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真夜中のランデブー

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 あれから俺たちは、湖畔で密会するようになった。


 日中、俺が窓の外を眺める。

 外のハンスが指を1本立てたら「会える」、2本立てたら「会えない」の合図。

 会える日はオーケルマンに腹が痛いと仮病を使う。

 オーケルマンは体に用がない時は俺を訪ねて来ない。

 だから普段ならオーケルマンの相手をしている夜でも湖畔へ行ける。


「ごめん、ちょっと遅れた!」

「気にするな」

 俺たちは会うたびにキスをする。

 軽く触れ合うだけだったり、お互いを食らい尽くそうとしたり。

 そうするだけで、俺は馬鹿になってしまう。

 馬鹿になって、自分が何者か忘れハンスのことで頭がいっぱいになる。


「……純? どうかしたか?」

 そう、俺は純だ。

 ハンスには本当の名前で呼んで欲しい。

 今の俺はマヤじゃない。

 本当の俺は、男とか女とか忘れて、目の前の騎士様に夢中だ。


「オーケルマンがさあ、しつこいんだよ。俺のケツを引っぱたいて何が楽しいんだか」

「跡にならないよう、氷砂糖を使え」

 この世界では氷砂糖がスキンケアグッズとして使われている。

 砂糖は高級品だから、身分の高い人間しか使えないらしいが。


「嫌だよ~。砂糖にそんな効果ないし、料理に使った方が絶対美味い!」

「そうだったな。お前は何でも知っているな」

 ハンスが俺の頭を撫でる。

 本当はもっと触れて欲しいと思ったりもする。


 だが、ハンスの言い分では、俺がオーケルマンの相手で体を張っているから、これ以上負担をかけたくないらしい。

 それとこれとは別だと思うけど。

 それをやっても、俺たちの関係は対等だろ?

 ま、今のスキンシップでも十分幸せなんだけどね。


「この世界のことはハンスがよく知ってるだろ? もっと俺に教えてくれよ! あの最高に目立ってる星は何?」

「どれのことだ? あれか?」

「う~ん。それじゃなくてアレ! アレだよ!」


 夜空に向ける俺たちの指が重なる。

 ハンスがわざと腕を低くしているんだ。

 人差し指が絡み合って、それはやがて全ての指に波及する。

 俺より一回り大きい手はいつも温かい。

 どちらともなくキスをする。


「あれは一等星ウィスクル。コショウ座を構成するものだ」

「ふふ、分かってたんじゃん」


 俺たちは極めて健全な仲だ。

 俺が宰相の妾であること以外は。


 密会時間は15分くらい。

 ここを往復する時間の方がずっと長い。

 だが、ハンスの傍にいられるこの時間が何よりも大切だ。


 真実の愛を手に入れたら、ハンスも連れて行けるだろうか。

 それが許されたら、ハンスと一緒にいられる時間が、ずっとずっと長くなりそうだ。


「……もう今日は帰れ。明日に響くといけない」

「えー、もうちょっといいだろ?」

「駄目だ。体を冷やさないようにな」


 子供じゃないんだから……。

「ハンスが看病してくれるなら、俺は風邪で寝込んでもいいけどな」

「お前をそんな危険な目に遭わせられるか。そうやって命を落とした者もいるのだ」

 確かに医療が発達してないもんな。


 俺は別れのキスを交わし、名残惜しさを連れて自室へと帰った。



 自室に入り、グイーっと伸びをする。

 さてさて、寝ますか。


 ベッドへ向かう俺の背後で――。
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