ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

文字の大きさ
132 / 257

第132話属性祭壇

 さて、ちょっとしたトラブルもあっていったん仕切り直した次の日、僕らは再び95層の地を踏んでいた。

 今回は引率は無し。流石に前回は龍宮院先生に無理をさせ過ぎてしまったみたいである。

 申し訳ないが、急ぐに値する目的はちゃんとあった。

 その目的は一つ海を越えた先に見える、もう一つの島にあった。

「何があるんでござるか?」

「魔法属性を変化させられる祭壇」

「……マジで言ってるでござるか?」

「マジだよ。その祭壇で祈りを捧げると、自分の魔法適性を一つ代償に、別の属性を手に入れられるらしい」

 桃山君が戸惑うのも無理はないけど、それを可能とするのが祭壇の特別なところだった。

 僕なら水の属性一択だから、入れ替える形になる。

 しかし今回その恩恵にあずかれるのは自分だけだとなんとなく僕は分かっていた。

「だから……申し訳ないけど、あんまりみんなには意味ないかな?」

 一応確認すると浦島先輩、桃山君、レイナさんの3人はそうかもと頷いていた。

「そうでござるな……拙者闇の属性は気に入ってるでござる」

「ワタシも雷大正義ですね」

「土に特別思い入れはないけど……変えたい属性も特にないかなぁ。というかワタヌキ君って光属性じゃないんだ」

「あれは聖騎士のジョブで後天的に生えたやつですね。本来は水です。相性はいいみたいですけど、なくても大丈夫みたいなんで変えてみようかなって」

「へー。なんに変えるの?」

「空間属性です」

 ただ、おそらくはあまり聞きなれないであろう属性に、みんな戸惑い気味に首をかしげていた。

「超すごそうなやつ来たじゃん」

「……何でござるそれ?」

「レアな魔法属性だよ。だけど、こいつを習得できると……凄い恩恵がある」

「なんです?」

 聞いてくれたレイナさんに応えて、僕はテンションのままにネタバラしをした。

「なんと! ネットがカフェでも使えるようになる!」

 確実に画期的なので自信満々に教えると、ギョッとした視線が一斉に集まった。

 そうなのだ。空間属性は文字通り空間に干渉する魔法属性だ。

 本格的に操ることができれば、現実の空間だって干渉できる、実に夢のある属性だった。

 地上では精密機器が発展している昨今、それが当然のように使えないダンジョンではサブカルの民は生きづらい。

 しかしこの魔法はその突破口になるという話だった。

「ま、マジでござるか!? じゃあ携帯も!?」

「どどどどどういう事です!」

「革命じゃないの!? 絶対いるやつじゃん!」

「……ですよねぇ。いりますよねぇ! まぁ聞いての通り空間に干渉する魔法ですから、地上とダンジョンの空間を繋げるってだけです。要は地続きだけど、地上とダンジョンは別の空間なんですよ。だから電波と相性が悪い。それを強制的に繋げることを可能にするのが空間の属性魔法ってことらしいです」

 ざっくりと攻略君情報を開示したが、僕自身あまりよくわかってるわけじゃない。

 だが大事なのはデジタル機器から切り離され、何世代も文化後退したダンジョン探索者学生を部分的にだが救済できる可能性があるという事だ。

 もちろん空間魔法を習得したところで、様々な制約は存在する。

 しかしスマホもタブレットも使い放題となった時、僕らはデジタルの青春を再び謳歌するのである。



 さて、昨日のイカダを改造してレイナさんのボードに結び付け、即席の浮遊装置を作り出した僕らは隣の島に向かった。

 沈む海を抜けて南国風の島に上陸すると、さっそくゴリラよりもでかい猿がノッシノッシと闊歩しているのが確認できた。

「……この島はかなり難易度が高いです。あのでかい猿は出口を守っているように見せかけて実は祭壇を守ってます。祭壇に近づけば近づくほど攻撃は苛烈になって行く。……しかし今回僕はとあるアイテムを手に入れて来ました……」

