くすのき君は妖怪が見えるけどそれはともかく趣味の人である。

くずもち

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第66話吸血鬼煙に巻かれる

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「ふぅ。いやぁタイミング最悪だったけど、何とかなってよかったよかった」

 僕は力技で押さえたこのひと騒動にちょっとビビっていた。

 なんか変な連絡事項回って来たなコッワッと思っていたら、なんだか要注意にされそうなイベントまで起きてヤッバッて感じだ。

 しかし、まぁ苦しい言い訳がどこまで通用したのか知らないけど、帰ってくれたのならよしだ。

「うきゅぅ……」

「……」

 そして目下最大の問題は、この妙な自称吸血鬼だった。



「これは……煙? なにこれ全然力入らないんですけどー」

 煙に巻かれて身動きが取れないリリーには悪いが実はこれ、ただの蚊取り線香ではない。

 そりゃあそうだ。ただの蚊取り線香で妖怪がどうこうなるわけがない。

 それを可能にしたのは、この中に住んでいる妖怪が力を貸してくれた結果だった。

「えんらえんら。ありがとさん。ごめんね? 夏でもないのに」

 そう話しかけると。豚の蚊取り線香から揺らめく煙は陽気に笑っていた。

「いえいえ。年中だってかまいませんよ。この線香入れは具合がいいんで、寝とぼけちまいますがね。もう少し私をしゃっきりさせたいのなら……どうです? タバコでも嗜まれては?」

「未成年にはまだ早いかなぁ。それにタバコは模型好きの大敵なんだ、飾り棚の掃除が大変だからね」

「そりゃあ残念。なら燻製なんてのもおすすめですよ? この家は煙が少なすぎるのだけが欠点だ」

「そっちは魅力的だね。もうちょっと頻度を上げてみるかな?」

「はっはっはっ。ではそれも期待いたしましょう」

 というわけで捉え処のない妖怪、えんらえんらの不思議な煙は無事吸血鬼を無力化することに成功したわけだ。

 彼もかなり力のある妖怪なので、僕の特性豚さん線香入れの力があればこの通りである。

「さてどうしようか?」

 ひとまず連れて来た神木さんに聞いてみる。

 すると彼女は難しい表情で言った。

「すごく危ないんだよね? こう……祓ったりしなくていいの?」

「まぁ別に怪我したわけでもないし。そもそもなんにもわからないんだよ」

 いきなり神木さんが連れて来て、霊能関係の方々の間で噂になってる吸血鬼だと言うにのだが、正直なところ僕の知識は漫画やら映画やら止まりである。

「さっきはちょっと無理やりな感じだったけど、ホントに蚊かもしれないし。真偽はこの場合重要じゃないかと……」

「重要じゃない? 私は蚊だって根絶やしにしたいと思ってるけど?」

「おおう……案外過激派だなぁ神木さんは」

 おっかない思想はともかく、陰陽連の彼女が言う様な力をリリーが仮に持っていたとしても、彼女がいるのに今日まで人類が滅びないでいたことがすべてなんじゃないかと思うわけだ。

「いちいち蚊を引き合いに出さないで欲しいんだけどー? 私、蚊じゃないしー」

 カヤの外にされているリリーは不満そうに頬を膨らませていたが、大事なかったが迷惑をこうむっていない訳ではない僕は渋い顔で吸血鬼を眺めた。

「……リリーさん? なんかすごい噂になってるけど何かしたんですか?」

「あーまぁ長旅で疲れたからちょびっと吸ったかな?」

「……町一つゾンビ映画とか?」

「違う違う。エナジードレインってやつ? でもチビッとじゃやっぱり物足りないかなーってふらふらしてたら君の噂を聞いたわけ。で思いついたのが食い倒れの旅ー。そしたらおいしそうな娘がいてまたチビッと吸っちゃおうかなって思ったけどね」

