17 / 17
第十六話
しおりを挟む「どうして……」
会いたくて仕方がなくて、こうやって屋敷を抜け出して来たのにそんな言葉が口から洩れるのは、彼が何時もと違うように見えたからだろうか。
「君こそどうしたんだい? 今日は約束なんてしてないよね」
「っ……」
ブラッドの言葉にクリスタは目を見開き唇をキツく結んだ。
確かに約束もせずに押し掛けるのはマナー違反だ。ただ彼ならきっと「よく来たね」「会いたかったよ」と言ってくれるのではないかと勝手に思っていた。
完全に拒絶された。
ただ自業自得だ。何故なら自分が最初に彼を突き放したのだから……。
あの日、助けに来てくれたから勘違いしてしまったのかも知れない。そもそも彼には婚約者がいるのに、一体何を期待していたのだろう……。
自分が惨めで恥ずかしくなってしまう。
「えっと、この前助けて頂いのにちゃんとお礼が言えなかったのでお礼が言いたくて」
「そんな些末な事でわざわざここまで来たの?」
些末な事……冷たく突き放したような言葉だ。
きょとんとした表情で首を傾げる彼の姿に、羞恥心に堪えられずクリスタは俯いた。
「謝礼なら先日、ロワリエ侯爵家から頂いたから大丈夫だよ」
「そうだったんですね……。でも自分で直接伝えたかったので。ブラッド様、あの日はご迷惑お掛け致しました、そして本当にありがとうございます。お父様も今回の事は多めに見てくださると言ってくれて、それもブラッド様が口添えして下さった事が大きいと思います。本当は何か私からもお礼が出来れば良いんですがーー⁉︎」
途中で何かを言われるのが怖くて、矢継ぎ早に話しているといきなり腕を掴まれた。
「そこまで言うなら、君のご厚意をありがたく頂くよ」
クリスタは驚き顔を上げブラッドを見る。
「それじゃあ、ご褒美頂戴」
そう言って妖艶に笑む彼から目が離せなくなった。
自分の身体がベッドに沈む感覚に思わず息を呑む。普段そんな事を気にした事もないのに、今は感覚が研ぎ澄まされどんな些末な事でも敏感に感じる。
「ブラッド様、何を……」
「何って、ご褒美くれるんだよね?」
突然ベッドに組み敷かれたクリスタは混乱する。反射的に逃れようと身動ぐが、成人男性の体重を掛けられていては微動だにも出来ない。
「確かに言いましたけど、それがどうして……」
「ご褒美は、クリスタが良いな」
「え……」
(今クリスタって聞こえたけど……。ご褒美が私ってあり得ないわ、きっと何時もの冗談ーー)
「っ‼︎」
戸惑っていると何時の間にかブラッドとの距離が異様に近くなり、鼻先が触れそうな程顔が近い。
久々にこんなに近くに彼を感じて息を呑む。
「ふっくらしてて柔らかくて美味しそうだね」
ブラッドは少し冷たさを感じる手でクリスタの頬に触れ、親指の腹で唇を撫でた。
「クリスタ、あ~んして」
「どうして」
「良いから、僕の言う通りにして」
何故だが分からないが、暗示に掛けられたようにブラッドの指示に従ってしまう。
クリスタは恐る恐る唇を開いた。
すると彼は至極嬉しそうに笑む。
「舌、出して」
「……‼︎」
目を瞑り羞恥心を堪えてながら舌を出した瞬間、舌先に生温かさを感じた。
驚いて目を開けると彼も同じように舌を出し、舌先でクリスタのそれに触れていた。
こんな事をしてはダメだと頭の中で警鐘を鳴らす。彼には婚約者がいる。分かっているが、抗えられない自分が嫌だ。
「っ……」
「はぁ、クリスタのベロ柔らかくて美味しいね。もっと堪能したい」
「ブラッド様、あのっ」
先程と違い、親指を強引に唇の隙間に差し入れこじ開けると彼の舌がぬるりと口内へと侵入してきた。無論そのまま唇は重なり、思わず舌を奥へ引くも彼のそれに絡み取られ吸われる。
「んっ、ふっ……」
ちゅっくちゅっ……室内に唇の合わさる音が響き、たまにどちらとも言えない吐息が洩れ聞こえていた。
後頭部にブラッドの手が回され押し付けるようにして深くキスをされる。
次第に頭がぼうっとして思考が鈍る。飲み込みきれない唾液があふれ唇の端から溢れ首筋を伝うのを感じた。
暫くしてようやく彼の唇が離れていく。
クリスタは息が切れ全身の力が抜けてしまい再びベッドへと沈んだ。
「こんなに息を切らして苦しかったんだね、可哀想に……」
まるで他人事のように言いながらクリスタの頬や鎖骨を撫で回す。その表情は恍惚としていた。
「ねぇ、クリスタ」
「……」
「あの男と結婚出来なくて残念だったね」
「え……?」
その瞬間、彼の目が鋭く冷たいものに変わる。瞳の奥に仄暗さを孕み、こんなブラッドを見るのは初めてだった。
「楽しかった? あの男と過ごす日々は。沢山会ってたね。どんな話をしたの? どんな風に笑ったの? 髪には触れられた? 手は? 肩は? その愛らしい唇で彼ともキスしたの?」
まるで尋問でも受けている気分になる。
目を逸らしたいのに、彼の目がそれを許さないと言っている。
「それとも……」
ゆっくりと手を下へと滑らせ、それは下腹部辺りで止まった。
「本当は彼をここに受け入れたのかな」
「っ‼︎」
やはり彼はまだあの日の事を疑っているのかも知れない。
否定しようと口を開きかけてやめた。何故なら否定しようが肯定しようが無意味に思えた。
否定した所で信じて貰えないだろうし、そもそもブラッドに誤解されようが関係ない。勿論気分の良いものではないが、彼はクリスタの元婚約者であり今はただの幼馴染なのだから……。
「否定しないんだね……。じゃあやっぱりあの男と寝たんだ? それであの日はどうして拒んだの? もしかして物足りなかった? 彼、淡白そうだもんね。……あの男、僕に嘘吐いたのか」
ブラッドは有無を言わせずそう結論付け、最後の言葉は独り言のように呟いた。
「クリスタ、久々にレッスンしよう。これまでみたいなお遊びじゃなくて、本格的なね」
そう言ってブラッドは再びクリスタの唇に自らのそれを重ねた。
148
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
初対面の婚約者に『ブス』と言われた令嬢です。
甘寧
恋愛
「お前は抱けるブスだな」
「はぁぁぁぁ!!??」
親の決めた婚約者と初めての顔合わせで第一声で言われた言葉。
そうですかそうですか、私は抱けるブスなんですね……
って!!こんな奴が婚約者なんて冗談じゃない!!
お父様!!こいつと結婚しろと言うならば私は家を出ます!!
え?結納金貰っちゃった?
それじゃあ、仕方ありません。あちらから婚約を破棄したいと言わせましょう。
※4時間ほどで書き上げたものなので、頭空っぽにして読んでください。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
だから言ったでしょう?
わらびもち
恋愛
ロザリンドの夫は職場で若い女性から手製の菓子を貰っている。
その行為がどれだけ妻を傷つけるのか、そしてどれだけ危険なのかを理解しない夫。
ロザリンドはそんな夫に失望したーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる