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アツモリ、地獄の養成所へ行く

第79話 不死生物(アンデッド)の出現

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 次の日、敦盛たちは全員が保養地ルキナに向かう馬車に乗ったが、昨夜と同様で全員が私服で、シルフィは『幻影イリュージョン』で耳を人間に見せ掛けていた。途中のイーリスの村で途中下車して早めに宿に入ったのも予定通りだ。
 相変わらずではあるが、夕食は村の酒場へ行った途端「サムライさまだあ!」と店内にいた客が老若男女問わず敦盛のところへ押し寄せてきて、たちまち敦盛を囲って大騒ぎになった。
 今回も敦盛は自分で「敦盛です」などと名乗ってないのに・・・しかも普通の服で武器も『魔法の巾着袋マジックポーチ』の中に入れてあったのだ。満里奈は唖然となって「これがエミーナちゃんたちが言ってた事なの!?」と口をアングリ開けて見てたし、バネットやモコも唖然としていた。

 次の日は日が昇ると同時に村を出発した。

 ここから先は徒歩だ。何があるのか分からないから、徒歩で慎重に進むのが安全だからだ。
 先頭を行くのは中央にバネット、右にモコ、左に敦盛の前衛タイプの3人だ。2列目には右にエミーナ、中央にルシーダ、左に満里奈の3人だが、満里奈は遠距離攻撃が出来る『魔法のマジックヨーヨー』を持っているから前衛ではなく後衛で、唯一の聖職者ルシーダの護衛役でもある。3列目にはココアとシルフィだが、シルフィだけはピクニックに行くみたいにニコニコ顔なのだが、ココアは他の6人と同様、悲痛な表情で歩いている。
 全員のポケットには聖水が10本ほど入っていて、残りの聖水はエミーナの『魔法の巾着袋マジックポーチ』の中だ。魔法力を回復させる飲み薬ポーション『神の酒』もルシーダとシルフィがポケットに3、4本持っていて残りは『魔法の巾着袋マジックポーチ』の中だ。その他にもアリアドネの街やイーリスの村で買い込んだ回復アイテムや治療アイテム、他にも携帯食料、さらにはバネットから提供された野営家屋キャンピングコテージまで入っている。

 既に2回、魔物モンスターと遭遇したが敦盛がアッサリ片付け、まだ不死生物アンデッドは出現していない。

 そんな8人の目の前には子爵夫人が作った仮説の柵がある。つまり、ここから先はレパード子爵の領地で、それは危険地帯を意味する。その遥か先には子爵の別荘を囲む壁が見えてきた。つまり、ここから一歩でも踏み込めば、生きて帰れる保証は何もないのだ。

 バネットが敦盛を見たけど、その敦盛は「ウン」と頷いたからバネットは柵を右足で蹴破って中に入った。

 不気味な程の静けさの中、8人は子爵の別荘へ向けて一歩、また一歩と足を進めている。そんな中、シルフィだけは緊張感の無い表情をしている。
「・・・アツモリ、昨日の学習の確認だけど、不死生物アンデッドの弱点は?」
 ルシーダは沈黙を破るかのように敦盛に話し掛けたけど、敦盛は全然笑ってない。 
 聖職者であるルシーダにとって、幽霊などは存在そのものが許せないのだ。瘴気に侵されて不死生物アンデッドになった生物は、本人が望んで不死生物アンデッド化した訳ではないのだから、神に対する冒涜以外の何物でもない。それに、魂だけでなく肉体も安らかに眠らせてやるのは聖職者としての使命なのだから。
 敦盛はちょっとだけ考えたけど、ルシーダの方を向きながら
「えーとー・・・不死生物アンデッドの弱点は『火』と『聖』だ」
「その理由は?」
不死生物アンデッドは、いわば『闇』の力で動いている魔物モンスターだ。だから『闇』と対極にある『聖』の力に弱い。『火』にはけがれた物を浄化させる効果があるから、『闇』の属性を持つ不死生物アンデッドの弱点になる」
「その通り!のみの半分の脳みそしかないジョーカー野郎でも覚えられたんですねえ」
「あのねえ、俺はではなーい!」
「はいはい、それは分かったから、いい加減に神懸かり的にジョーカーを引く体質を改めないとねえ」
 そう言った時のルシーダはニヤニヤしていた。これださっきまで神妙な顔をしていたルシーダかと思ったら別人のようかだ。でも、嫌味タップリというニヤニヤではない。あくまで緊張感をほぐすニヤニヤだ。
「はいはい!それはもう耳にタコ!!」
 敦盛はウンザリ顔でルシーダを見たけど、満里奈やバネット、モコまで敦盛を見て笑っていた。
「そう言えばー、お兄ちゃんは昔からけど、昨日のババ抜きの弱さは半端なかったからねー」
 満里奈は右手の人差し指で敦盛の背中をツンツンしながら笑ったけど、敦盛は憮然とした表情で「フン!」とソッポを向くしか出来なかった。

