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第60話お尻に火が付くと完成には近づく
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「柄にもなくはしゃぎすぎてしまいましたな……鬼神様もお付き合いいただき感謝します。私はウィルオーウィスプと名乗っています。かぼちゃ頭は気に入っているのです」
「同じことではないのか? 迷った魂を案内でもしていれば可愛げもあるだろうが……こんなところで何をしているのか、聞かせてもらおう」
「耳が痛い。まぁ経緯はそちらと同じようなものではないかと。迷っていた所を楠さんと出会って依り代をいただいた。まぁ元からこの峠にいた住人ですよ」
「ふむ、まぁそうだろうな」
何だい一目でわかってなかったの私だけ?
もうバレている気がするが杏樹はあえて自分で言うのは控えた。
そして鬼火は事情を話はじめた。
「えーあれはそう……一年ほど前でしょうか? 心無い人間達に山を荒らされていた時期があったのです」
鬼火が言うには、峠の道が整備されてから夜な夜な人間達が車で走り回り、更には妙な業者に目をつけられて不法投棄が横行していたらしい。
これは何とかせねばと相談した相手が、楠君だったようである。
「そして私はこのボディを授かりました。毎日峠をバイクで走り、パトロールに励んだ結果―――ゴミを捨てる人間達を退けることに成功したのです」
誇らしげに燃えている鬼火だが、杏樹が聞いた噂では、問題はそれだけではなかったはずだった。
「見た人間が死んじゃうっていう噂は?」
杏樹が尋ねると鬼火は首を振るように揺れた。
「いえ、バイクを手に入れて毎夜峠道を走っていますが、そういったことはないはずです。というかこのボディでそんなことになれば、噂ではなく事件になるでしょう? そもそも死者は噂を語らぬものですよ」
「……それはそうか。毎日峠を走ってるの?」
カボチャヘルメットとあのギミック満載のバイクはさぞかし目立つだろうし、噂になるのも無理はない。
「はい。バイクはいい物です。地面を駆ける疾走感……高揚感……バイクのエンジン音もよく聞けば心地いいものだなと思い初めまして」
「あれ? 騒音も問題だったんじゃ?」
「いえその……連日バイクで風を切っていると……恥ずかしながら」
「恥ずかしながら?」
「……楽しくなってしまって」
「……」
杏樹は黙る。
妖怪にもそういう趣味性の高い事情はあるらしい。
ヒガンもあきれ顔で鬼火を眺めて、壊れたボディとバイクを見ていた。
「……その結果がゴーストライダー騒ぎというわけだ」
「まぁはい……。今はいちじるしくマナーの悪いレーサーにお灸をすえながら、日夜治安維持に励む毎日なので。攻撃的な噂はこちらが原因ではないかと」
「噂どころかすっかりバイカーの一員ではないか」
「そうだと嬉しいですがね。……そうですね、最近は人間の中で噂を呼び、少々人が集まりすぎていたのやもしれません。鬼神様方がこちらに来たのも必然……まぁ潮時だったのでしょう」
火力を弱める鬼火は意気消沈と言った感じだが、杏樹は杏樹でなんとも気まずい気分で胃が重かった。
こっちは別に鬼火君の治安維持活動に意見する権利も筋合いもないのだから当然である。
むしろ何にも知らないところに押しかけて、いきなり喧嘩を売ったのが申し訳ないくらいだった。
「……ああ、いや、なんというかゴメンね?」
「いえ、いいのです。むしろ調子に乗ってすみませんでした」
めちゃくちゃ謝られているが、どちらかと言えば怯えられているのは間違いない。
杏樹はヒガンに視線を向けた。
「……そんなに悪い妖怪じゃなかったね」
「……うん。どうやらそのようだ」
「……こう、私は今すごく楠君との会話を思い出してる。一歩立ち止まって考える余裕があったならそうした方がいいよ本当。今回、その余裕は確かにあったと思うんだよ」
「……いやぁ。まぁそうだな」
「とりあえず……暴れて壊したところを片付けようか。私も手伝うから」
「は、はい……申し訳ない。ちょっと張り切りすぎた」
異次元な戦いを見てしまったけれど、これは困ったことになった。
今回の事での被害はへこんだガードレールとクレーター、あとは完全に粉砕された、どう見ても手間のかかった依り代である。
ガードレールとクレーターの方は妖怪二人の力でどうにかするとして、杏樹の見立てではアレを修理できる人なんて当然一人しかいない。
そしてヒガンのダメージも合わせると、彼には多大な労力を強いることになりそうだった。
「……えっとそう言う感じで、こんなことになってしまったんだけど……大変申し訳ないんですが。直せないでしょうか?」
僕、楠 太平は腕を組んだまま天井を仰ぎ見た。
神木さんが我が家を訪れて、僕の前に差し出してきたかつて作品だったモノの残骸を見た僕は、しばし固まる。
ううん……これは見事に大破である。
僕は深呼吸して、改めて神木さんを見る。
彼女は本当に済まなさそうに頭を下げていて、その後ろには見覚えのある鬼火がプカプカ浮いて明滅していた。
なるほど。事情が察せられるだけに、断る気にはなれない。
そして苦境こそ、創作意欲を燃え上がらせるスパイスである。
「……なるほど! よし! 作業の準備をしよう!」
「本当に申し訳ないです!」
鬼火の奴……なんかしくじりおったな? 出くわしたなら運が悪い。
まだ現世になれていないヒガン様も手加減は難しかろう。
峠のゴーストライダーの噂なら、僕の耳にも届いて久しかった。
サラリと体が砂になったような錯覚を覚えたが、やりがいのありそうな修復だ。
今日も僕は新たな壁を超えることが出来そうだった。
「同じことではないのか? 迷った魂を案内でもしていれば可愛げもあるだろうが……こんなところで何をしているのか、聞かせてもらおう」
「耳が痛い。まぁ経緯はそちらと同じようなものではないかと。迷っていた所を楠さんと出会って依り代をいただいた。まぁ元からこの峠にいた住人ですよ」
「ふむ、まぁそうだろうな」
何だい一目でわかってなかったの私だけ?
