「君の婚約者、浮気しているよ」と婚約者が代わるたびに教えてくれる親切な元婚約者がいるので、いつになっても結婚が出来ません……。

月密

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第十六話

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「どうして……」

 会いたくて仕方がなくて、こうやって屋敷を抜け出して来たのにそんな言葉が口から洩れるのは、彼が何時もと違うように見えたからだろうか。

「君こそどうしたんだい? 今日は約束なんてしてないよね」
「っ……」

 ブラッドの言葉にクリスタは目を見開き唇をキツく結んだ。
 確かに約束もせずに押し掛けるのはマナー違反だ。ただ彼ならきっと「よく来たね」「会いたかったよ」と言ってくれるのではないかと勝手に思っていた。
 完全に拒絶された。
 ただ自業自得だ。何故なら自分が最初に彼を突き放したのだから……。

 あの日、助けに来てくれたから勘違いしてしまったのかも知れない。そもそも彼には婚約者がいるのに、一体何を期待していたのだろう……。
 自分が惨めで恥ずかしくなってしまう。
 
「えっと、この前助けて頂いのにちゃんとお礼が言えなかったのでお礼が言いたくて」
「そんな些末な事でわざわざここまで来たの?」
 
 些末な事……冷たく突き放したような言葉だ。
 きょとんとした表情で首を傾げる彼の姿に、羞恥心に堪えられずクリスタは俯いた。

「謝礼なら先日、ロワリエ侯爵家から頂いたから大丈夫だよ」
「そうだったんですね……。でも自分で直接伝えたかったので。ブラッド様、あの日はご迷惑お掛け致しました、そして本当にありがとうございます。お父様も今回の事は多めに見てくださると言ってくれて、それもブラッド様が口添えして下さった事が大きいと思います。本当は何か私からもお礼が出来れば良いんですがーー⁉︎」

 途中で何かを言われるのが怖くて、矢継ぎ早に話しているといきなり腕を掴まれた。

「そこまで言うなら、君のご厚意をありがたく頂くよ」

 クリスタは驚き顔を上げブラッドを見る。

「それじゃあ、ご褒美頂戴」

 そう言って妖艶に笑む彼から目が離せなくなった。


 自分の身体がベッドに沈む感覚に思わず息を呑む。普段そんな事を気にした事もないのに、今は感覚が研ぎ澄まされどんな些末な事でも敏感に感じる。

「ブラッド様、何を……」
「何って、ご褒美くれるんだよね?」

 突然ベッドに組み敷かれたクリスタは混乱する。反射的に逃れようと身動ぐが、成人男性の体重を掛けられていては微動だにも出来ない。

「確かに言いましたけど、それがどうして……」
「ご褒美は、クリスタが良いな」
「え……」

(今クリスタって聞こえたけど……。ご褒美が私ってあり得ないわ、きっと何時もの冗談ーー)

「っ‼︎」

 戸惑っていると何時の間にかブラッドとの距離が異様に近くなり、鼻先が触れそうな程顔が近い。
 久々にこんなに近くに彼を感じて息を呑む。

「ふっくらしてて柔らかくて美味しそうだね」

 ブラッドは少し冷たさを感じる手でクリスタの頬に触れ、親指の腹で唇を撫でた。

「クリスタ、あ~んして」
「どうして」
「良いから、僕の言う通りにして」

 何故だが分からないが、暗示に掛けられたようにブラッドの指示に従ってしまう。
 クリスタは恐る恐る唇を開いた。
 すると彼は至極嬉しそうに笑む。

「舌、出して」
「……‼︎」

 目を瞑り羞恥心を堪えてながら舌を出した瞬間、舌先に生温かさを感じた。
 驚いて目を開けると彼も同じように舌を出し、舌先でクリスタのそれに触れていた。
 こんな事をしてはダメだと頭の中で警鐘を鳴らす。彼には婚約者がいる。分かっているが、抗えられない自分が嫌だ。

「っ……」
「はぁ、クリスタのベロ柔らかくて美味しいね。もっと堪能したい」
「ブラッド様、あのっ」

 先程と違い、親指を強引に唇の隙間に差し入れこじ開けると彼の舌がぬるりと口内へと侵入してきた。無論そのまま唇は重なり、思わず舌を奥へ引くも彼のそれに絡み取られ吸われる。

「んっ、ふっ……」

 ちゅっくちゅっ……室内に唇の合わさる音が響き、たまにどちらとも言えない吐息が洩れ聞こえていた。
 後頭部にブラッドの手が回され押し付けるようにして深くキスをされる。
 次第に頭がぼうっとして思考が鈍る。飲み込みきれない唾液があふれ唇の端から溢れ首筋を伝うのを感じた。

 暫くしてようやく彼の唇が離れていく。
 クリスタは息が切れ全身の力が抜けてしまい再びベッドへと沈んだ。

「こんなに息を切らして苦しかったんだね、可哀想に……」

 まるで他人事のように言いながらクリスタの頬や鎖骨を撫で回す。その表情は恍惚としていた。

「ねぇ、クリスタ」
「……」
「あの男と結婚出来なくて残念だったね」
「え……?」

 その瞬間、彼の目が鋭く冷たいものに変わる。瞳の奥に仄暗さを孕み、こんなブラッドを見るのは初めてだった。

「楽しかった? あの男と過ごす日々は。沢山会ってたね。どんな話をしたの? どんな風に笑ったの? 髪には触れられた? 手は? 肩は? その愛らしい唇で彼ともキスしたの?」

 まるで尋問でも受けている気分になる。
 目を逸らしたいのに、彼の目がそれを許さないと言っている。

「それとも……」

 ゆっくりと手を下へと滑らせ、それは下腹部辺りで止まった。

「本当は彼をここに受け入れたのかな」
「っ‼︎」

 やはり彼はまだあの日の事を疑っているのかも知れない。
 否定しようと口を開きかけてやめた。何故なら否定しようが肯定しようが無意味に思えた。
 否定した所で信じて貰えないだろうし、そもそもブラッドに誤解されようが関係ない。勿論気分の良いものではないが、彼はクリスタの元婚約者であり今はただの幼馴染なのだから……。

「否定しないんだね……。じゃあやっぱりあの男と寝たんだ? それであの日はどうして拒んだの? もしかして物足りなかった? 彼、淡白そうだもんね。……あの男、僕に嘘吐いたのか」

 ブラッドは有無を言わせずそう結論付け、最後の言葉は独り言のように呟いた。

「クリスタ、久々にレッスンしよう。これまでみたいなお遊びじゃなくて、本格的なね」

 そう言ってブラッドは再びクリスタの唇に自らのそれを重ねた。



 
 
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