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第38話 魔王復活

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 ある日、空が割れ、暗闇が漏れ出した。
 暗闇はシーツに滲んだ染みのように空を満たしていく。
 暗闇から手が伸びる――。
 その手は、街をひとつかみにし、握りつぶした。
 魔王が、復活した。

「魔王だあああああああああ!!!! 魔王が復活したぞおおおおおお!!!!」


 ◆


 魔王は身の丈15メートルほどもある巨人だった。
 青白い肌に、雄々しい角。
 真っ赤な目に、はち切れんばかりの筋肉質。
 地上に降り立った魔王は、人間サイズにその体を縮めた。
 まるでそのパワーごと圧縮されたように、凝集された密度の濃い生命体が、そこにいた。

 魔王は適当な国を亡ぼすと、そこの城を奪い、根城とした。
 魔力の渦が城を包みこみ、魔の蔦が城壁を覆い隠す。
 あっという間にそれは、人間の住む城から魔王城へと姿を変えた。
 魔王城の中心からは、空に向けて、闇の光柱が立っている。
 その光柱は空中の暗闇に接続しており、そこからはあらゆる闇の要素が、柱を伝い滴っている。

 光柱を下るようにして、空から異形のものたちが降り立っていく。
 デビル、ガーゴイル、サキュバス、ヴァンパイア。
 様々なモンスターが魔王城に姿を現した。
 そして魔王の命令のもと、人里を目指して旅立っていく――。

 戦いは、始まった。


 ◆


「恐れるな! 俺がついている! 倒せ! 屠れ! 引き返すなああああ!」

 俺は討伐隊を鼓舞した。
 俺が拠点を構えるのは、ガンダール砦。
 魔王城から数百キロ離れた荒野にぽつりとたつ砦だ。
 そこを拠点として、魔王討伐隊は魔王城に向けて進軍する。
 
 まず戦闘を行くのは、アルト率いる部隊だ。
 そのうしろから、ドミンゴの部隊、オットー、アカネが続く。
 あれからさらに奴隷を増強した。
 こちらには、のべ5万の奴隷部隊がいる。

 そして、それぞれの部隊には、回復のオーブをいくつか、用意できる限り渡してある。
 もし誰かが負傷した場合、それで回復ができる。
 
「道を開けろ! 魔物を蹴散らせ! アルトを魔王のもとまで送り届けるぞ!」

 ドミンゴが先頭でそう叫ぶ。
 作戦はこうだ。
 ドミンゴたちが魔物たちを蹴散らし、なんとか魔王のもとまでアルトを送る。
 そしてアルトが魔王を討つ。
 アルトにはそれができるだけの力がある。
 少なくとも、俺はそう育てた。

 肝心の俺はというと――。
 俺はガンダール砦で待機することにした。
 そしてみんなも、そのことに納得してくれている。
 俺は、いわば医療班だった。
 負傷し、回復のオーブすらも失った部隊は、ガンダール砦まで下がってくることになっている。
 その負傷した部隊を治療し、さらにオーブにももう一度回復魔法を補充する。
 俺の役目は補給だった。

 つまり、俺が手を動かす限りは人類部隊は誰も死なないということだ。
 ゾンビアタック作戦で、魔王軍をぶっ潰す!


 ◆


【side魔王】

 魔王エルムンドーラ。それが自分の名だった。
 生まれたときには、そのことを知っていた。
 生まれた瞬間、俺の脳にある指令が下った。
 人間を滅ぼせ。
 それだけが、俺の使命だった。

「フハハハハハ! 我が魔王軍は無敵なり……! やはり人間は雑魚だな」

 戦況は、こちらに有利だった。
 人類はしょせん、魔力も少ない人間種だ。
 こちらは魔力を多く持つ魔物たち。
 数もこちらが圧倒的に多い。
 どんどんと人類の戦線を下げていく。

