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溺れるものは岩をも掴む

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 ミカは岩山へと泳ぎながら、洞穴の中に見えたものに驚いて、思わず海の水をガバガバと飲んでしまった。

(くっ·····苦しい·····水面はどこ!?どっちが上!?目が痛い!怖い!息が苦しいっ!)

 ちょうどその時、アメリアの使獣の力が切れてしまった。
 ミカは暗い海の中で、溺れ、ひたすらもがいた。
 もがいて、もがいて、やっと手に触れた硬い岩に必死にしがみつき、明るい方へ向かいひたすら手を動かし泳いだ。

「·····っ!!っはぁ!·····はぁ、はぁ、はぁ·····よ、よかった·····水面に出た。·····ここはどこだろう·····?」

 ミカが辿り着いたのは、洞窟のようになっている岩場であった。

(とりあえず·····この洞窟の奥に進んでみるか·····。それにしても、水中の洞窟の中身には驚いた·····。)

 水中の岩山にボコボコと空いた数十個の穴の一つ一つに、大きな鮫がいたのだ。
 鮫は目をつぶっていたので、寝ているようではあった。

 ミカは岩に掴まりながら洞窟の奥へと進んだ。
 足元に何十匹も鮫がいるかと思うと、水中から今にも食いつかれるのではないかと思い、ゾワゾワした。

(確か鮫って止まると死んでしまうんではなかったっけ?寝る時も泳ぎながら寝るって、聞いた事あるけど·····。でも、あそこにいるってことは、たぶん海の民の使獣なんだろうな。使獣なら、普通の生物と違う点があっても不思議ではないか·····。鮫って間近で見ると、本当に迫力あるなぁ。)

 洞窟の奥に行き着くと、10mほど上に小さい穴が空いてるのが見えた。

 ちょうどその時、上部の穴からは人の声が漏れ聞こえ、ボトっと、野菜クズが落ちてきた。

「なるほど。この穴はたぶん、城の厨房のゴミ箱なんだな。」

 よく見ると、洞窟の海水の所々に野菜や肉の破片がプカプカ浮いている。

(ソフィアの話では、アメリアの泳ぐ力の後は、壁を上るイザベラの力を使えって話だったな·····。きっとここを登って、あの穴から城に侵入すればいいんだな。)

 ミカは早速、「イザベラ・ニュートの使獣よ我に力を!」と唱え、壁をのぼり始めた。

 壁はコケでつるつるしており、特に突起物もなかったが、イモリの力でピトッと手が壁に吸い付き、すいすい登ることができた。

 時折、野菜クズが落ちてきて、ミカの洋服にベタっと付着した。

(もう深夜遅いのに、厨房に人がいるのはなんでだろう?·····ホセくんが前に「海の民は朝が早い」って言ってたから、厨房も今から仕込みしておかないと、朝食の準備が間に合わないのかな?)

 ミカはとうとう、穴の上まで辿り着いた。すると、厨房の声が漏れ聞こえてきた。どうやら厨房には、若い男性が2人いるようだ。
 
「はー、ようやく仕込みが終わった。族長も、奥さんのクオリティで俺らに朝食を作れって、無理あるよなー!」

「ホントほんと!さっさと族長が奥さんと息子さんを連れ戻しゃいいのにな!はー!ようやく寝れる!」

 明るかった電気が消えて、人の声も聞こえなくなった。
 そのタイミングを見計らって、ミカは厨房のゴミ箱として使われてる岩穴から、頭を少し出し周りを見渡して、注意深く出ようとした·····が、そこで思わぬ事態がおきた。
 頭を出し、右肩を出したはいいものの、左肩が通らない。

「げっ!····小さい穴だけど、いけるかなーって思ったが、ダメだった!完全にハマってしまった!·····ちょっと冷静になろう。えーっと、確かソフィアは、次はキースのフェレットの使獣の力を使えって言ってたな·····。そう言えば、フェレットの力って何なのだろう?しまった。キースに聞きそびれたな·····。」

 ミカがブツブツ言っていると、足音と厨房にいた若者の声が聞こえてきた。

「なんか、火を止め忘れた気がする!念の為、見てくるぜ!」

(まずい!ハマった状態で見つかってしまう!?·····ええい!ソフィアを信じて、キースの力を使おう!)

「キース・フェレの使獣よ、我に力を」

 ミカがそう唱えると、途端にハマっていた穴から、しゅるりと通り抜けられた。
 どうやらフェレットの能力は、狭い所を通れる力だったらしい。

 ミカは慌てて、かまどの陰に隠れると同時に、厨房の扉がバターンと開いた。

「あ·····ちゃんと、火を止めてたわ!時々あるんだよなー!なんか、やりそびれた気がする·····で、見てみると大丈夫なパターン。疲れてんのかな、俺。·····ふー。早く寝よーっと。」

 厨房の扉がバタンと閉まり、ミカは胸をなでおろし深くため息をついた。

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