 その視線は、ちらっと神木さんに向いていた。

「……え? じゃあ私も吸われるところだったの?」

「だからエナジードレインするだけだってば」

「……ふーむ?」

 ふにゃっと重要な秘密を語るリリーは、しかし結局神木さんを食い物にはするつもりだったようだ。

 現状放っておくとほどほどに危険のようなので、僕はついでに取って来たコウモリ型のストラップを取り出す。

 羽根が動くギミックがこだわりのお手軽ミニプラモである。

「……なんでそんなの持ってるの?」

 目ざとい神木さんの指摘だが、そんなもの当然作るに決まっていた。

「いや、そりゃあ、吸血鬼とか蝙蝠なんて人気のコンテンツだから。とりあえず作るよ」

「作るんだ」

 そう、そこに大した理由はない。

 ちなみにバッ〇モービル的なイカした車なんかも趣味の範囲内だが、気に入っているので気軽には出してあげない。

「……まぁ早々にもめてしまったし、責任を口にした手前何もしない訳にはいかないから、これで手を打とう」

「へ?」

 きょとんとしている吸血鬼のリリーさんにポンと投げたストラップは猛烈な光を放つと彼女の体をあっという間に吸い込んだ。

 そして落っこちたストラップを広い上げて、僕は話しかけた。

「とりあえず封印完了。力を一部制限させてもらったよ」

「聞いてないんですけど!」

 ぷんすか声を荒げるリリーだったが、まぁいうほどちゃんとした封印でもなかった。

「いや、その気になれば貴女なら簡単に壊せますよ。でも人の家で面倒事起こしておいて何もしないわけにもいかないでしょ。それに……このストラップは貴女にメリットもあるよ」

「そうなの?」

 尋ねるリリーに僕は頷いた。

「もちろん。少なくともさっきの様な方々に目をつけられるようなことはなくなる。それに、お望み通り食べ物の味くらいはわかるようになるよ」

「ホントに!? 最高じゃん! ならおっけ。ダイジョブダイジョブ」

「軽いなぁ……」

 本当に蚊の妖怪かなんかじゃないかと疑ってしまうが、問題ないならそれでいい。

 そして今度は中身入りコウモリ型のストラップを眺めて、僕は何となく神木さんに話を振った。

「後はどっちが彼女を預かるかなんだけど……お願いしてもいい?」

「え? 私が!? 君に用があって来たんでしょ!」

「今、用事終わったから。僕は……観光とか、アウトドアな趣味はちょっと」

「私だって引っ越してきたばかりなんですけど……」

 お互いに視線でけん制しあう。

 いやしかし吸血鬼なんてどうしたらいいかなんてわからないのは、どちらも同じだった。

 仕方がないので、本人に訊ねると。

「え? かわいい女の子の方がいいに決まってるじゃん? 男子はイヤー」

「……そ、そんなことないよ? 楠君は妖怪の事には詳しいから、何かと便宜を図ってくれると思うし」

「なおさらイヤー。堅苦しいのは嫌いだし―」

「クッ……この」

 どうせ監視されるならかわいい女の子がいいらしい。

 ならばとても心苦しいが、お頼み申し上げるしかないだろう。

「では、お願いします。大丈夫、ヒガン様の方が力強そうだから」

「ううう」

 差し出したストラップを受け取った神木さんはガクリと肩を落としていた。

「ダイジョブダイジョブ。たまに楽しいことさせてくれるんなら、力貸すし!」

 楽しそうに羽根をパタパタさせているストラップに神木さんが向ける視線は厳しめである。

「……人間襲ったりしない?」

「しないし。なんか危ないのがいたらチューッと吸ったら一発よ? 私すごく役に立つ!」

「……」

 結果として神木さんのストラップは3つに増えた。

 その後、リリーの事は報告されたが、報告が突拍子もなかったこともあってすぐに物騒なことになるようなことはないと、陰陽師の女性が知らせに来てくれたのはそれから数日後のことだった。
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