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私の名前はアイリ・ホストン。
冒険者ギルド『勇猛なる獅子』で働くとある男爵貴族の娘だ。
貴族と言っても、私の家は数年前に没落したので今は平民と変わらない生活を送っている。
家が没落したのは、両親が事故で他界したからだった。
両親の遺産は少なかった。
だから学園を卒業したあと、私は働き始めた。
仕事なんてしたことのない、元貴族の娘を雇ってくれるような所は冒険者ギルドしか無かったので大変だった。
それが約一年前のこと。
端的に言って、この一年間は地獄だった。
冒険者ギルドのギルド長のフィリップが大の貴族嫌いで、私に対してきつく当たってきたのだ。
私にだけ回される大量の仕事。
異様に少ない賃金。
セクハラなんて日常茶飯事で、お尻や腰をいやらしい手つきで触ってくる。
フィリップは私の境遇を知っていて、私がこの仕事を止めることが出来ないとわかっていたようだ。
セクハラをされても抵抗しない私を見て、いじめは次第に他の職員にも伝染していった。
私には味方がいなかった。
毎日いじめられ、残業させられて寝る暇も無く、心も身体もボロボロになっていった。
私はもう限界だった。
★★★
「おい、これをやっておけ」
目の前にドサッ、と大量の紙の束が置かれた。
声の方向を見るとフィリップが机のそばに立って、肥えて大きなお腹をさすっていた。
「そ、そんな……もうすぐ昼休みで……」
「うるさい。黙ってやれ。上ににお前の態度が悪いって報告してこの仕事辞めさてもいいんだぞ?」
「……やります」
あの上司ならやりかねない。
明らかに理不尽な命令でも、私は我慢するしかなかった。
こんな風に私は日々のストレスのはけ口にされた。
しかしそれでも耐えているとどんどんと虐めはエスカレートしていった。
私が必死で完成させた資料が次の日の朝には無くなっている。
わざと汚した床を掃除させられる。
食事していたら汚水を被せられる。
そして直接的な手段に移っていった。
「あんた、ちょっと顔貸しなさいよ」
複数の女性職員が私の机の前に立った。
一番先頭に立っていた濃い化粧のメアリという名前の女性職員が私を馬鹿にしたような笑みで見る。
「はい……」
彼女たちに連れられ、私はトイレまで来た。
トイレに入ると、周りを囲まれる。
メアリは腕を組みながら隣にいる、腕に包帯を巻いた女性職員を指した。
「あんたが今日私にぶつかってきたせいで骨が折れちゃったんだけど。罰として私の仕事全部やりなさいよ」
その女性職員がにやにやと笑いながら包帯で巻かれた腕を見せてきた。
今日の朝、彼女と私は軽く肩がぶつかった。
すると彼女は悲鳴をあげ、腕が折れたと騒ぎ始めたのだ。
もちろん肩が軽くぶつかった程度で腕が折れるわけがない。
しかも彼女の方からぶつかってきた位だ。
つまり、完全に言いがかりをつけてきているのだ。
「あれは腕が軽くぶつかっただけで……」
私が言い返すと周りの女性職員たちが次々と口を開く。
「何? 私達に逆らうわけ?」
「あんたふざけてんの?」
「でも、本当に軽く触れただけで……」
「人の腕を折っておいて言い訳するなんて、とんだクズね!」
「目にものを見してやるわ!」
「きゃあっ! 止めてください!」
女性職員が私の髪を掴んだ。
ぶちぶちと髪が千切れていく感触。
そして頭を掴まれてトイレの中に突っ込まれた。
「──がはっ!」
臭い。
苦しい。
口に入った水が変な味がする。
「あはは! きたなーい!」
「でもお似合いよね! いっつも汚いアイリなら!」
メアリの取り巻き達が私を見て嘲笑する。
「調子乗ってんじゃないわよ! アイリのくせに!」
何度も何度も頭を掴まれてトイレの中に突っ込まれる。
息が出来なくてどんどんと頭が真っ白になっていくのが分かった。
「──ごめ、ん、なさい」
「今更謝っても遅いわよ! このっ! クズ! 黙って私たちの言うこと聞くって言いなさい!」
「わかり、ま、した」
私がそう言うとやっとトイレの水に突っ込むのを止めて頭から手を離してくれた。
トイレの床に放り投げられる。
喉を抑えてひゅー、ひゅー、と息をする。
そして彼女たちは私を蹴りつけ始めた。
何度も顔やお腹を蹴りつけられる。
それがしばらく続いて彼女たちは満足したのか蹴るのを止めた。
「ふん、二度と私に逆らわないことね」
朦朧とする意識の中で、そんな私を見下ろして彼女たちは馬鹿にしたように嘲笑し遠ざかっていったのが分かった。
(誰か、助けて……)
暗い絶望の中、私は助けを求めた。
