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【巻き込まれた善人】
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然程派手さは無いが、一目で仕立ての良さが分かる調度品で飾られた応接室を、信之はこれまた高そうなティーカップを片手にさりげなく見渡す。
信之と春馬は、『お待ちしておりました聖者様』と喜びをあらわに扉から飛び出してきた男に連れられて、寒い中庭から暖かな応接室へと場所を移していた。
「此方もお使い下さい」
お茶の支度を終えたメイドが、夏仕様の服装をしている信之達にブランケットを差し出す。ありがたく受け取ると、早速肩から引っ掛けた。
並んで座る春馬も同じようにブランケットを羽織り、ほっと息を吐く。
三人がけ程の幅のあるソファに、二人は肘が当たりそうなくらい寄り添って座っていた。常だと男同士では有り得ない距離感だと信之も春馬も気づいていたが、お互い何も言わない。
半分程中身が減ったカップを春馬がテーブルに戻したのを見て、倣う様に信之もカップを戻した。それをひと段落の合図と判断したのか、目の前に座った男が口を開く。
「改めまして、聖者様。我がエアル国においで頂きましたこと、誠に嬉しく存じます」
信之達と違い三人がけソファの中央にゆったりと腰掛けた彼は、国王ティリー•ガラクトコミカ•エアルと名乗り優雅に笑みを浮かべた。
歳の頃は40であろうか、豊かなブランドの髪と青い目が美しいティリーは中世ヨーロッパじみた格好をしており、信之が日本では無い場所にいる事を知らしめる。
「後ろの2人は、騎士団長のラザーニャ•ヌーギエスと魔術師団長のクレアス•アルニー。主にこの二人が聖者様のサポートにつくことになります」
ティリーの背後に立っていた二人の男性が、紹介を受けて無言で頭を下げた。特にどっちがどっち、といった説明は無い。しかし信之と同年代の働き盛りであろう彼等は、片や軍曹筋肉質な短髪、片や脹脛半ばまである長いローブをまとった細身の長髪と正反対かつ分かりやすい二人組であったため、信之も詳しく問いただす事はしなかった。
悪意は感じないが、じっと見つめてくるラザーニャとクレアスの視線は何だか落ち着かず、信之はそっと二人から視線を逸らしてティリーを見遣る。
「サポートと仰いますが、我々はこの状況が全く理解出来ておりません。何かご存じであれば教えて頂きたいのですが」
「そうですね、どこからご説明したら良いか…」
信之の問いかけに、ティリーは少し考える様に顎に手を当てた。
「我が国エアルは、エポヘスという大陸にあります」
話の内容はこうだ。
エポヘスという大陸には四つの国があり、その中の一つが信之達のいるエアル国。
エポヘス大陸の中央には世界樹があり四つの国を守っているが、定期的に瘴気と呼ばれる良く無いものが発生して人々の生活に悪影響を及ぼすため、聖魔法の使い手である聖者や聖女が浄化をする必要がある。
聖者や聖女は世界樹が選定し必要な時に現れるのだが、必ずしも異世界から呼び寄せられるのでは無く、王族に聖魔法が使える赤ちゃんが産まれる事もあるなど、選定方法は様々だ。
現在エアル国では、先代の聖女が亡くなって三年が経っており、新たな聖魔法の使い手として、異世界から聖者が呼び寄せられた。
「…正直、信じられません」
春馬が震える声で唸る。顔色が悪いが、おそらく信之自身も同じように青い顔をしているのだろう。
「戸惑われるのは当然だと思います。ですが、どうかご助力頂きたい」
穏やかな笑みを消したティリーが座ったまま深く頭を下げた。信之は綺麗なブランドの髪がサラリと揺れるのを呆気に取られてボンヤリと眺めていたが、ふと引っ掛かりを覚えて首を捻る。
「あの、聖者というのは一人なのでしょうか?」
信之が問うと、ティリーが振り返り背後の魔術師団長クレアスを見遣った。クレアスは軽く頷くとテーブルの側まで歩み出て、腰に付けた握り拳程の小さなポーチからボーリングの球程もある透明なガラスの球を取り出す。
「これは、触れた人間の情報を鑑定する魔道具です。聖者様は一つの国に一人しか存在できません、これでどちらが聖者様なのか調べさせて頂きます」
なんてファンタジー…と思わず信之が小さく呟くと、それが聞こえたのか春馬がフッと噴いた。僅かに緊張が解れたのか少し顔色が良くなっている。
「前田君先にどうぞ。というか、俺は助けようとして一緒に穴に落っこちただけだからな、聖者とやらは前田君で違いないと思うよ」
春馬の腕を肘でちょいちょいと突くと、クレアスがスッとガラス球を春馬の前に差し出した。
春馬は戸惑ったように何度かガラス球と信之を見比べていたが、信之が動かない事を察すると意を決したように深呼吸をしてペタリとガラス球に手を押し当てた。
瞬間、フワッとガラス球が光る。
そこに何か表示されているのか、ガラス球の少し上の空間にクレアスが視線を走らせ「聖者様です」と頷いた。ティリーと騎士団長ラザーニャが「おぉ」と嬉しそうにの声を上げる。
「聖者様、今後ともよろしくお願い致します」
ティリーやクレアス、ラザーニャだけでなく、お茶をサーブして空気のように壁際に控えていたメイドまでもが頭を下げた。
「え、いやあの、あ、菅野さんも…」
「え?俺もするの?」
頭を下げられて対応に困ったのだろう春馬が、傍観していた信之の腕を引く。春馬が聖者だと確定したのだから不要なのでは?と首を傾げたが、歓喜に少し頬を紅潮させたクレアスが信之の前にガラス球差し出した。
「どうぞ、スガノ様」
信之はそっとガラス球に触れる。春馬の時と同じ様に光る球は、じわりと熱を持っていた。やはりクレアスが中空を注視しているが、信之には何も見えない。
「スガノ様は【巻き込まれた善人】となっていますね。残念ながら魔法の適性はほとんど無いようです」
巻き込まれた善人。如何とも言い難い言葉に、信之は思わず目を瞬かせた。
信之と春馬は、『お待ちしておりました聖者様』と喜びをあらわに扉から飛び出してきた男に連れられて、寒い中庭から暖かな応接室へと場所を移していた。
「此方もお使い下さい」
お茶の支度を終えたメイドが、夏仕様の服装をしている信之達にブランケットを差し出す。ありがたく受け取ると、早速肩から引っ掛けた。
並んで座る春馬も同じようにブランケットを羽織り、ほっと息を吐く。
三人がけ程の幅のあるソファに、二人は肘が当たりそうなくらい寄り添って座っていた。常だと男同士では有り得ない距離感だと信之も春馬も気づいていたが、お互い何も言わない。
半分程中身が減ったカップを春馬がテーブルに戻したのを見て、倣う様に信之もカップを戻した。それをひと段落の合図と判断したのか、目の前に座った男が口を開く。
「改めまして、聖者様。我がエアル国においで頂きましたこと、誠に嬉しく存じます」
信之達と違い三人がけソファの中央にゆったりと腰掛けた彼は、国王ティリー•ガラクトコミカ•エアルと名乗り優雅に笑みを浮かべた。
歳の頃は40であろうか、豊かなブランドの髪と青い目が美しいティリーは中世ヨーロッパじみた格好をしており、信之が日本では無い場所にいる事を知らしめる。
「後ろの2人は、騎士団長のラザーニャ•ヌーギエスと魔術師団長のクレアス•アルニー。主にこの二人が聖者様のサポートにつくことになります」
ティリーの背後に立っていた二人の男性が、紹介を受けて無言で頭を下げた。特にどっちがどっち、といった説明は無い。しかし信之と同年代の働き盛りであろう彼等は、片や軍曹筋肉質な短髪、片や脹脛半ばまである長いローブをまとった細身の長髪と正反対かつ分かりやすい二人組であったため、信之も詳しく問いただす事はしなかった。
