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第57話 街を見学するぞ

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 さて、俺は世界樹の身体に戻ってしまった。
 だけど、枝を伸ばして触手のように使えることがわかった。
 そこで、魔法が使えないか一応試してみることにした。

 木の枝を伸ばして、地面に魔法陣を書く。
 そしてそこに魔力を送ろうとしてみる。
 世界樹の身体にも、当然魔力はある。
 というか、世界樹の身体は、無限にも近いほどの莫大な魔力の塊だ。
 だけど、魔法は発動しなかった。

「やっぱりだめかぁ……」

 この前詰め込んだ魔法の本に書いてあったことと、一致する。
 どういうことか。
 魔法を使うことのできるのは、基本的に生物に限られる。
 しかも、脳がある生物のみだ。

 世界樹の身体には、脳がない。
 だから魔法も使うことができないのだ。
 他にも、スライムには脳がない。
 ゴーレムにも脳はない。
 だから彼らは魔法を使うことができない。

 ゴブリンなんかは脳があるけど、魔力が少ないので、魔法を使うことに向いてなかったりする。
 ま、とにかく魔法には適正というものがあるのだ。
 魔法は、脳の魔法野という部分が反応して、使用することができる。
 だから、世界樹の身体にいくら無限の魔力があっても、俺はこの身体では魔法を使うことができないのだ。

「しかたない……。今は別のことをしよう」

 だが今回世界樹の身体に戻って、新たにわかったことがある。
 それは、枝を自由に伸ばして触手のように使えるということだ。
 これって、前は出来なかったよな。
 まあ、そもそもやろうとしてなかったけど。
 おそらく、世界樹レベルがあがったことで、できるようになったのだろう。

 枝を伸ばせるということは、かなり便利だ。
 これでいろいろやっていこうと思う。

 俺の世界樹の身体は、かなり巨大だ。
 その全長もかなりのものになる。
 だから、まるで展望台のように、あたりの景色を見渡せる。
 だけど、細かなところまでは見ることができない。
 例えば、あっちのほうに街があるなとかはわかるけど、その街の中で人々がなにをしているかまでは見えないのだ。
 まあ、俺はもともと目が悪いからな。

 いや、世界樹の身体に転生したんだから視力は関係ないのか?
 とにかく、この身体は視野は広いが、その解像度までは高くないのだ。

 俺は前から、遠くに街があるのだけは見えていた。
 前々から、あの街がどうなっているのか知りたかった。
 異世界にきてから、まだ一度も他の街に行ってないからな。
 いろいろ気になることもある。

 俺は根っからの引きこもりのせいもあって、この森を出ようとすると吐き気と頭痛に襲われる体質だ。
 だけど、世界樹の身体なら、吐き気もくそもないんじゃないか……?
 俺は世界樹の身体のときは、頭痛なんかとも無縁だ。
 まあ、世界樹の身体に頭なんかないからな。
 それに、世界樹の身体はかなり頑丈だ。
 基本的に、なにかあってもめったと痛みを感じることはない。

 だったら、今なら森の外に出られるんじゃないのかと思った。
 そう、前に牧場を作ったとき、俺は触手を森の外に出して、草原まで行った。
 つまり、枝を伸ばして森の外に出すだけなら、俺は平気なのだ。
 まあ、俺本体である世界樹の身体は、森の中にあるからな。
 手を伸ばして外にあるものに触れるのは、平気のようだった。

 じゃあ、これを利用すれば、街の様子を知ることもできるんじゃないのかと思った。
 そう、街まで枝を伸ばせば、森の中にいたまま、街を観光できる……!
 俺の身体はすべてが目で耳だった。
 だから、枝を伸ばした先でも、その枝から見える景色は把握できる。

 俺は枝だけを伸ばして、街まで行ってみることにした。
 めざすはグリエンダ王国の街、リシュエンだ。
 リシュエンはこの森からほど近いところにある、大きな町だ。
 俺は枝を伸ばして、リシュエンまでやってきた。

 街の大通りを、枝を伸ばしていく。
 すると、伸びてくる謎の枝に、人々が注目しているのがわかった。

「なんだなんだ……?」
「蛇か……!?」

 おっと……。
 これはさすがに目立つな……。
 俺は少し枝の高度を上げて、上の方を飛ぶことにした。

 こうして街を眺めると、なんだかようやく異世界にきたっていう実感があるな。
 リシュエンの街はにぎわっていた。
 だいたい、ヨーロッパの街並みと変わらない感じだ。
 まあヨーロッパいったことないから、想像だけど。

 リシュエンの街には、様々な種類の人が暮らしている。
 亜人、獣人、ゴブリンにドワーフもいた。
 もともとグリエンダ帝国は、亜人に差別のない国だ。
 獣人なんかはもともとグリエンダに住んでる人たちだ。
 
 一部いるゴブリンは、ユグドラシル王国から移住したり観光にきているものだろう。
 ユグドラシル王国の一部のゴブリンは、希望してリシュエンに移住したりもしているのだ。

 それに、一部のゴブリンは商売をはじめたりもしていた。
 そういう仕事の関係で、リシュエンに来るものも多い。
 まあ、リシュエンからユグドラシル王国まで列車ですぐだからな。

 それにしても、初めての街はおもしろいな。
 なかなか感動だ。
 俺って、ずっと部屋にこもってたから、こうやって人のいる街を歩くのじたい、何年振りだって感じだ。
 不思議と、この枝の状態だと、緊張もしない。

 なんというか、枝はあくまで自分の身体の一部だからだろうか。
 ゲームをしている感じというか、どこか他人事だ。
 だから平気なのかもしれない。

 とにかく、枝を使えば遠出をすることができるというのが判明したのは、大きな進歩だ。
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