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9、最大の敵は――
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その時、アデル同様、爆発しそうなバルト公爵を「ここは私に任せて」と制止してから、階下へ駆け降りていく一つの影があった。
(アデル、未来の女王たるもの、いかなる場面でも取り乱してはいけないわ)
男孫に失望してほぼ改憲の意志を決めた王太后だ。
そしていよいよアデルが兄を怒鳴りつけてやろうと息を吸い込んだとき――楽団の前に立った王太后の直接の指揮により、演奏がいきなりクライマックス部分から再開される。
アデルは、はっとした。
(これは――!?)
毒を盛られて瀕死の主人公が、絶体絶命の状況でコロシアムでの戦いに挑む場面の曲!!
独白の曲で主人公は歌う。
最大の敵はいつも自分自身なのだと――
アデルは目の覚める思いだった。
(そうだ。私もいい加減、自分の甘さと向き合わなくては……!)
ここまで相手を増長させたのは、何をされてもただ流してきた自分の責任もある。
きっちりとこの落とし前はつけさせるにしても――
(私がキレるのは今でも、ここでもない)
この場で激情をぶつければ、今まで時間をかけて築き上げてきた自分のイメージを大きく損ねてしまう。
そう冷静に返ったタイミングで、壇上にすっ飛んできたジェレミーがジャケットを脱いでアデルの肩にかけてくれた。
「大丈夫ですか、お姉様!」
「ええ、大丈夫よ」
すんでで自分を取り戻したアデルは、生徒達の注目が集まる中、完璧な型の淑女の礼をした。
「それより皆さん、せっかくの記念日にお騒がせして申し訳ありません。
私のことは気にせず、どうぞ卒業パーティーをお楽しみ下さい――それでは失礼させて頂きます」
堂々と挨拶し、颯爽と壇上を去って行く。
その背筋をピンと伸ばしたアデルの後ろ姿は、豚の血を滴らせながらもどこまでも気高く美しかった。
――と、アデルがダンスホールから去った後、入れ替わるように王太后が壇上に立つ。
そして、慌てふためくレイモンとロイドに対し、閉じた扇をビシッと向けて鶴の一声を飛ばす。
「お前達二人とも廃嫡!」
「「ええっ!?」」
追加で忘れず男爵令嬢エリーザにも一声。
「お前は国外追放」
「ぎゃっ」
一方、ダンスホールを出たアデルを、一人ジェレミーだけが追いかけていく。
全速でステージに駆け上った時にシャツのボタンが外れ、鍛え抜かれた胸板が丸だしになった状態で。
「お姉様! 待って下さい」
玄関を出てすぐの広階段でようやく振り返ったアデルは、
「――!?」
そのむき出しの見事に盛り上がったジェレミーの胸筋を見たとたん閃いた。
(そうか、これだわ!)
後日、アデルが過度な筋トレにより脂肪を減らし、よけい胸を平面に近づけたことは言うまでもない。
しかし、つきっきりで筋肉トレーニング指導を受けているうちに、遅まきながらジェレミーの自分への献身的な愛に気づき、一人の男性として意識するようになる。
そうして徐々にジェレミーに惹かれ始めた矢先、エミールが抱き合っていたのは泣き出した女優を慰めていただけだと判明。誤解を解くのにあわせてエミールからアデルを崇拝する熱い気持ちを告白されてしまう。
そんな二人の男性の間で心が揺れている最中、アデルは招かれた近隣の帝国で、若き皇帝と衝撃的な出会いをし、熱烈な求婚を受けてしまうのだった。
そこに激怒したバルト公爵と王太后により婚約解消を言い渡され、廃嫡の審議にかけられているレイモンが、今更ながらの恋の悪あがきを始める。
――等々、アデルはしばらく恋の嵐に翻弄されることになるが、それはまた別のお話――
なお、王太后によって提出された女性の王位および爵位の継承権を認める改正法案は議会にて無事に可決。あわせてロイドの廃嫡が決定し、アデルが時期バルト公爵位を継ぐことが決定する。
おまけとして、文字通り裸で国外追放されたという男爵令嬢エリーザのその後を知る者は誰もいない。
<完>
(アデル、未来の女王たるもの、いかなる場面でも取り乱してはいけないわ)
男孫に失望してほぼ改憲の意志を決めた王太后だ。
そしていよいよアデルが兄を怒鳴りつけてやろうと息を吸い込んだとき――楽団の前に立った王太后の直接の指揮により、演奏がいきなりクライマックス部分から再開される。
アデルは、はっとした。
(これは――!?)
