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侯爵子息・クラウンの、はじめの一歩
第5話 それぞれの変化(1)
しおりを挟む自分を省みるような素振りを見せたセシリアを、レガシーは横目で確認しながら一息ついた。
そして今度視線をもう一人へと向ける。
「それと、クラウン様」
少し緊張はしているが、それでも声が震えなかった。
もしかしたら、セシリアに対して割と歯に衣着せぬ物言いをしたからか。
どちらにしろ何だか良い感じに緊張が解れている。
彼に初コンタクトをはかるとしたら、きっと今しかあり得ない。
「セシリア嬢はいつもこういう感じだから、必要以上に気にするだけ無駄だよ。君の『変わってる』発言には激しく同意だけど、この通り彼女自身に自覚は無いし」
途中から、何だか思わずため息混じりになってしまった。
それにしても何だろう、
意外とスラスラと話せたのは、友人の事を話しているからなのか。
それとも彼がそうさせるのか。
(不思議だな・・・・・・彼は候爵子息、僕よりも二つも爵位が上なのに)
レガシーは、心中でそう独り言ちる。
人が苦手なレガシーだ。
誰相手でもそれなりに緊張も警戒もするのだが、爵位差があればあるほど身構えてしまうという自覚が、彼自身の中に存在する。
それはきっと、今までずっと父から口酸っぱく「偉い人相手には絶大に粗相をするなよ」と言われて育っているからだ。
それこそ、耳にタコが出来るほど。
だというのに思いの外スラスラと口から言葉が滑り出た事は、レガシー本人からしても十分驚くべき事だった。
そんな自身に驚いていると、少年の声が「――そうか。その、教えてくれて礼を言う」と言ってきた。
その声にふと思考の海から抜け出ると、先程よりも少し表情の柔らかくなったクラウンがそこに居た。
(良かった。どうやら僕も少しは役に立ったみたいだ)
そう思いながら、レガシーは一仕事終えたと言わんばかりに「ふぅ」とゆっくり息を吐く。
そして。
「……君、思ってたよりもずっと寛容な人だね」
そう告げた。
社交界デビューする前に貴族の子女は様々なマナーを叩き込まれる。
その中でも、社交界での大切な掟として教えられるのが『公式の場では、下位の爵位の者が上位の爵位の者の話に許先方の同意無く口を出してはならない』というものだ。
これは、社交に対して苦手意識しか無く、本当に必要最低限の知識と教養しか身につけていないレガシーでさえ知っている事だ。
おそらくデビューする子女なら、ほぼ全員が知っている事だろう。
つまりレガシーが使命感にと感情に負けて行ったこの行為は、実は社交界ルール的にはご法度なのだ。
それこそクラウンが「否」と言って騒げば、レガシーは社交界で干される・・・・・・までは、外に目撃者も居ないし子供ばかりの会話の場なので流石に無いにしても、周りから「そんな常識も知らない子」と思われる材料にはなり得ただろう。
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