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【十】-1 斬られる
【十】
両親はいつも他人から奪っていた。
そして、誰かのものを値踏みし、誰かの立場を奪っていた。
屍肉を漁り、弱者を蹴落とす。
それが生き方だと幼いノーマンに教えていた。
行商人型モヒカン、
通称スカベンジャーの息子。
それがノーマン・ロストだった。
──君に、知識と技術を教える。
だが、エルシアに手を差し伸べられた。
ループライトの家で愛と知識を受け取った。
──これらは鋼鉄のようなものだ。人が生み出した強力な、硬いもの。
実の両親が遺言のように植え付けた価値観は、
血糊のように拭うことができないが、
その上に鋼鉄の信条を建てられた。
──火に溶かされ、強く打たれることで、強度を増していく。割れても、直せる。
だから、鋼鉄は強い。
闇よりも悪よりも、銃火器よりも、遥かに。
チニスに駆けつけると、門番が槍を構えた。
「ヴィークルを全部引っ張り出せ!
今すぐここを引き払うんだ!
マグリバに行くぞ!」
「いきなり、何を──」
「お前たちを支配していたモヒカンが
別勢力に滅ぼされていた!
ここに向かってきている!」
全くのウソでたらめだ。
だが、真実を言っても信じられるはずがない。
そもそも、ノーマンをして、
あれが何なのかを真には理解できていない。
ノーマンのウソを聞いて、
戸惑っていた衛兵に緊張が走った。
だが、まだ動き出すには至っていない。
「先生、戻ってこられたんですか」
その時、ちょうどよくパトリックがやって来た。
血骸は継続中だ。一瞬で彼の胸ぐらを掴み、叫ぶ。
「今すぐ、全領民をここから出せ!
マグリバに移動するぞ!」
「はっ!
お前たち、話は聞いたな!
今すぐに乗り物を集めろ! 女子供と老人を先に逃がせ!」
何を言われるか身構えていたが、
すぐに行動に移してくれた。
決闘で心と鼻っ柱を完全にへし折ったのが、非常によい転機になった。
そうでなければ、思いっきり殴りつけて強制的に従わせなければならなかった。
たちまちに準備が完了し、
兵士が運転する車両に民が乗っていく。
砂埃を上げて、
民間人という資源がマグリバに向かっていく。
資源だ。
だが、失わせていい資源ではない。
リチャードならば受け入れるだろう。
「ノーマン殿の話に従え!
真偽いずれであれ、
お二方が逃げの一手を選択するなら我ら従う他なし!」
グランテイマーが領主として君臨していた指導力で指示を飛ばす。
領主親子を手懐けておいた甲斐があった。
領民の逃亡がスムーズに進行している。
「お前も乗れ、パトリック」
疲労を顔に浮かべつつ、こちらに付いてくるパトリックが、
首を横に振った。
「貴方にお供します」
「足手纏いだ。
それよりは道中の民を少しでも守れ」
そう言って、便利な駒となった相手の背中を叩いて送り出す。
「しかし……」
「これからは戦乱の時代になる。
その時に大事なのは、少しでも多くの兵と民間人だ。
これこそ荒野を貫く鋼鉄の信条だ」
「先生」
「それに、だ。殿は俺一人で……」
空と大地を、何かが断っていた。
そうとしか形容しようがない斬撃。
天地上下を横断するもの。
じりじりと近づいているように見えるが、それは違う。
遠くから放たれた、あまりに大きいそれが、確かな速さで迫ってきているのだ。
「クソッ……」
奴の斬撃。
避けることは不可能。
受けることも論外。
「今すぐ逃げろ」
「父様と一緒に戦えば……」
グランテイマーがいたところで何になるのか。
そう思うが、何も言わない。
子どもにとって、父親とはそういうものなのだろう。
「お前の親父と一緒にマグリバへ逃げろ。
リチャード様に無礼を働いたらお前らを斬るからな」
グランテイマーは領民の取りまとめに必死で、こちらの方を向いてはいない。
「おじいさん、こちらですよ」
「ああ、今行くよ」
腰の曲がりかけた老人二人が、
衛兵に守られつつ、
次の出発隊に入った。
「準備できたか! もう行け! 振り返らず身を伏せていくんだ」
バギーに老夫婦を乗せて出発させる。
老人が何度もこちらに頭を下げて、遠ざかっていく。
その時、全身の毛が総毛立って、隣のパトリックの頭を地面に叩きつけた。
すでに走り出したバギーは間に合わない。
ノーマンたちの上を高速の斬撃が飛んでいく。
バギーごと老婦人の上半身が両断された。
「まずい!」
あれはおそらく全てを破壊するタイプではない、
一地点を狙って素早く進んで斬るタイプのものだ。
剣邪にはこちらの方角や正確な位置がわかっていなかった。
だから、大枠を削るやり方を取っていた。
今、やつの斬撃は命を奪った。
斬れば斬るほどに強くなるのが奴の性質。
こちらがどこにいるのか、向こうにバレてしまった。
人を抱えている以上は、ここから一気に動くこともできない。
「場所を知られた!
全員散り散りに出発しろ。
そうすれば──」
「ノーマン殿! 愚息と我が民をお頼み申す!
