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第21話 マードック

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 ある日のこと、クエストから帰ってきたドミンゴに、変な話をきかされた。
 マードックとかいう、酔っ払いの話だ。
 きくところによると、その酔っ払いは元Sランク冒険者で、たいそう腕がたつらしい。
 ドミンゴは、そのマードックの足を俺に治してほしいというのだ。

 その話をきいて、俺は考えた。
 なぜ、俺がそんな赤の他人の治療をせねばならないのか……!
 しかも、なぜ奴隷のいうことをきかねばならないのか……!
 金がもうかるわけでもないし、俺は医者じゃないんだ。
 俺は最初、断るつもりでいた。

(だが、待てよ……)

 そのとき、俺の脳裏にある考えが浮かんだ。
 そのマードックという男、Sランク冒険者だったということは、かなり腕がたち、おまけに知識やノウハウもあるはずだ。たしかにそんな男を、酒場で腐らせておくのは、もったいのない話だろう。
 きっと、その男を治したら、かなり感謝されるはずだろう。そうなれば、今度は俺の要求も通るかも……?

(よし、その男をドミンゴたちの師匠にしよう!)

 そうすれば、きっとドミンゴたちは今よりさらに高みへ到達できるはずだ。Sランク冒険者ってのも、夢じゃない。
 最近のドミンゴたちは、一生懸命にやってくれているのはいいが、少しリスクをとりすぎていた。俺は危険だからやめろというのだが、奴らはどうにももっと強敵と戦いたいらしい。そのほうが俺のためになるとでも思っているようだった。
 このままでは、いずれ誰かが命を落としてもおかしくない。とくに、Aランクのうちはいいが、のちのちSランクを目指すとなると、命のやりとりとは無縁ではいられない。
 とにかく、ドミンゴたちにはもっと安全が必要だった。

(そのマードックとかいう男なら、安全に狩りをする方法もしっているはずだ。マードックを指南役にすれば、ドミンゴたちはさらに安全に狩りができるようになるし、さらに成長も期待できる……!)

 俺は一瞬のうちに、方針を固めた。

「なるほどな、事情はわかった。たしかに、それはもったいない話だ。その男を連れてこい」
「エルド様……! ありがとうございます!」

 俺は、マードックに会うことにした。別にこれは、そのオッサンに同情したわけでも、ドミンゴの提案に従ったわけでもない。俺はたんに、長期的な利益を考えて結論を出したまでだ。





「あんたがマードックか」
「あんたがエルド様か、今回はほんと、ありがたい話をいただいて、よろしくたのむ」
「ああ、俺に任せておけ」

 俺はマードックの足を回復魔法で再生してやった。足の再生はもう何度もやってきたことなので、お手の物だ。いまでは、ほんの数分ですむようになっていた。

「おお……! 本当に俺の足が……! 信じられねえ! ありがとうございますエルド様。あんたは俺の命の恩人だ……!」

 マードックは立ち上がると、その足で大地をしかと踏みつけて、足がある喜びを実感していた。

「それで、あんたは冒険者に戻るのか?」
「いや、俺はさすがにもう歳だ。現役はむりだろう」
「だが、冒険者魂がうずくんだろう? だから、酒場で冒険者たちに武勇伝を語っていた……。ということで俺から提案なんだが、今回のお礼にといってはなんだが……ドミンゴたちの師匠になってくれないか?」

 俺はマードックにそう提案する。

「お、俺が……こいつらの師匠……? はは、それは面白い話だ。たしかに、ここまでしてもらったんだ。なにか礼はしないとな。だが、俺が師匠ったって、なにも教えられることはないぜ? 買いかぶりすぎだ」
「いや、あんたなら、ドミンゴたちを正しく導いて、今よりももっといい、最高の冒険者にできるはずだ」
「……なぜ、そう思う?」
「あんたは、ひざに毒矢を受けた。しかもソロだ。普通なら、そこで死んでいてもおかしくないだろう。元冒険者っていう人間が少ないのは、冒険者はそのまま続けるか、途中で死ぬかだからだ。だが、あんたは生きて帰った。つまり、生き残るだけの力がある。そういう生存能力の高い冒険者だからな。いい指導者になってくれるはずだ」
「はは……そういうことか。まあ、まちがっちゃいねえ。よし、いいだろう。ここまでしてもらったんだ。後輩の指導くらい、おやすいごようさ!」
「そうか、それはよかった……!」

 ということで、マードックをドミンゴたちの指南役として雇うことに決めた。

「じゃあ、マードック。報酬はこのくらいでいいか?」

 俺は適当な額をマードックに提示する。
 すると、マードックは鳩が豆鉄砲を食ったように驚いた。

「はぁ……!? ちょ、ちょちょちょっと待て。俺はあんたに足を治してもらった礼で、指南役をやるんだよな? なのに、金までもらえるのか……!?」
「当然だろう? 指南役を引き受けてもらうまでが礼だ。実際の指南にはちゃんと報酬が発生する。指南はなにも一回限りじゃないんだからな」
「ま、待ってくれ。俺はそんなつもりじゃ……。ただでやるつもりだったんだぞ?」
「いや、それじゃだめだ。これはちゃんとした仕事として依頼している。報酬はきちんと受け取ってもらわないと困る。ただでやるってのは、責任をとらないって意味だからな」
「っへ、しっかりしてるな。そこまで言うんなら、酒代の足しにでもさせてもらうよ……」

 マードックは、しぶしぶ金を受け取ることに同意した。
 俺のみたてでは、マードックに指南をしてもらうことで、パーティの稼働効率は劇的によくなるはずだ。このくらいの金は、すぐに取り戻せる。先行投資だ。
 それに、安全は金では買えないからな。多少損をしてでも、ドミンゴたちの命優先だ。これでドミンゴたちの生存能力が上がるのなら、なにも問題なしだ。いくらでも払おう。

「よし、じゃあ来週から頼むよ」

 ちなみにだが、マードックに指導をしてもらうようになってから、ドミンゴたちはめきめきと力を伸ばしていった。今まではどうしても、奴隷パーティということもあって、他の冒険者たちからの情報交換とかで不利な目にあってきた。だが、マードックにいろいろ教わることで、よりよい狩りの方法や、穴場などがわかったのだ。
 それにともなって、俺の利益もぐんぐん伸びていった。
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