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第30話 俺、修羅場

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「わ、私を……エルドの奴隷にしてくらさい……!」

「は…………?」

 言っている意味がわからなかった。
 なんで俺の奴隷に……? てか、貴族だろアンタ。なんでわざわざ俺の奴隷になりたがるのか、理解不能。
 あーこれは、いろいろとすっ飛ばして話ちゃってるやつだな。

「あの……一から説明してもらえる?」
「その……私は、君に許されないことをしたと思っている……。実際、許してもらわなくても構わない」

 ミレイは顔を赤らめながら、そう話だした。
 いや、別に俺怒ってなんかいないけどな……。
 ていうか、俺はミレイを怒らせたくない。
 とにかく、俺は破滅フラグが怖いからな。
 ミレイやクレアは、いつ破滅フラグをもたらすかわからない。
 むしろ怒られたくないのは、俺のほうだ。

「だが……君にお願いがあるんだ……! だからこうして……誠意をだな……。その、奴隷になってなんでもするから、どうかきいてほしいんだ……!」

 ミレイはそういって、俺に頭を下げた。
 なるほどな……。
 だが、それにしても奴隷になるとか唐突だな……。

「まあいいけど……。どんなお願いなんだ?」

 大体の見当はつくがな。
 
「それが……私の妹のことなんだ」

 やっぱり。

「実は私の妹は、クレア姫と同じ病に苦しんでいる。君は昨日、苦しむクレア姫を病から救っただろう? それで、なんとかうちの妹にも同じ回復魔法をつかってやってほしいんだ……! その、昨日あんなことがあったのに、都合のいい話だと思うだろう。だが、このとおりだ。なんでもいうことをきく! お願いだ!」

 ふむ……。やはりな。
 本当なら、「今なんでもっていったよな?」と問い詰めて、裸にひんむいてやりたいところだが……。
 破滅フラグが怖いのでそんなことは絶対にしない。
 よし、ここはミレイにも媚びを売るチャンスだ。
 ミレイにここで媚びを売っておけば、いざというときに味方してくれるだろう。

「よしわかった! 妹の病気を治そう。今すぐ妹さんのところへ連れていってくれ」
「……や、やっぱりだめだよな……。うん、ごめんあきらめる……」
「いや、やるって言ってるんだけど」
「え……? ほ、本当に……?」
「うん」
「み、見返りは? 私を奴隷にしてもいいんだぞ」
「いや、それもいらないけど」

 だって、ミレイを奴隷にしたりしたら、あとでどんなしっぺ返しがくるかわからないからな。
 とりあえず原作本編に出てくるキャラには全部媚びを売っておく。
 こいつらに逆らったら、破滅フラグまっしぐらの未来しか見えないからな。

「ほ、本当か……! 君はなんていい人なんだ。聖人か……! いや、光の勇者だったな。本当に、エルド。君はすばらしい人だよ……!」

 ミレイは俺の手を握って、そう称賛してくれた。
 いや、俺は別に、破滅フラグを回避したいからやってるだけですけどね。
 俺は聖人でもなんでもない、打算100%の人間だ。


 ◆


 ということで、俺たちはミレイの家にやってきた。
 そして、さっそく妹に回復魔法をかける。

「えい……!」

 すると、妹の具合はみるみるうちによくなっていった。
 そういえば、ゲーム本編ではアルトがこの妹も治してたっけな。
 なんか、マジで俺が今アルトの代わりになってるな……。
 アルトくんどこなんだ。あいつ主人公のくせに空気すぎるだろ。

「ありがとうございます……! エルドさん」

 ミレイの妹、ミサトが俺に礼を言う。ミサトもかなりの美人さんだ。
 ミサトは元気になって、ぺらぺらとしゃべりだした。
 病気のせいでおとなしくみえていたけど、結構活発なタイプの性格のようだ。
 そしてしばらく話して、ミサトはとんでもないことを言い出した。

「あの、エルドさん」
「はい?」
「私、こうしてお話してみて、エルドさんってとっても素敵な方だと思いました」
「それは、どうも」
「エルドさんは私の病気も治してくれたし、きっと運命の人だと思うんです」
「はい?」
「だから、私と付き合ってください」
「え……」

 まずいまずいまずいよー……。
 なんか、ミサトから告白されたんだけど。
 そういえば、ミサトがアルトに告白するイベントとかもあったっけ。すっかり忘れてたなぁ……。
 でも、これどうしよう。
 俺は思考を巡らせる。

 まず、この告白を受けた場合。
 俺は最悪なハーレム主人公みたいになってしまう。
 まず、アーデの恨みを買うだろう。そして、そのうちアーデに殺されるかもしれない。
 それはまずい。アーデは今は奴隷だからいいが、もしなにかの拍子に奴隷じゃなくなったら……。
 アーデを怒らせることはできない。

 だが、ここで告白を断ったら?
 その場合、ミサトをがっかりさせてしまうだろう。
 うーん、どっちもデメリットしかない……。
 でも、さすがに告白を断ったくらいで破滅フラグが立ったりはしないだろう。しないよな?
 病気を治したこともあるし、断ったとしてもプラマイゼロでトントンだろう。
 よし、ここは心苦しいが、素直にはっきりと断るしかないな。

 俺が告白を断ろうとしたそのときだった。
 横から、姉のミレイが口を挟む。

「ちょ、ちょっと待ったあああああ!」
「え?」
「わ、私も……! いや、私のほうが先に好きだった! 私と付き合ってくらさい! 身勝手な女なのはわかってる。だけど、どうしてもこの気持ちを抑えられないんだあああ!」

 などと、ミレイからも告白されてしまったんだけど。
 俺はどうすればいいんだこれ……。くっそ修羅場なんですが。
 そういえば、ミレイもアルトを溺愛していたな。
 なんでアルトじゃなくて俺なんだよ……。

 だが、ミレイも同じだ。ミレイを怒らせたくはないが、ここはきっぱり断ろう。
 さすがにこれで関係がこじれたりはしないよな?
 俺は別になにも悪いことはしていない……のに、なんだかすごく申し訳ない気分になってしまう。
 そうだ、なんとかうまいこと断ろう。

「ふ、二人の気持ちはすごくうれしい……。だけど、俺には心に決めた人がいるんだ!」
「そ、そうなんですか……」「っく……そうなのか……」

 ということで、俺はきっぱり二人を振ってやった。
 これでなんとか角が立たないといいが……。

 ただ、少し気がかりなのは、二人を振ったときに、なぜか後ろで立っていたアーデが顔を赤くしてうれしそうにしていたことだ。
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