忌み嫌われる夜の令嬢ですが国家の中枢を担っています

think

文字の大きさ
2 / 88

令嬢の冷戦

しおりを挟む
「時間ね」

私が腕時計を見ると、時刻は夜の九時を指していた。
これからが私の本題が始まる。
なのでパーティ会場を抜け出そうとしたとき、ある令嬢たちのグループに囲まれてしまった。

「あら?どちらに行かれるのかしら?ライラック様?」

その筆頭に立つのは同じ伯爵家という立場だった。
確か十六になったばかりのはず。
私とは対照的に長い金髪を優雅に巻き、ストレートとカールが見事と言える。
ドレスは白を基調とした格式高いスタイルながら、少女と女性の狭間である美しさと愛らしさを兼ね備えた名品だと思う。
ふむ……この仕事は王都一と名高いデザイナーのセリオス氏の仕事ね。相変わらず素晴らしいわ。

仕事柄……というわけでもないがつい彼女の着ているドレスに目を奪われてしまっていた。

「ちょっと!挨拶くらいなさいよ!」

それが無視と感じたようで顔を真っ赤にして怒ってくる。

「これは申し訳ありません。リア・バルザーク嬢」

私が深々と頭を下げて一礼をすると満足、というよりは優越感に浸っているように見えた。
私は伯爵家の当主であるが、相手は当主の娘。
格式で言えばこちらの方が上なのだが、私には通常の礼式は当てはまらない。
我がレミゼラルムーン伯爵家というのは名ばかりのものであり、実際に扱われる爵位で言えば男爵よりも下の位置に相当していると言っても過言ではない。

「それにしても祝いの席には不似合いな方ね」

クスクスとお連れの令嬢も私を見て嘲り笑う。

「申し訳ありません。リア嬢のように華やかなドレスは似合わないもので」

これは本心からでた言葉だったが、彼女の琴線に触れたらしい。

「子どもっぽいと言いたいわけ!?」

酷い言いがかりだ。
私としては褒めただけなのに。

「いえ、とんでもございません。リア嬢の美しさはどんな宝石よりも輝いていらっしゃる」

なので私は彼女をまっすぐ見つめて、賛辞の言葉を贈った。
すると、今度は照れた様子で真っ赤になる。
本当に可愛らしい方だ。

「な、なによ!そんな心にもないことばかり言って!そもそもあなたの歳はいくつなのよ!大人ぶって!」

「ふふっ……リア嬢?女性に年齢を聞くものではありませんわ」

別に隠すほどのことでもないが、夜を支配する当主が二十にも満たない年齢だと格好がつかない。
これもさっさと隠居したお父様のせいだ。
せめてもう数年くらい頑張って欲しかった。

「むぅぅぅ……!さっさとお帰りなさい!あなたが治める汚らわしい場所に相応しいものたちが待っているのでしょう!」

おやおや……これには私も穏やかではいられませんね。

「リア嬢。汚らわしい場所とおっしゃいましたが、そこで暮らしている人々も立派な国民なのです。国を治める伯爵家の娘が吐き捨てて良い言葉ではありません」

「ふん!そんな国民などいりませんわ!」

これは筋金入りのお嬢さんですね。

「そこまでにしたまえ。リア」

「お父様!」

どうやら私たちの問答が注目の的になっていたようね。
周囲に輪ができている。
そこから一人の男性がやってきた。
リア嬢がお父様というように、彼女の父であるアルフレッド・バルザーク伯爵。
財務大臣の立場にある要職の方だ。

「これはバルザーク伯爵様。大変失礼いたしました」

「よい。だがあまり娘とは関わらないでほしいものだ」

そちらの方から話されてきたので、どうしようもありませんが?
ただ、そのようなことを言ってもしょうがない。
そろそろ時間も押しているのでここは頭を下げておく。

「かしこまりました」

だが、釘を刺すべきことしておかないとね。

「ですが、財務大臣の娘という立場の方が税を納める方々を汚らわしいとおっしゃるのはいかがなものでしょう?」

「……そこは後で言いつけておく」

「お父様!?」

敬愛する父にお説教をされると知ったリア嬢の顔には、驚きの色が混じる。
まさかこうなるとは思わなかったのだろう。
だが、貴族というものは国民の税で暮らせているのだということを知らないのは彼女の年齢で言い訳ができない。
バルザーク伯爵?甘やかすのも良いですが、世のことを教えるのも親であり貴族の務めですよ?
私はじっとバルザーク伯爵を見つめると、彼は困ったように頷いた。

「それでは皆様方、ご機嫌よう」

そうして私は一礼をすると、その場を後にした。
背中には冷たい視線をいくつも感じるが、もはや心地よいものね。
さぁ、急がなければ。
おまたせしてはならない方がいらっしゃるのだから。

───城内廊下───

パーティ会場を抜けた私は、絨毯の敷かれた廊下を歩いている。
たまに警備の騎士を見かけるが、ほとんどはパーティ会場に人がいるため、静かなものだ。
そうして歩みを進めると、ある一室に到着する。
ここは私の伯爵家に与えられた部屋であり、ここでは王や他の貴族の権限も届かない治外法権の場所。
こういった部屋を持つのは上級貴族の家門に限られていた。

コンコン。

そんな場所にノックをすると、すぐに鍵が開いた。

「お帰りなさい、姉様」

「ただいま。ハオル」

満面の笑顔で出迎えてくれたのは、二つ下の弟。
ハオルシア・レミゼラルムーン。
そんな彼は中性的な見た目で、私の容姿と良く似ている。
黒い髪に瞳。
だが、白い肌は私よりも美しいのではないかと嫉妬すら覚えてしまう。

「姉様、そんなにじっと見られたら照れちゃうよ……」

ハオルは白い肌を紅く染める。
……相変わらず可愛いわね。

「ああ、ごめんなさいね。中に入りましょうか。いろいろと準備もあるから」

「うん」

私は部屋の中へ入ると、しっかりと鍵を閉めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

冷遇された没落姫は、風に乗せて真実を詠う ─残り香の檻─

あとりえむ
恋愛
「お前の練る香など、埃と同じだ」 没落した名家の姫・瑠璃は、冷酷な夫・道隆に蔑まれ、極寒の離れに追いやられていた。夫の隣には、贅を尽くした香料を纏う愛人の明子。 しかし道隆は知らなかった。瑠璃が魂を削って練り上げた香は、焚く者の心根を映し出す「真実の鏡」であることを。 瑠璃が最後に残した香の種を、明子が盗み出し、手柄を偽って帝の前で焚き上げた瞬間。美しき夢は、獣の死臭が漂う地獄へと変貌する。 「この香りの主を探せ。これほど澄み切った魂が、この都に在るはずだ」 絶望の淵で放たれた一筋の香りに導かれ、孤独な東宮が泥の中に咲く白蓮を見つけ出す。 嘘と虚飾にまみれた貴族社会を、ひとりの調香師が浄化する、雅やかな逆転劇。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

処理中です...