悪意は感じないが、じっと見つめてくるラザーニャとクレアスの視線は何だか落ち着かず、信之はそっと二人から視線を逸らしてティリーを見遣る。
「サポートと仰いますが、我々はこの状況が全く理解出来ておりません。何かご存じであれば教えて頂きたいのですが」
「そうですね、どこからご説明したら良いか…」
信之の問いかけに、ティリーは少し考える様に顎に手を当てた。
「我が国エアルは、エポヘスという大陸にあります」
話の内容はこうだ。
エポヘスという大陸には四つの国があり、その中の一つが信之達のいるエアル国。
エポヘス大陸の中央には世界樹があり四つの国を守っているが、定期的に瘴気と呼ばれる良く無いものが発生して人々の生活に悪影響を及ぼすため、聖魔法の使い手である聖者や聖女が浄化をする必要がある。
聖者や聖女は世界樹が選定し必要な時に現れるのだが、必ずしも異世界から呼び寄せられるのでは無く、王族に聖魔法が使える赤ちゃんが産まれる事もあるなど、選定方法は様々だ。
現在エアル国では、先代の聖女が亡くなって三年が経っており、新たな聖魔法の使い手として、異世界から聖者が呼び寄せられた。
「…正直、信じられません」
春馬が震える声で唸る。顔色が悪いが、おそらく信之自身も同じように青い顔をしているのだろう。
「戸惑われるのは当然だと思います。ですが、どうかご助力頂きたい」
穏やかな笑みを消したティリーが座ったまま深く頭を下げた。信之は綺麗なブランドの髪がサラリと揺れるのを呆気に取られてボンヤリと眺めていたが、ふと引っ掛かりを覚えて首を捻る。
「あの、聖者というのは一人なのでしょうか?」
信之が問うと、ティリーが振り返り背後の魔術師団長クレアスを見遣った。クレアスは軽く頷くとテーブルの側まで歩み出て、腰に付けた握り拳程の小さなポーチからボーリングの球程もある透明なガラスの球を取り出す。
「これは、触れた人間の情報を鑑定する魔道具です。聖者様は一つの国に一人しか存在できません、これでどちらが聖者様なのか調べさせて頂きます」
なんてファンタジー…と思わず信之が小さく呟くと、それが聞こえたのか春馬がフッと噴いた。僅かに緊張が解れたのか少し顔色が良くなっている。
「前田君先にどうぞ。というか、俺は助けようとして一緒に穴に落っこちただけだからな、聖者とやらは前田君で違いないと思うよ」
春馬の腕を肘でちょいちょいと突くと、クレアスがスッとガラス球を春馬の前に差し出した。
春馬は戸惑ったように何度かガラス球と信之を見比べていたが、信之が動かない事を察すると意を決したように深呼吸をしてペタリとガラス球に手を押し当てた。
瞬間、フワッとガラス球が光る。
そこに何か表示されているのか、ガラス球の少し上の空間にクレアスが視線を走らせ「聖者様です」と頷いた。ティリーと騎士団長ラザーニャが「おぉ」と嬉しそうにの声を上げる。
「聖者様、今後ともよろしくお願い致します」
ティリーやクレアス、ラザーニャだけでなく、お茶をサーブして空気のように壁際に控えていたメイドまでもが頭を下げた。
「え、いやあの、あ、菅野さんも…」
「え?俺もするの?」
頭を下げられて対応に困ったのだろう春馬が、傍観していた信之の腕を引く。春馬が聖者だと確定したのだから不要なのでは?と首を傾げたが、歓喜に少し頬を紅潮させたクレアスが信之の前にガラス球差し出した。
「どうぞ、スガノ様」
信之はそっとガラス球に触れる。春馬の時と同じ様に光る球は、じわりと熱を持っていた。やはりクレアスが中空を注視しているが、信之には何も見えない。
「スガノ様は【巻き込まれた善人】となっていますね。残念ながら魔法の適性はほとんど無いようです」
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