凛ちゃんは、ゆうれい!

桜葉理一

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3.凛ちゃんは妄想?

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 顔をあげた幽霊の凛ちゃんと、目が合う。

『……私は! ゆいの、妄想じゃないから! ちゃんと、ここにいるから。幽霊みたいになってるけど、今のところちゃんといる。信じて!』

 幽霊の凛ちゃんは、泣きそうになっているように見えた。
 ……どうして凛ちゃんが、泣きそうなの?
 おばけのくせに。幽霊のくせに。妄想のくせに。
 泣きたいのはわたしの方だよ。

「……でも、でもさぁ、今こうやって、わたしに話しかけてくれてる凛ちゃんが、わたしの妄想じゃない、ホンモノだってことは、誰にも証明できないよ……?」
『できるよ! あーえっと……。あ、そうだ! ゆいの部屋にあるアルパカのぬいぐるみ――モモコだっけ? ゆい、あのぬいぐるみの首に、赤いスカーフを巻いてるでしょ?』

 急にそんなことをたずねられて、おどろいて。すぐにうなずいた。
 モモコは、凛ちゃんがゲームセンターのクレーンゲームで取ってくれた、お気に入りの大きなアルパカのぬいぐるみだ。
 うれしくて、すぐにお気に入りの赤いスカーフを巻いて、部屋にかざったんだ。
 
「……うん。それがどうかしたの……?」
『この前、ゆいの部屋に遊びに行ったとき、こっそりモモコの首にネックレスをかけておいたの。スカーフの中に隠れるようにして』
「え?」
『……ちょっと早いけど、ゆいへの誕生日プレゼントのつもりだった。ゆいの知らない情報を私が知っていれば、私がゆいの妄想じゃない、本物の凛だってことが証明できるでしょ?』

 そう言われて、おどろいた。
 ハナコのスカーフの裏は、見てない。
 もし本当に、スカーフの裏にネックレスがあったら、この幽霊の凛ちゃんは、ホンモノってことになるけど……。

『ねぇ、ゆい。私は、ゆいの妄想なんかじゃないから。だから、私を信じて』

 凛ちゃんは珍しく目を開いて、声を荒らげて。真っ直ぐにわたしを見ていた。
 あのクールな凛ちゃんの、こんな姿を見たのははじめてで。
 いつもとかけはなれたこの姿が、さらにこの幽霊の凛ちゃんがニセモノなんじゃないかって、普通なら思うのかもしれない。
 けどね。どうしてだろう。何となく確信したんだ。
 この幽霊の凛ちゃんは、わたしの妄想じゃない。
 本物の凛ちゃんだって。

「……うん分かった。わたし、凛ちゃんを信じるね」

 わたしは涙を袖でぐいっと拭って、そう言った。
 そしたらやっと凛ちゃんは、ほっとしたような表情を浮かべた。


***

 そのあとは、ぷかぷか浮いている凛ちゃんと、他愛もない話をしながら、家に帰った。
 わたしたちってさ、すっごくヘンなんだよ。
 本当なら元に戻る方法とかを、真っ先に話し合うでしょ?
 だけど、一週間ぶりに会った凛ちゃんとおしゃべりするのが楽しくて。前と同じような、わたしが好きなアルパカのはなしとか、お気に入りのアクセサリーショップのはなしとか。そんな他愛もない話ばっかりしちゃったんだ。
 
「ゆいっ!? どこに行っていたの!? 何度も電話したのに……びっくりしたでしょ……?」

 家に着くと、お母さんが慌てた様子で玄関に来た。
 あ、そっか。わたし、何も言わずに飛び出して来ちゃったんだ。

「お母さん、ごめんね……凛ちゃんのところに行ってたんだ」
「……病院に? そう、だったの。……ゆい、あなたもう、大丈夫なの? いいえ、それよりも、凛ちゃんはどうだった……?」

 泣きそうな表情でたずねられて、思わず宙に浮かんでいる凛ちゃんを見る。
 凛ちゃんは、口の端をあげて、小さく微笑んだ。

「……うん。思ったよりね、元気そうだったかも」
「め、目が覚めたの……っ!?」
「……ううん。まだだけど。でも、そんな気がしたんだ」

 そう答えると、お母さんはまた泣きそうな顔をした。
 それからすぐに、わたしに向かってぎこちなく笑う。

「ねぇ、ゆい。今日はあなたの好きなオムライスを作ったの。少しでも、一緒に食べない?」
「……うん。食べようかな」

 そう答えると、お母さんは驚いたように目を見開いて。片手で目元をぬぐって「すぐに準備するわね」と台所に去っていった。
 ……ああ、そっか。
 わたしは自分のことで、いっぱいいっぱいになってしまって、たくさん心配をかけていたんだ。
 この一週間、毎日が辛くて、悲しくて、自分のことしか考えられてなかったんだなって、あらためて反省した。

 ごはんの前に、自分の部屋に戻る。
 全体的にピンク色が多い、わたしの部屋。カーテンもベッドのシーツも、ピンク色だ。
 クローゼットについている全身鏡の前に立つ。
 真っ赤に目を張らした、夏服の白いセーラー服姿のわたしが映っていた。
 肩までの長さの茶色い髪がかなり乱れていて、慌ててくしで解かす。手首に巻いたままのヒマワリのアクセサリーがついたヘアゴムで、いつもみたいに、右側の少しの量だけ結んだ。

 そういえば、と思い出して、部屋に飾っているアルパカのぬいぐるみを見る。
 本棚の上に、白くて大きなアルパカのぬいぐるみ――モモコがいた。
 おそるおそる近づいて、真っ赤なスカーフをめくった。
 そこには、先端に白いアルパカの石が付いた、ネックレスがあった。
 モモコの首からそれを外して、まじまじとネックレスを眺める。
 凛ちゃんを見上げると、少し照れくさそうに微笑んでいた。

「……すっごくかわいい。凛ちゃん、ありがとう。でもこんなの、どこで見つけてくるの……えへへ、おかしい……」

 わたしは、我慢できなくて、久しぶりに笑ってしまった。
 事故にあった凛ちゃんは、まだ目が覚めなくて。
 挙句の果てに幽霊になって、わたしの目の前に現れてさ。
 こーんな酷い状況だっていうのに、けたけたと笑いがとまらなくなっちゃったんだ。ついでに涙も。
 笑ったのは本当に久しぶりだった。一週間ぶり。
 凛ちゃんは、スケスケの手で、わたしの頭をヨシヨシするしぐさをした。
 それを見てね、やっぱり、好きだなーって思った。

 凛ちゃんは幽霊になっても、やっぱりわたしの大好きな凛ちゃんだ。

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