運命の人から命を狙われています⁉︎

月密

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一話

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 フィオナ・セルフィーヌは、田舎貴族のしがない伯爵家の長女として生まれた。
 赤毛に赤茶色の瞳、容姿や性格は平凡であり可もなく不可もなし。趣味読書、特技菓子作り、好きな物甘い物、両親に二つ歳の離れた弟の四人家族。
 何時か、お伽話の様に白馬に乗った素敵な王子様の様な運命の人と出会い恋に落ちて結婚したいと思い続けて十数年ーー十八歳になった未だに婚約者の一人もいない。
 正直、セルフィーヌ家は大した財産はない。爵位こそ伯爵位を賜ってはいるが、少し裕福な平民程度の暮らしを送っている。
 それ故、フィオナには縁談話がほぼこない。たまにきたかと思えば、フィオナより遥かに歳上の男性くらいだ。贅沢と思うかも知れないが、流石にそれは丁重にお断りしている。
 ただ最近、両親から行き遅れになると酷く心配をされる様になり、遂には城へ行儀見習いに行ってはどうかと提案をされた。
 確かに城で侍女として働けば、多少なりとも箔がつくと聞いた事がある。

「やっぱり、お伽話みたいには無理よね」

 人生そんなに甘く無い。身に沁みた。
 二十歳を過ぎれば、完全に行き遅れになってしまうので、そろそろ現実を受け入れ少しでも条件の良い嫁ぎ先を探すべきだ。その為にはやはり両親の言う通りに一年程城へ行儀見習いに行き、残りの一年にかけるしかない。
 思い立ったら吉日ーーフィオナは早速行動に移す事にした。






 溜息が出そうなくらい豪華絢爛な調度品に囲まれ、日々神経を擦り減らす。
 フィオナが行儀見習いとして城で働き出してから、早くも一ヶ月が過ぎた。

(高そう……)

 客室の棚の埃を払いながら、棚上に置かれている変な形の置物を凝視する。
 美的感覚の乏しいフィオナには、これが一体何をモチーフに作られたのかは分からないが、かなりの値打ち物だという事だけは分かる。何故ならこの一ヶ月、城の様々な場所の掃除を担当したが、花瓶一つとっても最低でも使用人達の一月ひとつき分の給金は下らないからだ。今手にしている雑巾一枚だとしても、平民なら手にする事すら難しいに違いない。ただ埃を払うだけで、気が気ではない。
 
「そういえば昨日、偶然にも廊下でローデヴェイク様をお見掛けしちゃったの! 滅多にお目に掛かれないから幸運だったわ。でも本当、素敵よね~! あーお近付きになりたい!」

 フィオナが黙々と拭き掃除をしていると背中越しに、同じく客室の清掃をしていた侍女達の会話が聞こえて来た。この二人とはよく一緒になるが、兎に角噂話が好きらしく何時もサボりながら話をしている。彼女達もフィオナと同じく貴族出身者であり行儀見習いだが明らかに格が違う。田舎貴族で裕福ではないフィオナは、社交の場に出る機会はほぼ無いに等しく社交界には疎い。ただ彼女達の普段の会話からして、恐らくかなり裕福な家だろうとは推測出来る。
 あるところにはあるのねと思う今日この頃。

「でも、容姿は素敵だけどローデヴェイク様って妙な噂あるじゃない?」
「確かに変わり者とは言われてるけど、でもやっぱり素敵よ!」
「まあ私達には縁遠いお方だけど、万が一ローデヴェイク様とお近付きになる様な事があったら気を付けた方がいいわよ。何しろ死体愛好家って噂があるからね」

 死体愛好家ーー聞き慣れない言葉にフィオナは思わず手を止めた。
 断じて盗み聞きではない。この距離で声も抑えず話しているのだから嫌でも耳に入ると、自分に言い訳をしながら聞き耳を立てる。

「死体愛好家?」
「えぇ、ローデヴェイク様って、社交場には滅多に姿をお見せしないのに、墓地でよく目撃されているのよ。何でも、夜な夜な土を掘り起こしては好みの死体を漁って……」

 想像しただけで背筋に冷たいものが走る。
 侍女が黙り込むと物音すら止み、部屋は昼間だというのに異様な空気に包まれる。フィオナは思わずごくりと喉を鳴らした。

「貴女達、無駄なお喋りをしていないで、早く終わらせなさい」
「っ⁉︎」

 話に夢中で全く気が付かなかった。
 彼女達も同じだった様で、小さな悲鳴を上げ飛び上がった。
 部屋の扉の前に侍女長が仁王立ちになり、笑顔を引き攣らせていた。

「も、申し訳ございません‼︎」

 侍女の二人は慌てて掃除用具を掴むと、勢いよくお辞儀をして部屋から出て行った。
 逃げ遅れたフィオナは、部屋の隅で身を縮こませる。
 
「あら、貴女は確か先月入ったばかりの……」
「フィオナ・セルフィーヌです」
「あぁ、そうでしたね。丁度良かったです。実は貴女に書庫の整理をお願いしようと思っていた所なの。人手が足りてなくて、ずっと手付かずだったので大変かも知れないけど、お願い出来ますか」
「は、はい」

 侍女長から書庫の整理を言い付けられたフィオナは、掃除用具を纏めると早速書庫へと向かった。



 
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