
 しかも顔や腕に付いた傷に加え、その年齢でファイター系最上級職の一つであるパラディンとは、かなりの修羅場を潜って来たのは容易に伺える。
 四十五階層で見せてもらったモーディーンさんの剣技を思うと、例えレベル的に格下であっても油断してはできない。
 だが腰に目を向け全身を観察し直すと、こんな男なら持っているであろう刃物の類が一切無く、サーチマジックによる魔法反応も確認できないので、魔道具の類も見当たらない。

 敵意が無いことを表しているつもりだろうが、油断何て絶対にしてやらんが。
 それと、俺は異世界人ではあるが勇者じゃない。

 彼の最後の一言に、心の中でのみツッコミを入れておく。
 そんな内心のお陰もあり、驚きによる思考停止にならずに済んだ。
 口に出して否定しても良いのだが、態々こちらの情報を与える必要もない。
 勇者と思われているということは、裏で他国と繋がっている可能性を臭わせる事にも繋がるため、今は勝手に勘違いさせておいく。 
 その間もサーチエネミーは反応を示さず、彼を敵では無いと告げていた。

 だが職業軍人だ、迷宮に放り込んでいる奴と同じく敵意をコントロールされているのかもしれない。
 こいつに敵意が無くても命令を下した奴に敵意があるかもしれないので、これも用心しなければ。
 そして俺の返答次第で突然敵に回る可能性もある。

 念のためマナ感知を屋敷の敷地内とその隣家にまで範囲を伸ばし、怪しい動きをしている人間が居ないかチェックする。
 問題は無さそうなので更に斜向かいまで範囲を拡大。
 ごく普通の二階建て民家の二階の一室に男3人女2人が、窓に張り付きこちらの様子を伺っていた。
 いくら近くに大きな川があるライシーンの夜が比較的涼しいとはいえ、狭い部屋にあの人数がさぞ息苦しいだろう。

 ま、知ったこっちゃないが。

 視覚やセンサー系で周囲を確認する間も、男との会話は続いている。

「本日は緊急を要する案件のため、こうして伺わせて頂ました」

 非武装な上に何処かの馬鹿・・・・・・と違い、玄関から堂々と来て名乗りを上げるってことは、敵対の意思は無いと判断する。
 だがしかし、緊急の案件なんて物騒なモノを持ってこないでもらいたいと強く叫びたい衝動に駆られる。

 心臓に悪いからやめて欲しいぞコンチクショー。

 だが聞かない訳にもいかないため、何処まで通じるか分からないポーカーフェイスを気取りながらの問いを投げかける。

「緊急の案件ってなにかな?」
「先程お宅に賊が侵入した件です」
「あぁ、あれね」

 緊急の案件とやらが更なる厄介事でないとわかり安堵するが、この家が既にウィッシュタニアの軍人にも監視されていた事実に冷や汗が流れる。

 これも心の安寧的には知りたくなかった……。

「まず最初に、お宅を監視する形になっていたことを心からお詫び申し上げます」

 男はすまなそうな表情を作って頭を下げると、直ぐに面を上げる。

「つきましては、その弁解と謝罪のための一席を設けて下さると幸いです」
「………」

 謝罪したいだけならこの場でも出来る。
 へりくだった言い方だが、要は話し合いがしたいって言ってるのだ。
 これを受ける必要が有るか無いかと言えば、建前である弁解とやらで事情を聴かなければ後悔する事態に陥りかねない。
 イヤイヤながらも頷かない訳にもいかなかった。

「……わかった、少しここで待っていてくれ」
圧倒的感謝アットウテキカンシャ
「ブフッ!?」

 ポーカーフェイスはどこへやら、フリッツの唐突な日本語がツボに入り吹き込んでしまう。

 だからこの世界の人間はどこでそんな言葉を覚えやがる!?

「感謝を伝える時に用いられる言葉と聞き及んでいたのですが、間違っていましたか?」
「ある意味な!」

 あたかも何も分からない素振りを見せる男に、思わず脊髄反射的に叫ぶ。
 なんだか真面目に相手をするのがバカバカしくなってくる。 

 ――いやいや、ペースに呑まれるな。

 奥歯を噛みしめ自分に言い聞かす。

「すぐ戻る」

 不思議そうにこちらを見る男にそう短く告げ、俺は一旦扉を閉めた。



―――――――――――――――――――――――――――――
 更新が滞りがちになり申し訳ありません。
しおりを挟む
感想 72

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

処理中です...