「「敵だ!」」

 モコとエミーナが緊張した声を発した!
 その声に敦盛と満里奈が『ハッ!』という表情になって正面を向いた!たしかに正面の道の地面から、ビア樽くらいもの大きさのカエルが浮き上がるかのように出現した!でも、それは!なぜなら・・・2体は血塗ちまみれになっている状態で、2体は体の皮膚が焼け爛れているにも関わらず長い舌をチラチラさせているからだ!

「チッ!フロッガーの魔石が不死生物アンデッドになって復活したな!」

 モコは舌打ちしながら駆け出したが、右の籠手ガントレットが白く輝き、左の籠手ガントレットからは炎が上がった!その右の籠手ガントレットで正拳突きを喰らわせたらカエルは一瞬のうちにペシャンコになって地面に突っ伏した。
 敦盛が大太刀を抜きながら走り出した!

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 敦盛は気合の声と共に1体のカエルのバケモノに大太刀を振るった!たちまちカエルの体が上下の2つに分断されて倒れた。

「行け!ヨーヨー!」

 満里奈が気合の声を共に左手のヨーヨーを繰り出したが、まるで火の玉と化していたヨーヨーがフロッガーのバケモノに当たった時、10メートルくらい後ろへ火を纏って吹き飛ばされた!

「はああああああああああああああああああ!」

 バネットが気合を込めて右手の聖剣を振り抜いた時、血塗れのカエルが左肩から右腰に掛けて分断されて倒れた。
 ルシーダは腰の槌鉾メイスを右手に持ったけど、アッサリ戦闘が終わったから再び腰に戻した。ルシーダの槌鉾メイス『天使の槌鉾メイス』は聖属性の魔法が付与されてるから、不死生物アンデッドには効果抜群なのだ!エミーナも右手に持つスタッフを前に掲げ精神を集中したが、呪文を唱える前にアッサリ戦闘が終わったから精神の集中を解いた。

