愛されすぎて死んだ未来を、病弱な身体でやり直す ~未来視の公爵が選んだ、双子という嘘~

kuku

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胸の奥が、うるさかった。
 心臓が、やけに近い場所で鳴っている。
 ——ドクン。
 ——ドクン。
 呼吸をしようとしても、空気が肺まで届かない。
 喉の奥で引っかかって、浅く、擦れるような息になる。
「ねえ、どうして?」
 頭の上から声が降ってくる。
 泣いているのに、どこか甘えた、責めるような声。
 二年半、付き合った恋人だった。
 同性で、簡単に外では言えなくて、
 それでもこの人を選んだのは、自分だった。
 私は、誰かを好きになるのに性別を選ばない。
 だからこそ、彼女を選んだときは、
 何度も言葉にした。
 あなたを選んだのだと。
 けれどそれは、彼女を安心させなかった。
 職場の同僚。
 昔の友人。
 ただ挨拶を交わすだけの人。
 関わる人間すべてに、
 疑いの視線が向けられるようになった。
 それだけじゃなかった。
 笑い方や、言葉の選び方まで、
 「それ、本当のあなた?」と確かめられるようになった。
 私が何を考え、何を選ぶのか。
 それすら、彼女の許可が必要になっていった。
 付き合って一年で、限界が来た。
 愛されているのは分かっていた。
 大切にされているのも、嘘じゃなかった。
 ただ、その愛は、
 私の世界を守るのではなく、
 私そのものを囲い込む形で注がれていた。
 一年半前、別れを切り出した。
 泣かれて、縋られて、責められて。
 それでも放り出せなくて、向き合った。
 ふたりでカウンセリングにも通った。
 理解しようとした。
 彼女の不安を、私の問題として背負おうとした。
 同性であることの生きづらさも、
 普通じゃないと言われる怖さも、
 全部、ふたりの問題だと思いたかった。
 だから今日、もう一度言った。
 ——それでも、もう無理だ、と。
 次の瞬間、腹に重みが圧し掛かった。
 馬乗りになった彼女の影が、視界を覆う。
 涙で歪んだ顔が、近すぎる。
「私、こんなにあなたを愛してるのに」
 その言葉と同時に、衝撃。
 熱い。
 鋭い。
 理解より先に、身体が拒絶する。
 刺された。
 息が、できない。
 心臓が跳ねる。
 鼓動が速すぎて、胸の内側が裂けそうに痛い。
 一度目は、分からなかった。
 二度目で、はっきりした。
「大丈夫、すぐ終わるから」
 終わる、何が?
 視界の端が暗くなっていく。
 耳鳴りの向こうで、まだ彼女は何かを言っている。
 ——愛してる。
 ——離れない。
 ——選んで。
 選ばなかったから、殺されたのだろうか。
 胸の奥で、心臓が一度、大きく跳ねて。
 それきり、音が消えた。
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