「君の婚約者、浮気しているよ」と婚約者が代わるたびに教えてくれる親切な元婚約者がいるので、いつになっても結婚が出来ません……。

月密

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第五話

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「姉上、準備は出来ましたか?」

 数日後、クリスタは夜会に参加する事となった。正直気乗りしないが、父から参加するようにとの言い付けで仕方なく行く事にする。

 数日前に婚約破棄となりパートナーもいない。
 しかも社交界は驚く程噂が広まるのが早いので、出席者等は既に今回の騒動を知っている筈だ。
 何時もの事ではあるが、好奇の目に晒されながら内緒話をされるのは余り気分が良いものではない。

「ねぇリューク。別に無理しなくて良いのよ?」
「無理なんてしていません」
「でもどなたかご一緒したいご令嬢がいるんじゃないの?」

 パートナーがいない時は弟が同伴してくれている。
 リュークには婚約者はおらず問題はないが、彼だって年頃の男性だ。好いている女性の一人や二人いてもおかしくない。
 そうじゃなくても、不甲斐ない姉の所為で父は弟にまで手が回らず後回しになっているというのに、この期に及んで姉を優先させるのは申し訳ない。

「そんな女性はいませんよ。それにもし仮にいたとしても、姉上を一人で参加させるような真似は僕には出来ません」
「リューク……」

 優しい弟に感極まりそうになる。

「ほら、姉上、モタモタしていると夜会が終わってしまいます」




 フィオン伯爵家、今宵この屋敷で夜会が開かれている。
 クリスタとリュークが到着した時には既に夜会は始まっていた。
 豪華な装飾品で飾られた煌びやかな広間には華やかな人々が集まり談笑したり酒を愉しんだりしている。
 
 広間に足を踏み入れた瞬間、皆一様にクリスタへと意識を向ける。無論あからさまではなく、顔や身体はそのままだ。盗み見たり聞き耳を立てたりと器用な事だ。
 社交界では普通の事だが未だに慣れない。
 不意に隣にいるリュークを見れば、堂々としていた。弟だってクリスタの所為で好奇の目に晒されているというのにまるで意に介さない。
 二歳年下の弟の方が余程確りとしている事に情けなさを感じた。

 形ばかりの挨拶回りを終えると、壁際へと早々に避難する。
 リュークは先程何人かの令嬢等に声を掛けられていたので、邪魔にならないようにこっそり退散して来た。

 改めて広間を見渡すと、クリスタと同年代であろう令嬢達は己のパートナーと仲睦まじく過ごしている。少し羨ましい。

 これまで代わる代わる沢山の婚約者と夜会に参加してきた。だがあんな風に笑い合った事は一度もない。知り合って婚約していた期間が短過ぎるので当然だ。

(ブラッド様となら、きっと……)

 彼がパートナーだったならばきっとあんな風になれたのかも知れない。
 だが社交界デビューする前に婚約解消となってしまったので、結局一緒に参加する事はなかった。
 たまに見かける事はあるが、周りの目もあるので話す事は出来ない。

(もし今、隣に彼がいてくれたら……)

 きっと、とても楽しいだろう。
 談笑しながら彼はワイン、クリスタはジュースを飲む。飽きたらバルコニーに出て夜風にあたりながら少しだけ身体を寄せたり……。
 そんな妄想を脳内で繰り広げていると、不意に先日のレッスンが頭を過った。
 思わず身体が熱くなるのを感じる。

(やだ、私こんな所で……)

 レッスンの所為だろうか……。
 ふとした瞬間、ブラッドの事を考える事が増えたように思う。それに彼を思うと身体が熱く疼いて動悸も早くなる。
 
(ブラッド様……)

 数日前に会ったばかりなのに彼に会いたい。


「‼︎」
 
 そんな時、遠目にブラッドを見つけた。
 普段は優しいが飄々として少し変わり者に見えるが、社交場ではまるで別人のようだ。
 社交的で爽やかに笑って人の輪の中心にいる。

(あれって……)

 先程挨拶をしたこの屋敷の主人、フィオン伯爵の令嬢エヴリーヌだ。
 端麗で波打つ金色の髪と青く美しい瞳、惜しげもなく出された大ぶりの膨らみーー女性のクリスタが見ても分かった。
 正にあれが、ブラッドが言っていた色気だ。

(仲良さそう……)

 彼女はブラッドの腕に自らのそれを絡ませ身体を寄せている。何を話しているかは分からないがブラッドも愉しそうだ。

「ねぇ、あのお二人」
「ふふ、知ってますわ。ブラッド様とエヴリーヌ様、婚約なさったのでしょう?」

 ふと近くで話している令嬢達の声が聞こえてくる。
 きっとわざとだろう。チラチラと視線を感じる。
 元婚約者であるクリスタがどんな反応を見せるのか面白がっているのが分かった。

(ブラッド様が、婚約……)

 クリスタと婚約解消してから彼に婚約者が出来た事はない。
 だが彼だって二十二歳になり、そろそろ婚約者どころか直ぐにも妻を娶ってもおかしくない年頃だ。 
 そんな事は当然でずっと前から知っていた筈だったーーなのにどうしてこんなにも胸が苦しいのだろう。
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