冒険者ギルド『勇猛なる獅子』で働くとある男爵貴族の娘だ。
貴族と言っても、私の家は数年前に没落したので今は平民と変わらない生活を送っている。
家が没落したのは、両親が事故で他界したからだった。
両親の遺産は少なかった。
だから学園を卒業したあと、私は働き始めた。
仕事なんてしたことのない、元貴族の娘を雇ってくれるような所は冒険者ギルドしか無かったので大変だった。
それが約一年前のこと。
端的に言って、この一年間は地獄だった。
冒険者ギルドのギルド長のフィリップが大の貴族嫌いで、私に対してきつく当たってきたのだ。
私にだけ回される大量の仕事。
異様に少ない賃金。
セクハラなんて日常茶飯事で、お尻や腰をいやらしい手つきで触ってくる。
フィリップは私の境遇を知っていて、私がこの仕事を止めることが出来ないとわかっていたようだ。
セクハラをされても抵抗しない私を見て、いじめは次第に他の職員にも伝染していった。
私には味方がいなかった。
毎日いじめられ、残業させられて寝る暇も無く、心も身体もボロボロになっていった。
私はもう限界だった。
★★★
「おい、これをやっておけ」
目の前にドサッ、と大量の紙の束が置かれた。
声の方向を見るとフィリップが机のそばに立って、肥えて大きなお腹をさすっていた。
「そ、そんな……もうすぐ昼休みで……」
「うるさい。黙ってやれ。上ににお前の態度が悪いって報告してこの仕事辞めさてもいいんだぞ?」
「……やります」
あの上司ならやりかねない。
明らかに理不尽な命令でも、私は我慢するしかなかった。
こんな風に私は日々のストレスのはけ口にされた。
しかしそれでも耐えているとどんどんと虐めはエスカレートしていった。
私が必死で完成させた資料が次の日の朝には無くなっている。
わざと汚した床を掃除させられる。
食事していたら汚水を被せられる。
そして直接的な手段に移っていった。
「あんた、ちょっと顔貸しなさいよ」
複数の女性職員が私の机の前に立った。
一番先頭に立っていた濃い化粧のメアリという名前の女性職員が私を馬鹿にしたような笑みで見る。
「はい……」
彼女たちに連れられ、私はトイレまで来た。
トイレに入ると、周りを囲まれる。
メアリは腕を組みながら隣にいる、腕に包帯を巻いた女性職員を指した。
「あんたが今日私にぶつかってきたせいで骨が折れちゃったんだけど。罰として私の仕事全部やりなさいよ」
その女性職員がにやにやと笑いながら包帯で巻かれた腕を見せてきた。
今日の朝、彼女と私は軽く肩がぶつかった。
すると彼女は悲鳴をあげ、腕が折れたと騒ぎ始めたのだ。
もちろん肩が軽くぶつかった程度で腕が折れるわけがない。
しかも彼女の方からぶつかってきた位だ。
つまり、完全に言いがかりをつけてきているのだ。
「あれは腕が軽くぶつかっただけで……」
私が言い返すと周りの女性職員たちが次々と口を開く。
「何? 私達に逆らうわけ?」
「あんたふざけてんの?」
「でも、本当に軽く触れただけで……」
「人の腕を折っておいて言い訳するなんて、とんだクズね!」
「目にものを見してやるわ!」
「きゃあっ! 止めてください!」
女性職員が私の髪を掴んだ。
ぶちぶちと髪が千切れていく感触。
そして頭を掴まれてトイレの中に突っ込まれた。
「──がはっ!」
臭い。
苦しい。
口に入った水が変な味がする。
「あはは! きたなーい!」
「でもお似合いよね! いっつも汚いアイリなら!」
メアリの取り巻き達が私を見て嘲笑する。
「調子乗ってんじゃないわよ! アイリのくせに!」
何度も何度も頭を掴まれてトイレの中に突っ込まれる。
息が出来なくてどんどんと頭が真っ白になっていくのが分かった。
「──ごめ、ん、なさい」
「今更謝っても遅いわよ! このっ! クズ! 黙って私たちの言うこと聞くって言いなさい!」
「わかり、ま、した」
私がそう言うとやっとトイレの水に突っ込むのを止めて頭から手を離してくれた。
トイレの床に放り投げられる。
喉を抑えてひゅー、ひゅー、と息をする。
そして彼女たちは私を蹴りつけ始めた。
何度も顔やお腹を蹴りつけられる。
それがしばらく続いて彼女たちは満足したのか蹴るのを止めた。
「ふん、二度と私に逆らわないことね」
朦朧とする意識の中で、そんな私を見下ろして彼女たちは馬鹿にしたように嘲笑し遠ざかっていったのが分かった。
(誰か、助けて……)
暗い絶望の中、私は助けを求めた。
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