もうバレている気がするが杏樹はあえて自分で言うのは控えた。
そして鬼火は事情を話はじめた。
「えーあれはそう……一年ほど前でしょうか? 心無い人間達に山を荒らされていた時期があったのです」
鬼火が言うには、峠の道が整備されてから夜な夜な人間達が車で走り回り、更には妙な業者に目をつけられて不法投棄が横行していたらしい。
これは何とかせねばと相談した相手が、楠君だったようである。
「そして私はこのボディを授かりました。毎日峠をバイクで走り、パトロールに励んだ結果―――ゴミを捨てる人間達を退けることに成功したのです」
誇らしげに燃えている鬼火だが、杏樹が聞いた噂では、問題はそれだけではなかったはずだった。
「見た人間が死んじゃうっていう噂は?」
杏樹が尋ねると鬼火は首を振るように揺れた。
「いえ、バイクを手に入れて毎夜峠道を走っていますが、そういったことはないはずです。というかこのボディでそんなことになれば、噂ではなく事件になるでしょう? そもそも死者は噂を語らぬものですよ」
「……それはそうか。毎日峠を走ってるの?」
カボチャヘルメットとあのギミック満載のバイクはさぞかし目立つだろうし、噂になるのも無理はない。
「はい。バイクはいい物です。地面を駆ける疾走感……高揚感……バイクのエンジン音もよく聞けば心地いいものだなと思い初めまして」
「あれ? 騒音も問題だったんじゃ?」
「いえその……連日バイクで風を切っていると……恥ずかしながら」
「恥ずかしながら?」
「……楽しくなってしまって」
「……」
杏樹は黙る。
妖怪にもそういう趣味性の高い事情はあるらしい。
ヒガンもあきれ顔で鬼火を眺めて、壊れたボディとバイクを見ていた。
「……その結果がゴーストライダー騒ぎというわけだ」
「まぁはい……。今はいちじるしくマナーの悪いレーサーにお灸をすえながら、日夜治安維持に励む毎日なので。攻撃的な噂はこちらが原因ではないかと」
「噂どころかすっかりバイカーの一員ではないか」
「そうだと嬉しいですがね。……そうですね、最近は人間の中で噂を呼び、少々人が集まりすぎていたのやもしれません。鬼神様方がこちらに来たのも必然……まぁ潮時だったのでしょう」
火力を弱める鬼火は意気消沈と言った感じだが、杏樹は杏樹でなんとも気まずい気分で胃が重かった。
こっちは別に鬼火君の治安維持活動に意見する権利も筋合いもないのだから当然である。
むしろ何にも知らないところに押しかけて、いきなり喧嘩を売ったのが申し訳ないくらいだった。
「……ああ、いや、なんというかゴメンね?」
「いえ、いいのです。むしろ調子に乗ってすみませんでした」
めちゃくちゃ謝られているが、どちらかと言えば怯えられているのは間違いない。
杏樹はヒガンに視線を向けた。
「……そんなに悪い妖怪じゃなかったね」
「……うん。どうやらそのようだ」
「……こう、私は今すごく楠君との会話を思い出してる。一歩立ち止まって考える余裕があったならそうした方がいいよ本当。今回、その余裕は確かにあったと思うんだよ」
「……いやぁ。まぁそうだな」
「とりあえず……暴れて壊したところを片付けようか。私も手伝うから」
「は、はい……申し訳ない。ちょっと張り切りすぎた」
異次元な戦いを見てしまったけれど、これは困ったことになった。
今回の事での被害はへこんだガードレールとクレーター、あとは完全に粉砕された、どう見ても手間のかかった依り代である。
ガードレールとクレーターの方は妖怪二人の力でどうにかするとして、杏樹の見立てではアレを修理できる人なんて当然一人しかいない。
そしてヒガンのダメージも合わせると、彼には多大な労力を強いることになりそうだった。
「……えっとそう言う感じで、こんなことになってしまったんだけど……大変申し訳ないんですが。直せないでしょうか?」
僕、楠 太平は腕を組んだまま天井を仰ぎ見た。
神木さんが我が家を訪れて、僕の前に差し出してきたかつて作品だったモノの残骸を見た僕は、しばし固まる。
ううん……これは見事に大破である。
僕は深呼吸して、改めて神木さんを見る。
彼女は本当に済まなさそうに頭を下げていて、その後ろには見覚えのある鬼火がプカプカ浮いて明滅していた。
なるほど。事情が察せられるだけに、断る気にはなれない。
そして苦境こそ、創作意欲を燃え上がらせるスパイスである。
「……なるほど! よし! 作業の準備をしよう!」
「本当に申し訳ないです!」
鬼火の奴……なんかしくじりおったな? 出くわしたなら運が悪い。
まだ現世になれていないヒガン様も手加減は難しかろう。
峠のゴーストライダーの噂なら、僕の耳にも届いて久しかった。
サラリと体が砂になったような錯覚を覚えたが、やりがいのありそうな修復だ。
今日も僕は新たな壁を超えることが出来そうだった。
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