くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。

くずもち

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第45話ボディガードは要求する

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「うむ……よくぞタタリを鎮めた。大儀である」

 安綱先輩といったん分かれた僕と神木さんは水神様の祠にやって来ていた。

 その目的は今回捕獲した鬼を浄化することである。

 さすがにあそこまで進んだタタリはペットボトルじゃどうにもならない。

 祠からヌルリと出て来た海青様は空中から覗き込み、禍々しい気を発するストラップを見てムウと唸った。

「これは難儀なものよな……。普通であれば何百年も自然に浄化されるのを待たねばならんが、我の力ならば洗い流すことは容易である」

 ダバダバと海青様の口から大量の水が吐き出される。

 それはストラップに降り注ぎ、黒い穢れを一気に洗い流していた。

「おお、すごい。洗剤使ったみたいに綺麗になるね」

「……楠君なんか例えが悪くない?」

「適切だと思うんだけど」

 僕は真顔で頷いた。だってほらオーラが驚きの清さじゃない?

 実際、長い長い時間をかけて魂にこびりついた頑固な汚れは簡単に取れるもんじゃない。

 海青様だって完全に洗い流すことはさすがに出来ないだろうけど、ほんの数分で水洗いされたストラップはタタリとは呼べないレベルまで洗浄され、ストラップの方はピカリとコンパウンドで磨いたように光沢が生まれていた。

 ある程度綺麗になったことを確認すると海晴様は満足そうに髭を揺らして口から洩れる水を止めた。

「よし。ひとまずこれくらい清めれば正気を取り戻すだろう」

「ありがとうございました。またよろしくお願いします」

「助かりました」

「うむ! ではさらばだ!」

 やることを終えた海青様はピカリと光って姿を消した。

「願いが叶う玉みたいな消え方するな……」

「なにそれ?」

「いや別に」

 そして残された僕と神木さんは、鬼瓦のストラップを囲んで話し合う。

「それで? これからどうするの? 調伏ってやつ?」

「まぁ僕に出来る事は一応これで終わりかなぁ。ストラップに封印出来た時点で力はかなり抑えられてる。持ち主……つまり神木さんの許可がなきゃ、そんなに力は出せないはず」

 手のひらサイズのストラップでももとよりそのつもりで作った特注品だ。

 中に捉えた時点で目的の効果は期待出来るはずだった。

「私の許可か……。でもそれじゃあ言うことなんて聞いてくれないよね?」

「まぁ、本当なら力を押さえた上で支配して、言うことを聞かせるやり方もあるらしい。でも意識を取り戻したんなら、別のやり方だってあるさ」

「というと?」

「事情を聴いて交渉する。なに、ダメならダメで仕方がない」

「……うん!」

 僕は鬼瓦ストラップをココンとつついた。

 するとストラップから、ぼんやりとした女性が姿を現した。

 ああ、影の時から女性っぽいと思っていたが、やはりそうだったか。

 筋肉質な赤い肌の鬼は鎧武者のような具足を纏っていたが、額から生えた二本の赤い角がとても鬼らしいと僕は思った。

 出て来た鬼はしばらく寝起きのようにぼんやりしていたが、だんだんと意識を取り戻して視線が定まって来た。

「ここは……どこだ? 私は一体……」

「大丈夫ですか? 体はおかしくありませんか?」

 僕は確認すると、鬼の武者は未だぼんやりとしながらも反応する。

「うむ……いや、おかしいといえばおかしい。何で私は小さな鬼瓦から生えているのだろう? 何か知っているのか?」

 ですよね。僕だってそう思う。

 尋ねてきた鬼に、僕と神木さんは顔を見合わせる。

「どうやら、タタリの時の記憶がないらしい」

「やっぱり説明しないとだよね?」

「まずはそこからって感じだね」

 仕方がないと僕はペコリと頭を下げて、鬼武者にここまでの経緯を説明した。






 事情を聴き終えた鬼は目を閉じ、しばし考えこんで頭を抱えていた。

「そうか……私はタタリとなっていたか。……ああ、そうだ。確かにそうだったのだろうな」

 ある日限界を迎えたんだろうけど、そこに至るまでの記憶がまったくないこともないらしい。

 となれば心当たりはあるはずだった。

 ああなった事情に踏み込むデリケートなことだけに僕らは黙って彼女を持っていると、鬼は大きな大きなため息を吐いてから顔を上げた。

「……感謝しよう。だが解せぬな」

「ええっと何がでしょう?」

「タタリなど一思いに祓ってしまえばよかったのだ。なぜお前達は私を祓わなんだ?」

 ズンと暗い表情で問う鬼だが、ここからが肝心なところだ。

 僕は表情を引き締めお願い事を口にした。

「実は貴女を力ある鬼神と見込んでお願いがあります。ここにいる神木 杏樹さんを貴女の力で守ってはいただけないでしょうか?」

「その娘を守護せよと?」

 鬼はジロリと神木さんに視線を向ける。

「……は、はい」

 神木さんは緊張した面持ちで、鬼を見上げていた。

「彼女は妖怪が見える体質でして、守護者を探しているのです。もし引き受けてくださるのなら警護に必要な依り代を僕が用意しますので」

「依り代だと? なんだそれは?」

「貴女が入っているその鬼瓦と同じようなものです。今は貴女の力を押さえていますが、ご容赦を。貴女はまだ完治していません。しかしその入れ物があれば、タタリの邪気を清めるのを助けてもくれますので」