「少しは骨のあるものがいればと思ったが……他愛ないな」

 私は最初、そうやって人類を甘く見ていた。
 だが、ことは戦争開始から5日目に起こった。

「おかしい……なぜだ……」

 あれだけ人類を倒し、戦線を下げさせているのに、一向に相手の砦が落ちない。
 それどころか、こちらの魔物たちが疲弊してきているのに、相手の勢いは衰えない。

「どういうことだ……?」

 さらに一週間が経過した。
 あきらかに、おかしなことが起きていた。

「くそ……どういうことだ……!? なぜ人類軍は減らない!? それどころか、さらに勢いが増していないか……!?」

 さすがにおかしいと思った私は、水晶魔法を使った。
 水晶で、相手のガンダール砦の様子を覗いてみることにする。
 すると、そこには驚くべき光景が広がっていた。


◆◇◆◇◆◇
 

「エクストラヒール!」

 男がそう唱えると、兵士たちの傷が一気に癒える。
 それどころか、さらに兵士たちの士気があがり、筋肉量もましたように見える。
 傷ついて、回復したことで、パワーアップしているように見えた。

「うおおおおおお! さすがはエルド様の回復魔法だ! これでまた戦える! もうなにも怖くないぜ!」
「そうだそうだ。俺たちにはエルド様がついている! 魔王軍なんて怖くないね!」

 回復された兵士たちは、また剣を持って、すぐさま砦を出て行った。
 なにものをも恐れないその姿は、まるで狂戦士のよう。

「エクストラヒール! エクストラヒール! エクストラヒール!」

 男は次々に兵士たちを回復させていった。
 中には腕を失った兵士や瀕死のものもいた。
 だがみんなすぐに回復すると、戦線に戻っていく。
 誰も死を恐れているものはいなかった。
 それどころか、喜んで死地に向かっていっているようだ。

「うおおおおお! 気持ちいいいいいい!」
「また怪我して治してもらえるぜええええ!!!!」
「これで俺もレベルアップだ! レベルアップ気持ちいいい!!!!」
「怪我してもレベルアップできるんならカンケーねぇ!」


◆◇◆◇◆◇
 

 水晶でガンダール砦の様子をみて、私はあっけにとられていた。

「な、なんなんだこれは……どうなっている……」

 まさか人間側にあんな治療師がいたとは。
 それにしても、この士気の高さはいったい……。
 なるほど、これでは敵が減らないわけだ。
 直接あの治療師を叩かねば……。

 そう考えていたときだった。


 ――ドン!


 いきなり魔王城の私の部屋の扉が開く。
 そこには、魔王軍幹部の首を持った人間がいた。

「アンタが魔王か? ようやくたどりついたぜ」

「なん……だと……」

 さっきまで幹部たちは作戦会議をしていたはずだ。
 それに、戦線はそこまで下がっていないはず……。
 いったいどこから入り込んだ……!?

「この勇者アルト様が、成敗してくれる!」

「このぅううううう人間風情がぁあああ魔王である私の部屋にノックもなく侵入するとはいい度胸だ。死ぬ覚悟の準備はできているんだろうな!!!!」

 私は、剣を抜いた――。


 ◆


【sideエルド】

 すべてが上手く行っていた。
 たしかに魔王軍は強かった。
 だが、こちらの被害は最小限だ。
 みんな負傷をしたものはすぐに下がってきて、俺のもとで治療を受ける。
 おかげで、どんどんみんなのレベルが上がっていく。
 やはり、実戦で得られる経験値ほど価値のあるものはないからな。

 最初こそ苦戦したが、戦線は徐々に上がっていっている。
 それに、目的は魔王の討伐だ。
 うまくアルトを魔王のもとまで送り届ければ、それで解決する。
 他の戦いはいわば時間稼ぎにすぎない。
 アルトがうまく魔王さえ討伐してくれれば、それで問題は解決する。

 魔王軍のモンスターたちの異常なまでの魔力は、すべて魔王から供給されている。
 だから頭をたたけば、この戦いは終わるということだ。
 アルトはゲームの世界では、無事に魔王を倒せる人物だ。
 だから俺が鍛えたアルトなら、問題なく魔王を倒せるだろう。

 俺はそう思っていた――。

 だが、アルトが魔王城へ乗り込んだ知らせを聞いた翌日。
 伝令の兵士から、ある知らせが届いた。


 
「その……アルトさんが、魔王に敗れて戦死したとのことです。エルド様、次の御指示を……どうなさいますか?」

「は…………?」


 俺は、頭が真っ白になっていた。

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