毒を盛られて瀕死の主人公が、絶体絶命の状況でコロシアムでの戦いに挑む場面の曲!!
独白の曲で主人公は歌う。
最大の敵はいつも自分自身なのだと――
アデルは目の覚める思いだった。
(そうだ。私もいい加減、自分の甘さと向き合わなくては……!)
ここまで相手を増長させたのは、何をされてもただ流してきた自分の責任もある。
きっちりとこの落とし前はつけさせるにしても――
(私がキレるのは今でも、ここでもない)
この場で激情をぶつければ、今まで時間をかけて築き上げてきた自分のイメージを大きく損ねてしまう。
そう冷静に返ったタイミングで、壇上にすっ飛んできたジェレミーがジャケットを脱いでアデルの肩にかけてくれた。
「大丈夫ですか、お姉様!」
「ええ、大丈夫よ」
すんでで自分を取り戻したアデルは、生徒達の注目が集まる中、完璧な型の淑女の礼をした。
「それより皆さん、せっかくの記念日にお騒がせして申し訳ありません。
私のことは気にせず、どうぞ卒業パーティーをお楽しみ下さい――それでは失礼させて頂きます」
堂々と挨拶し、颯爽と壇上を去って行く。
その背筋をピンと伸ばしたアデルの後ろ姿は、豚の血を滴らせながらもどこまでも気高く美しかった。
――と、アデルがダンスホールから去った後、入れ替わるように王太后が壇上に立つ。
そして、慌てふためくレイモンとロイドに対し、閉じた扇をビシッと向けて鶴の一声を飛ばす。
「お前達二人とも廃嫡!」
「「ええっ!?」」
追加で忘れず男爵令嬢エリーザにも一声。
「お前は国外追放」
「ぎゃっ」
一方、ダンスホールを出たアデルを、一人ジェレミーだけが追いかけていく。
全速でステージに駆け上った時にシャツのボタンが外れ、鍛え抜かれた胸板が丸だしになった状態で。
「お姉様! 待って下さい」
玄関を出てすぐの広階段でようやく振り返ったアデルは、
「――!?」
そのむき出しの見事に盛り上がったジェレミーの胸筋を見たとたん閃いた。
(そうか、これだわ!)
後日、アデルが過度な筋トレにより脂肪を減らし、よけい胸を平面に近づけたことは言うまでもない。
しかし、つきっきりで筋肉トレーニング指導を受けているうちに、遅まきながらジェレミーの自分への献身的な愛に気づき、一人の男性として意識するようになる。
そうして徐々にジェレミーに惹かれ始めた矢先、エミールが抱き合っていたのは泣き出した女優を慰めていただけだと判明。誤解を解くのにあわせてエミールからアデルを崇拝する熱い気持ちを告白されてしまう。
そんな二人の男性の間で心が揺れている最中、アデルは招かれた近隣の帝国で、若き皇帝と衝撃的な出会いをし、熱烈な求婚を受けてしまうのだった。
そこに激怒したバルト公爵と王太后により婚約解消を言い渡され、廃嫡の審議にかけられているレイモンが、今更ながらの恋の悪あがきを始める。
――等々、アデルはしばらく恋の嵐に翻弄されることになるが、それはまた別のお話――
なお、王太后によって提出された女性の王位および爵位の継承権を認める改正法案は議会にて無事に可決。あわせてロイドの廃嫡が決定し、アデルが時期バルト公爵位を継ぐことが決定する。
おまけとして、文字通り裸で国外追放されたという男爵令嬢エリーザのその後を知る者は誰もいない。
<完>
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