いざーーー!!」
「父上!」
両親はいつも他人から奪っていた。
そして、誰かのものを値踏みし、誰かの立場を奪っていた。
屍肉を漁り、弱者を蹴落とす。
それが生き方だと幼いノーマンに教えていた。
行商人型モヒカン、
通称スカベンジャーの息子。
それがノーマン・ロストだった。
──君に、知識と技術を教える。
だが、エルシアに手を差し伸べられた。
ループライトの家で愛と知識を受け取った。
──これらは鋼鉄のようなものだ。人が生み出した強力な、硬いもの。
実の両親が遺言のように植え付けた価値観は、
血糊のように拭うことができないが、
その上に鋼鉄の信条を建てられた。
──火に溶かされ、強く打たれることで、強度を増していく。割れても、直せる。
だから、鋼鉄は強い。
闇よりも悪よりも、銃火器よりも、遥かに。
チニスに駆けつけると、門番が槍を構えた。
「ヴィークルを全部引っ張り出せ!
今すぐここを引き払うんだ!
マグリバに行くぞ!」
「いきなり、何を──」
「お前たちを支配していたモヒカンが
別勢力に滅ぼされていた!
ここに向かってきている!」
全くのウソでたらめだ。
だが、真実を言っても信じられるはずがない。
そもそも、ノーマンをして、
あれが何なのかを真には理解できていない。
ノーマンのウソを聞いて、
戸惑っていた衛兵に緊張が走った。
だが、まだ動き出すには至っていない。
「先生、戻ってこられたんですか」
その時、ちょうどよくパトリックがやって来た。
血骸は継続中だ。一瞬で彼の胸ぐらを掴み、叫ぶ。
「今すぐ、全領民をここから出せ!
マグリバに移動するぞ!」
「はっ!
お前たち、話は聞いたな!
今すぐに乗り物を集めろ! 女子供と老人を先に逃がせ!」
何を言われるか身構えていたが、
すぐに行動に移してくれた。
決闘で心と鼻っ柱を完全にへし折ったのが、非常によい転機になった。
そうでなければ、思いっきり殴りつけて強制的に従わせなければならなかった。
たちまちに準備が完了し、
兵士が運転する車両に民が乗っていく。
砂埃を上げて、
民間人という資源がマグリバに向かっていく。
資源だ。
だが、失わせていい資源ではない。
リチャードならば受け入れるだろう。
「ノーマン殿の話に従え!
真偽いずれであれ、
お二方が逃げの一手を選択するなら我ら従う他なし!」
グランテイマーが領主として君臨していた指導力で指示を飛ばす。
領主親子を手懐けておいた甲斐があった。
領民の逃亡がスムーズに進行している。
「お前も乗れ、パトリック」
疲労を顔に浮かべつつ、こちらに付いてくるパトリックが、
首を横に振った。
「貴方にお供します」
「足手纏いだ。
それよりは道中の民を少しでも守れ」
そう言って、便利な駒となった相手の背中を叩いて送り出す。
「しかし……」
「これからは戦乱の時代になる。
その時に大事なのは、少しでも多くの兵と民間人だ。
これこそ荒野を貫く鋼鉄の信条だ」
「先生」
「それに、だ。殿は俺一人で……」
空と大地を、何かが断っていた。
そうとしか形容しようがない斬撃。
天地上下を横断するもの。
じりじりと近づいているように見えるが、それは違う。
遠くから放たれた、あまりに大きいそれが、確かな速さで迫ってきているのだ。
「クソッ……」
奴の斬撃。
避けることは不可能。
受けることも論外。
「今すぐ逃げろ」
「父様と一緒に戦えば……」
グランテイマーがいたところで何になるのか。
そう思うが、何も言わない。
子どもにとって、父親とはそういうものなのだろう。
「お前の親父と一緒にマグリバへ逃げろ。
リチャード様に無礼を働いたらお前らを斬るからな」
グランテイマーは領民の取りまとめに必死で、こちらの方を向いてはいない。
「おじいさん、こちらですよ」
「ああ、今行くよ」
腰の曲がりかけた老人二人が、
衛兵に守られつつ、
次の出発隊に入った。
「準備できたか! もう行け! 振り返らず身を伏せていくんだ」
バギーに老夫婦を乗せて出発させる。
老人が何度もこちらに頭を下げて、遠ざかっていく。
その時、全身の毛が総毛立って、隣のパトリックの頭を地面に叩きつけた。
すでに走り出したバギーは間に合わない。
ノーマンたちの上を高速の斬撃が飛んでいく。
バギーごと老婦人の上半身が両断された。
「まずい!」
あれはおそらく全てを破壊するタイプではない、
一地点を狙って素早く進んで斬るタイプのものだ。
剣邪にはこちらの方角や正確な位置がわかっていなかった。
だから、大枠を削るやり方を取っていた。
今、やつの斬撃は命を奪った。
斬れば斬るほどに強くなるのが奴の性質。
こちらがどこにいるのか、向こうにバレてしまった。
人を抱えている以上は、ここから一気に動くこともできない。
「場所を知られた!
全員散り散りに出発しろ。
そうすれば──」
「ノーマン殿! 愚息と我が民をお頼み申す!
いざーーー!!」
「父上!」
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