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五話
しおりを挟む馬車が大きく揺れ、ゆっくりと止まったのが分かった。
着いてしまった……。
扉が開かれ、先にローデヴェイクが降りると手を差し出されたので恐る恐るその手を取った。
フィオナはローデヴェイクの後ろを歩きながら、周囲を観察する。立派な門構えに、城と見まごう程の広大な屋敷と庭。内部は言わずとも豪華な装飾や調度品ばかりだ。フィオナだけが場違いに思えて、萎縮してしまう。
「お帰りなさいませ、ローデヴェイク様」
出迎えたのはまだ年若い執事だった。
黒髪と切長の漆黒の瞳が印象的だ。
彼はローデヴェイクの後ろに居たフィオナに気が付くと、丁寧にお辞儀をする。
「ようこそ、フィオナ様」
まだ名乗ってもいないのにも関わらず、フィオナの名を呼んだ執事に目を見張りローデヴェイクを見るが、彼は笑むだけで何も言わない。
「食事の準備は整っておりますが、如何なさいますか」
「後にするよ。先にフィオナに見せたい物があるんだ」
薄暗い地下へと続く階段を降りて行く。
徐々に肌寒さを感じ身動ぐと、手にした洋燈の灯が揺れた。
「フィオナ」
重厚のある扉を開けると、彼が先に部屋の中へと入って行った。
靴の音が妙に耳に付き不安を煽る。
彼は慣れた様子で、順番に部屋に置かれた洋燈に火を灯していった。すると、薄暗かった視界は鮮明になっていく。
銀色の髪を揺らし振り返った彼の翡翠色の瞳は細められる。
「これは、私からの君への愛の証だよ。受け取って欲しい」
多分これはーープロポーズという意味だろう。そして彼の手が指し示している箱が、所謂婚約指輪……にしては明らかにサイズ感がおかしい。
フィオナは思わずごくりと喉を鳴らす。
「あの、ローデヴェイク様これは……」
「あぁ君にも分かるかい? 素晴らしい出来栄えだろう? 実はこれ、君の為に作らせた特注品なんだ。その所為で少々時間を要してしまって、君を迎えにくるのが遅くなってしまったんだけどね。さぁ、フィオナ、寝心地を確かめてみて。きっと気に入ってくれる筈だよ」
(寝心地をって……)
期待に満ちた表情を浮かべている……彼は本気だ。いや寧ろ冗談であって欲しい。
フィオナは異質な箱を見下ろしながら、顔を引き攣らせる。だが彼の笑顔に押し負けてしまい、渋々箱に入った。
「うん、想像通りだ。良く似合っているよ」
(それってどういう意味ですか⁉︎ っていうか、これ何処からどう見ても棺何ですけど⁉︎)
満足そうに頷く彼を、フィオナは棺の中で寝そべりながら白い目で見上げる。
陶器の様に白く端麗な顔立ちと、翡翠石と見まごう程に美しい瞳、知的で優しく穏やかな性質ーー肩書きなども含め、田舎貴族のしがない伯爵家の娘に過ぎない自分と彼では、本来なら住む世界が違い過ぎる。そんな彼からのプロポーズなのだから、もっと喜ぶべきだと自分に言い聞かせてみるが……今自分の置かれている状況を客観的に見て、どう考えてもおかしいとしか思えない。
フィオナは困惑しながら取り敢えず身体を起き上がらせた。
似合うと褒めて貰っても全く嬉しくない。それに何時迄もこんな棺の中で寝ていたくないーー普通に考えて縁起でもない。
「フィオナ」
するとローデヴェイクは、徐にフィオナの前に跪いた。その事に驚き身体は過剰反応し、後ろに仰反る。
(今度は何ですか⁉︎)
「私と一緒に、お墓に入ろう」
「……」
「君のキスで目覚めた瞬間、これは運命だと感じたんだ。あぁ君と一緒のお墓に入りたいと、私の心が叫んだ。こんな気持ちは、生まれて初めてなんだ」
(でしょうね⁉︎ というか、あの時そんな事考えていたんですか⁉︎)
「フィオナ、君と一緒に死にたい、結婚しよう」
(私の中では、死にたいと結婚するは共存しないんですけど!)
「これは君の棺と対になっているんだ」
彼はそう言いながら、自らフィオナの隣に置かれた棺に入った。
そうーー棺は二基あった。そしてまさかのペアだった……。
彼が笑顔で手を差し出してきたので、条件反射でその手を取ってしまった……。
「これは違っ」
「あぁ、フィオナ。嬉しいよ、私の求婚を受け入れてくれるんだね」
ローデヴェイクは、フィオナの手を握り締めたまま棺に寝そべると幸せそうに微笑んだ。思わず端麗な顔に見惚れてしまう。
(やっぱり、素敵……ーーじゃなくて! 怖過ぎる……)
ローデヴェイクに連れられ食堂へ行くと、既に夕食の準備がされていた。フィオナは躊躇いながらも席に着き、次々と運ばれてくる豪華過ぎる食事に舌鼓を打つ。
前菜からスープ、魚料理や肉料理、そしてなんと言っても食後のデザート! 卵の風味が抜群のプリンだ。カラメルのほろ苦さも混ざり合い、絶妙な美味しさだった。先程ドーナツを食べたばかりだが、フィオナはそれら全てを完食した。なんなら彼の分のデザートまで分けて貰った。幸せ過ぎる。
「よく食べたね」
「‼︎」
食べ終わり、ローデヴェイクに声を掛けられ我に返り現実を思い出す。
周りを見ると、彼だけでなく執事や侍女達もニコニコとしながらフィオナを見ていた。
一気に羞恥心が湧き起こり、俯き身を縮こませる。
「さて、フィオナ。寝室へ案内するよ」
更に追い討ちをかける様な彼からの発言に、今度は別の意味で固まってしまった。
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