「ヒューー!」

 シルフィが口笛を吹きながらニコニコ顔で拍手してるけど、それ程までの圧勝で、敦盛も全然手応えがなかった。
「おーい、これでホントに良かったのかあ?」
 敦盛は真っ二つになったフッロガーのバケモノを前にしてエミーナを振り返ったけど、そのエミーナは「大丈夫だよー」と言ってノホホンとしている。
「だいたいさあ、フロッガーそのものがペーパーでも圧勝できるんだよ。それが不死生物アンデッド化して復活しても、実力は青銅ブロンズにも及ばない。元々飛び跳ねて舌で嘗め回す、つまり『気持ち悪い』でしかない魔物モンスターで、考えようによっては攻撃力はゼロなんだから全然怖くない。その証拠に魔法が何も付与されてないアツモリのカタナでも一撃で倒せただろ?」
「た、たしかに・・・」
「恐らく、フロッガーの魔石が不死生物アンデッド化して復活しただけだ」
「勘弁しれくれよなあ。どこかのパーティの尻拭いかよ!?」
「100%そうとは限らんぞ。火傷してたフロッガーは回収忘れだろうけど、実際、道でノホホンとしてた時に馬車に惹かれたとか、他のデカイ奴に踏ん付けられて死んだとか、そういう理由で魔石が回収さされずに不死生物アンデッドになった奴もいる」
「マジ!?」
「ただ、今の魔石は回収してくれ。金になるし、放っておくと不死生物アンデッドとして再び復活する」
 そうエミーナは言うと自分は呑気そうに満里奈が倒したフロッガーの魔石を手に取ったけど、敦盛は逆にビビっている!
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺が回収してもいいけど、ポケットの中で魔物モンスターに戻らないだろうな!」
「大丈夫大丈夫!瘴気に長時間晒されると不死生物アンデッドとして復活するけど、人間が持っていれば絶対に復活しない。それは千年以上も昔からそうだから間違いない」
「ホントだろうな?」
「大丈夫だよ。そんなに心配ならボクが持ってるから、早くアツモリは魔石を回収してくれ」
「分かった」
 敦盛は半信半疑であったが、エミーナが自信満々で言うしルシーダも「早くしてよー」とノホホンと言うから敦盛は渋々顔で回収した。バネットとモコが倒したフロッガーの魔石はココアが回収し、結局、シルフィの仕事は『口笛を吹いた』『拍手をした』だけだ。

「新手だ!」

 モコが緊張した声を上げた。今度は12、3体が一度に出現したし、そのうちの3体は頭が半分以上吹き飛んでるキコザルの不死生物アンデッドだ。結構素早いから相当厄介な敵だ。
 モコはキコザルと真正面からやり合ってるけど、バネットと敦盛は動き回るキコザルに相当苦戦している。エミーナは『火球ファイヤーボール』で攻撃したいけど、前が乱戦になっているから呪文で攻撃すると逆に敦盛たちを巻き込むから歯軋りしている。ココアも左の腰から魔法の短剣ショートソードを抜いて構えているほどだ。放っておくと後ろからゆっくり近づいてくる他の不死生物アンデッドが敦盛たちを攻撃し始める!それまでに何とかしないと後衛を巻き込んだ完全な乱戦だ。

「行け、ヨーヨー!」

 満里奈はヨーヨーを持つ左手を前に突き出したから、ヨーヨーは炎を上げながら敦盛とバネットの間を通り抜けて後方にいる10体近くの不死生物の周りを2回、3回と回り始め、不死生物を全て魔法の鎖マジックチェーンで絡めて動きを止めた!だが、人間一人の力では全ての不死生物アンデッドを抑えきれないは百も承知だ!
 満里奈はルシーダの方を見たから、ルシーダは満里奈の意図に気付いて『ハッ!』としながら呪文の詠唱に入った!

「眠れぬ者たちよ!我が言葉に耳を傾け、安息の地に赴け!」

 そう、ルシーダは『退魔ターンアンデッド』を使ったのだ!一ヶ所にまとまってくれれば1回の呪文で済む。ルシーダと満里奈のコンビネーションで後方の不死生物アンデッドを一気に消し去ったから残ったのはキコザルだけだ。

「はああああああああああああああああああ!」

 気合の声と共にモコの両手から炎が吹き上がり、それと同時にモコの渾身の打撃がキコザルにクリーンヒットした!不死生物アンデッドになったが故に、炎系の傷は致命傷の一撃となる!たちまちキコザルは炎に包まれて動きを止めた!

 敦盛もバネットもキコザルに渾身の一撃を与え、ようやく戦闘は終結した・・・

 別荘に近付くにつれ魔物モンスターが出現する・・・それも不死生物アンデッドばかりだ・・・

 明らかにおかしい・・・誰もが違和感を感じて始めていた・・・
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