 もうすでに大猿達はこちらの気配を感じ取って、集まってきていた。

 狭い範囲に密集した強力なモンスター達は実質、回避はできない。

 しかし手がないわけじゃないと攻略君は言った。

「ど、どこで?」

 桃山君が尋ね、僕はためらったが、正直に答えた。

「……スーパーで」

「「「スーパーで!?」」」

 ちなみにスーパーはスーパーマーケットの略で間違いじゃない。

 バッチリ買って、レシートもあるから立派に一般流通しているらっきょだった。

「そしてそこで買ったものに錬金を施したのがこの……対猿特攻ダンジョンらっきょだ!」

「「「でっか!」」」

「でしょう?」

 僕がでっかい瓶にぎっちり詰め直したらっきょの酢漬けを取り出すと、背後から困惑の雰囲気を強く感じるが、あえて言おう―――僕だって不安なんだ。

 しかし攻略君の言うことは絶対……! それにせっかく急いで準備したんだからあえてみんなの前で披露する。

「酢の中に手を入れてらっきょを掴み取り!」

「うわ! ダイレクトにいったねぇ」

「酢の匂いが強烈です!」

「ワタヌキ氏……食べ物を粗末にすると炎上するでござるよ?」

「さらにこれを投げる!」

 大猿共はこちらを見つけた瞬間、躍りかかって来た。

 動きは俊敏、パワーは強力。

 口から炎まで噴き出す魔猿だと僕は知っている。

 しかしらっきょが僕の手から放たれて、ボボンと煙を吹き巨大化して飛んで行くのを見た瞬間、彼らの怒りは霧散して視線がらっきょにくぎ付けになった。

「「「超でっかくなった!」」」

「きー!」

「うきー!!!」

「キャーキャーキャー!」

 でっかいらっきょに飛びついた大猿達は、一斉に飛びついて一心不乱にらっきょを剥き始めた。

 もう夢中である。

 自分でやったけど全然信じられない光景だが、実はグズグズしてはいられない。

「走って!」

「「「!」」」

 何が起こっているんだと大いに戸惑っているみんなを促し、僕らは全力疾走した。

 らっきょを撒いて撒いて、どんどん神殿に近づくにつれ、身体がでかくなってくる大猿を抜ける。

 そしてついにたどり着いた祭壇には、いつか精霊の守護する階層で見たような陣が輝いていた。

「……行きます!」

 祭壇に滑り込んだ僕は手を組んで祈りのポーズを取ると、口の中で復唱していた言葉を呪文のように唱えた。

「空間魔法空間魔法空間魔法! ……ハイ終わり!」

「「「もう!?」」」

「そうです! もういけます! でもぐずぐずだけはできません!」

 攻略君の話ではこれで上手くいったはず。

 そして急がなければならない理由もバカなものが一つ存在した。

 僕は走りながら語った。

「あのらっきょは猿型モンスターを強烈に引きつけます、そして皮をむいている間、夢中で意識を集中させる。しかし……」

「何かあるの?」

「はい。サル達は確かにらっきょに夢中になる……だけどひとたび皮を剥き終わったら」

「……剥き終わったら?」

「今までの比じゃないくらいキレて襲い掛かって来るんです」

 そこかしこから、キエェ!っとさっきとは比べ物にならない猿叫がジャングルを震わせ始める。

 そしてギラギラとジャングルの奥から見える紅い輝きはどんどん近づいて来た。

「なんで中身の入っているものにしなかったんでござるか!」

「らっきょじゃなきゃダメだったんだもん!」

「来てる来てるよ!」

「レベル上がったのにゾクゾクします! アハハハハ! これは最高にクレイジーですね!」

 僕もそう思う!

 とりあえず、いつものように逃げる!

 でっかいヤシの木が面白いように空を飛び、木をへし折る音が追って来ているのが分かった。

 僕らは全力疾走で逃げて、そして猿の指の先が掠るようなところまで追いつめられたが、なんとか次の階層に続く穴に飛び込むことに成功した。



「……あっぶなかった」

「すごい猿でしたね!」

「肝が冷えたでござるよ……。しかし大猿とは……どこか心引かれるモンスターでござった」

 息を切らしながら、口々に感想を口にできるくらい楽しんでくれたのならそれでいい。

 そして今回の目的達成は、我々にとって大きな意味を持つだろう。

「……いや、お疲れ様です。魔法の属性が変えたくなったら、今のが戦わなくて済む奴なんでよかったら試してみてね?……さて。じゃあ今日の成果を披露と行きましょうか」

「……おおー。いつになく自信に満ち溢れたマスターワタヌキです」

「……そこまでのものなんでござるな。空間魔法」

「……いいじゃない。こういうの嫌いじゃないわね」

 僕は立ち上がり精神を集中する。

 目標はみんなの拠点カフェ前だ。

 空間魔法の最も初歩的な技は、こういうことができるらしい。

 目を閉じ―――。開いた目の前には、ミョワンと水面のように揺らぐカフェへの扉が開いていた。

「……すごいでござるね」

「おお! 魔法でもできたんですね! でも……これ転移宝玉でよくないですか?」

「……待て待てこれの真価は風呂とか覗けることじゃない? 空間魔法うっかりスケベって言葉が降って来たんだけど……どう思う? ワタヌキ後輩?」

「先輩エロスイッチ入りすぎです。……桃山君を見習って素直に褒めてくださいません? 配線工事延期にしちゃおっかな?」

「「流石ワタヌキ氏! そこはかとなくステキ!」」

「よぉしわかりました! 大猿の件めっちゃおっかなかったから実は怒ってますね! 謝るから許してください!」

 最近の中では一番迫力があった大猿の強襲はさすがに一言言っておくべきだったかもしれない。

 でもホウレンソウしっかりやっちゃうと、この場合足が竦んじゃわない?

 ちなみに僕は足が震える派だった。 
感想 3

あなたにおすすめの小説

さびれたレンタル道具屋の転生おっさん、道具の使い方を教えまくる。~客のS級冒険者が俺を歴戦の英雄と勘違いして弟子入りを求めてくるんだが~

遥風 かずら
ファンタジー
前世で過労死した久世織人が目を覚ますとそこは異世界の王都、しかも古道具屋の跡取り息子として転生していた。アクセル・リオットとして成長した彼は荷物持ちとして冒険者パーティーに同行、その道中に【無限収納】スキルを開花させる。 パーティー活動から離脱後、四十歳となったアクセルは前世の記憶を思い出し、儲かりそうという考えで道具レンタル屋を始めていた。客足もなく店がさびれる中、道具の使い方が出来てない冒険者によって治安の乱れや魔物討伐の失敗が続いているという話を常連客から聞かされる。あらゆる道具に精通するアクセルは客の冒険者に使い方を教えに行くことを思い立つ。 アクセルの教えにより、やがてS級冒険者や聖女、王女までも勘違いして彼の元には次々と弟子入りを求める者が現れていくのだった。

《カクヨム様で50000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》

盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。  ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……  始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。    さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。

ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった

海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。 ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。 そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。 主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。 ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。 それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。 ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。

ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ

高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。 タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。 ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。 本編完結済み。 外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。