健康で文化的な異世界生活

三郎吉央

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2.目醒めの夜に

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「知らない天井だ。」

気付いたら真っ暗でベッドの上に寝ていた。

カッコつけてみたが、暗すぎて天井は見えない。
そして、股間のあたりが冷たい。

オネショしていた。

「オネショで目覚めるって……。」

 ベッドから起き出そうとモゾモゾと蠢き、布団をどける。

オシッコで濡れた寝間着の布が足に張り付き、外気にさらされて冷たい。

ベッドから降りようとしたらメイドが気づいて部屋に入ってきた。

地味なドレスを着た若い十代前半くらいの少女だった。

なにか話しかけてくるが、まるでわからない。

言語ライブラリにヒットする言語も無いようで全く言葉はわからない。

「現地言語インストールってデフォルト機能じゃないの?。」

言葉もわからず、オネショしているという情けなさから泣きたくなった。
いや、泣き出していた。

「ウェぇ~。」

おいおい、いい年してオネショして泣き出すなんて情けない。

そう思うのに、思えば思うほどに泣けてくる。

「ルォアァウスナァ?。」

メイドの女の子は顔を覗き込み、優しそうに微笑むと頭を撫でてくれた。

「メリア~。」

悲しさ情けなさで安心できる少女の体温を求めて腕を伸ばし、抱きつこうとしたが、少女に伸ばした手を取られて上へと持ち上げられてバンザイの体勢にさせられる。

そして彼女は優しくほほえみながら、ボクのワンピース型の寝間着をまくりあげてスポッと脱がせた。

言葉がわからなくて『?』な状態なのでバンザイしたまま固まるボク。

でも、なんだかいいようにあしらわれたような気がする……。

それよりも重大な問題として、寝間着の下は素っ裸だった!

女の子はそのままオシッコで濡れた寝間着を持って入り口の向こうの誰かに声をかける。

ボクの方はというと、バンザイして手を上げたまま下を見下ろす。

そこには、いかにも子供っぽい筋肉のなさそうなポヨっとしたお腹と、子供のチンチンが見えた。

このチンチンは四、五歳くらいだろうか?
いや、チンチンで年齢がわかる訳じゃないんだけどね。

「あれ?。」

異世界?異世界だよね?

いや、異世界ってことはわかる。

なぜわかるのかはわからないけれど、わかることはわかる。

流行ってるもんね?異世界。

でもなんだか、わかることはわかるけれどわけがわからない。

わけがわからなことはわかるのだが、わからないことがわからない。

……。

なにがわかるのかわからなくなってきた。

何がわかってるというのだろう?ボク。

イヤ待て。

落ち着こう。

そもそも、どうして赤ん坊じゃなくて幼年児童なんだろう?

いや、まあ、そんなこと気にしなくてもどうせ大人にはなるんだし、気にしなくても良いと言っちゃあ、良いんだろうけれど。

いわゆる『成るようには成る』…のかな?

とりあえず『なんくるないさ~』って感じで良いんじゃ……って、あれ?、何を言いたいんだっけ?ボクは?

いやいや、そんなこと気にしなくても『ケ・セラ・セラ~』って感じで……。

あれ?でもそれは流されるだけってことで、ダメなような気も……。

いやいや、流れに身を任せれば『そのうちなんとかなるだろう』って昔の人も……。

って、どんどん流される方向に向かってるやん!

って、突っ込んでみる。

って、一人ツッコミしてどうすんねん!

って、結局一人ツッコミになってるやん!

って、言ったそばから一人ツッコミに……。

って、いつまで続くね~ん!

一人ツッコミがちょっと面白くなってきたところで、ちょっと落ち着いてきた。

……今の状況をマジメに冷静に考えよう。

とりあえずベッドの縁に腰掛け、考える人してみる。

……。

ええっと、そうだ異世界だ。

多分、異世界だ。

きっと、異世界だ。

いや、三回も繰り返さなくてもわかる。

いや、わかってる!

いや、そもそもなんで素っ裸で考える人してる?

いや、ツッコミどころはそこじゃないだろう?

って、いや、そういうことを考えようとしてるんじゃなく!

あれ?何を考えていたんだっけ?

イヤイヤ、この身体は頭がイイ筈じゃないのか!

どうしてこんなに思考がごちゃごちゃと!

いや、そもそもオネショして素っ裸にされて考える人してる時点でアタマがイイとは……。

考えれば考えるほど頭の中が洪水みたいになる。

いや待て、こういう時は記憶を検索だ。
思い出すんだ。

そうだ、異世界といえば、
「ステータスオープン!。」
前に手を突き出して高らかに唱えてみる。

……。

何も起こらなかった。

ええ~!なんで?
異世界といえば『ステータスオープン』じゃないの?

訳が分からずに混乱する思考を沈めてもういちど考える人していると、メイドの少女が戻ってきた。
手には新しい寝間着を持っている。

彼女の後ろからは二人のメイドが布団を持って部屋に入ってきていた。

いや、待ってくれ。
ボクにはまだ考えなければいけないことが……。

彼女はボクの考えるポーズを見て一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐにそばまで来ると優しい仕草で立つように促すと、固く絞った手ぬぐいのような布で胸のあたりからお腹、下半身のあたりまで、オシッコで汚れていると思われる範囲を布で優しく拭いてくれた。

き、気持ちいい……。

変な意味ではなく、優しく拭き拭きされるとなんだか安心できるというか、お母さんに撫でられているような気持ちよさが……。

そんな風にホワワ~としているボクに新しい寝間着をアタマからすっぽりとかぶせて着せてくれる。

彼女がボクの身体を拭いて寝間着を着せてくれる間にベッドの方では布団の交換がすっかり終わっていた。

ホワホワした感覚で寝間着を着せられ、着替えが終わると、彼女、メリアは布団をめくって入るように促してボクを寝床につかせると、布団をかけて優しく手を握ってくれた。

そして、まだ幼さが残る声で子守唄を歌いながら優しく髪を撫でてくれる。

その歌声を聞いていると「異世界だ異世界だ。」とグルグルと混乱していたはずの心は落ち着き、どんどんと睡魔が襲ってきた。

眠りに落ちる瞬間、彼女はお気に入りの『メリア』だと考えながら眠りに落ちていった。
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