「ほぅ。そんなことまで出来るのかこの鬼瓦は。だがなおさら解せんな。人の技には妖怪を意識を飛ばしたまま使役する術もあったはずだ。言うことを聞かせるたいのならそちらの方が都合が良いだろう?」

「そういうのは専門外でして。それに、きちんと守ってもらうには意識は必要ですよ。半分眠りながらじゃいい仕事は出来ないでしょう?」

「……なるほど。違いない」

「僕が提供するのはそのための器です。だからあなたの協力が必要なんですよ」

 どうやらこの鬼は、人間の方の事情にも詳しそうである。

 なんか妖怪関連の術には小難しいテクニックはあるのかもしれないが、そこを突っ込まれると僕も弱い。

 僕は色々出来ても所詮はフリー。専門技術は趣味よりも薄い知識が精々といったところだ。

 鬼は僕を見ながら何やらブツブツと呟いていた。

「京の陰陽師共が紙型で鬼を使役する術を使うというが、その類か? いや……私くらいの格の鬼を紙型程度で押さえられはしないと思うが……いや、この鬼瓦は……仏像に近いのか? お前は仏師か?」

「何でしょうね。僕にも詳しくはわかりません。ただ先祖にそういったものがいたとは聞いています。とにかく僕の作品を使えば、一時的に力も増しますし、外見もその鬼瓦のようなものから、鬼の姿と寸分変わらないものまで、ある程度ご希望に沿う形でご用意出来ると思います」

「ほ、ほほう。……なるほど、なるほどなぁ」

 鬼はうむむと唸り、目を閉じ何か考えていた。

 そして何かしら結論を出してカッと目を見開くと、神木さんに顔を近づけてニカリと笑う。

「いいでしょう! 私も汚れを祓ってくれたことに、恩義を感じています! それにそこな少女が弱きを守る強き心を私は覚えている……そんな気がします!」

 おお? それってばひょっとして、山で精霊を助けた件を覚えてる?

 僕は神木さんの方を見て頷く。

 そして僕はポンと神木さんを押し出すと、神木さんは僕を見て軽く頷き、鬼に向かって頭を下げた。

「その……よろしくお願いします! 私は神木 杏樹っていいます!」

「うむ。良き名です。形としては貴女を我が主として認めましょう! 我が名はヒガン! 覚えておきなさい!」

 ムンと胸を張る鬼、ヒガンの迫力は相当なものだった。

 これならばいい仕事してくれるに違いない。

 ガッチリと握手を交わす二人を見て、僕は肩の荷が下りた気分だった。

 僕は二人から少しだけ距離を取って胸をなでおろした。

「ふいー……マジでよかった。こういうのってあんまりやらないから正直不安だったんだ」

 いや、調伏とかかっこつけて言ってみたが専門外も甚だしい。

 話に聞いても漫画の方が身近に感じたくらいだった。

 まぁ……これで少しは神木さんも安心出来るようになるだろう。

「もし? そこな仏師よ」

「はい?」

 だいたい交渉は終わったはずだが、背後に立ったのはヒガンである。

 何事だろうと首をひねっていると、ちょいちょいと手招きしたヒガンは近づいた僕に耳元でゴニョリと少し小声で言った。

「……この依り代は面白いですね。私の身の内に残る汚れが、少しずつですが浄化されていくのを感じます」

「ええ。契約をしていただいている間はそれを使っていればタタリの汚れは浄化されていくと思います。普段はそちらをお使いください。ではいざという時のためのお約束の依り代は、やはり貴女の鬼の姿を参考にして作ればいいですか?」

 そういう約束だったと確認するとヒガンの表情が急になくなって、もっと小声になった。

 ただ手に込められた力は、肩が砕けそうだ。

「……そのままにするのはやめなさい。もっと小柄で華奢な少女が好ましい。晴れ着が似合うようなかわいい感じでお願いします。背は低くなさい。そうでなければ契約はしません」

「…………わかりました」

「頼みましたよ? 大事なところですからね? では楽しみにしています」

 とても念入りにお願いされてしまった……うん。本当に大丈夫だろうか?

 僕はなんだかちょっぴり不安になった。
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