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2話
しおりを挟む「え?」
私の言葉にニックは呆けた表情になる。
「今まで学園に在籍している三年間、私、あなたにずっとお金を貸してきましたよね? それを返して下さいといってるんです」
私がそう言うとニックは目に見えて焦り始めた。
「な、なんで今さらそんな……」
「だって婚約破棄されましたし。もうあなたの返済を待つ必要も無いので」
「……」
ニックは黙った。
「私も別に今ここで返せなんて言いませんよ。その代わりにいつに返せるかどうかは今しっかりと聞かせて頂きますが」
「ち、ちなみにいくらなんだ……?」
「ええと……、約金貨百枚ですね」
ちなみに、金貨百枚は貴族の感覚でも十分大金だ。
平民なら一生遊んで暮らせる程の額だ。
金額を聞いたニックは冷や汗を流した。
「お、お前と俺の仲じゃないか。今まで愛しあってきただろう? そのよしみで……」
ニックが看過できないことを言い始めた。
「は? あなたに愛情なんか感じたことなんて一度もありませんが?」
「え?」
ニックは呆けた表情になる。
「いや、当たり前でしょう。頻繁に女性にお金を借り続けるような男の人を誰が好きになるんですか」
これにはみんな同意しているのか、パーティー聴衆たちはうんうんと頷いている。
特に女性がよく頷いていた。
もしかして、今まで自分が愛されていると思っていたのだろうか。
「そ、そんなバカな……だってあんなに笑って」
「それは愛想笑いです。一応婚約者だからしていただけですよ」
ニックはよく自慢話をしてきた。
それに対して何の反応もしないわけにはいかないので愛想笑いをしていたのだが、まさかそんな勘違いをしていたとは。
「ほら、早くいつ返せるか言ってくださいよ。たんまり借金があるんですから、きっちり返済してもらわないと」
私は手を叩いてニックを急かす。
ニックは俯いたまま答えた。
「知らん」
「は?」
「俺はそんな借金知らん! 言いがかりだ!」
「えぇ……」
この男、自分の勘違いが分かった瞬間、手のひらを返してきた。
「そんな借金した覚えはない! お前が勝手に言ってるだけだ! もう帰らせてもらう!」
ニックは強引に話を切り上げたいようだった。
借金と勘違いのこともあり、今すぐに帰りたいのだろう。
だが、そんなことはさせる訳がない。
「借金した覚えはない? それはおかしいですねぇ」
私はわざとらしくそう言いながら、予めこんな時のために用意していたものを取り出す。
「ここに借用書がしっかりとあるんですが、これはあなたのサインと指紋なのでは?」
私がニックに提示した今までの借用書には、きっちりとニックのサインと指紋があった。
私はニッコリと笑う。
逃がすわけないじゃないですか。
きっちりとお金はかえしてもらいますよ?
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