ダンジョン学園サブカル同好会の日常

くずもち

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第167話噂の調査

『……なぜなにも言わないのか? それはとても簡単だ。君の質問が異常はあるのか? なのだろう? だから答えは異常はない。それだけのことだよ』

「えぇ? でもそれで噂になるのはおかしくない?」

 そう思うのだが……攻略君はなぜか黙る。

 まぁ攻略君とて万能ではないってことなんだろう。

 攻略君は僕の専属アドバイザーみたいなものだし、日頃からせっせと作った自家製建築物が原因だと言うのならなおの事言いたくないことだってあるってものだった。



 というわけで本日僕と浦島先輩はノーマル制服での参戦である。

「というわけで浦島先輩よろしくお願いします!」

「全部トイレの中を確認すればいいわけね?」

「はい。変なモンスターが住み着いていたりしたら教えてください」

「了解。……ああ、でも偵察のモンスターの数は絞るからちょっと時間かかるかも」

「そうなんですか?」

 そこは自重せずに行くのかと思っていたが、浦島先輩は考えてみればと苦笑いを浮かべていた。

「悪いね。いやまぁ普通に私のテイムモンスターのレベルでこんな浅い層うろうろしてたらホントはまずいっぽいんだよ」

「……確かにまずいですね」

 僕は低層を中心の活動している探索者の一団がテイムモンスターに遭遇したパターンを考えてみた。

 大抵見知らぬ相手だろうが戦おうとするだろう。

 テイムモンスターも殴りかかられれば応戦せざるをえない。しかし手加減はするだろうから逃げ帰り、完敗した一団は未知の強力なモンスターを報告。

 まぁ大惨事である。

「前回は非常時とはいえ、思い切りすぎちゃったしね。へたするとスタンピートの前兆とか言われかねないかなと……」

 それは確かにその通り。

 普段現れないモンスターが浅い層でぞろぞろ動き回っていたらどう見ても異変の前兆だった。

 ダンジョンからモンスターがあふれ出すスタンピートは管理の甘かった初期のダンジョンではよく起っていたと聞く。

 そのたびに引き起こされた大惨事は今も伝え聞くところだった。

 そんなのに見間違えられたら、大パニックかもしれない。

「ええっと、じゃあ……どうしましょうか?」

「低層にいるモンスターに限定すれば大丈夫でしょ。豚ならいるから見て来てもらって、姿を隠せる子は前回もうまくいったから続行で」

「それでよろしくお願いします!」

 方針は決まった。

 では早速トイレチェックに行くとしよう。

 一緒に見て回るという浦島先輩の案はとてもいい提案だった。

「そんで私達も自分で確認するという事で。位置はわかるんだよね?」

「もちろんです! 僕がしっかり案内しますよ?」

「なんか妙にテンション高くない?」

「いやー……誰かを案内することなんてないと思ってたんで。一応力作ですし?」

「あはは! 確かに! じゃあワタヌキ後輩の力作、披露してもらおうかね?」

「いやー……お恥ずかしい」

 でもちょっと照れつつ、気合を入れて行ってみることにした。
 
 最初に発見したトイレは最近作った中では一番の自信作で、しょっぱなに紹介するには中々の完成度の作品だった。

「えーこれが最新版。音付き水洗、自動清掃システム付きトイレですね、ダンジョンのリセット機能を利用していつでも美しいトイレを実現しました。デザインにこだわって噴水もついてます」

 それは少し大型化して古代ローマのような彫刻で飾り付けられた美しいトイレである。

 色んな彫刻を検索して、奇跡的に出来上がった外観は芸術性を刺激すること請け合いだった。

「…………ワタヌキ君さ? 君こういう業者目指してるの?」

 だというのに本気の困惑顔で質問されてしまった。

 だけど別にそういうわけじゃない。

「ち、違いますよ。手頃かつ、需要を満たしそうな建築が思いつかなかっただけです。それに同じものばっかり作ってたら、今一熟練度が溜まらないんであの手この手でいじってたらこんなことになっただけで」

「継続は力なりという事か。……まあ、ほどほどにね?」

「浦島先輩に呆れられた!? おかしいな先輩よりは自重してると思ったのに……」

「どういう意味かね? ワタヌキ後輩? 私はあえて軽くオーバーに振舞ってはいるけれども極めて理性的な人間だよ?」

「ホントですかぁ? 割と欲望に忠実な気もしますけど?」

「甘いねワタヌキ後輩。その二つは矛盾するものではないよ。誰にでも同居するものなのさ」

 浦島先輩は当然だろう? と世の中の真理を語るようだったが、分かってしまった僕もまた同類だった。

「それもそうですね……僕もこのトイレを作る時、思いましたもん。需要と理想どっちを満たすべきかと。そしたらもう……っちも極めるしかないなと」

「それは……本当にほどほどにしときなさい?」

「なぜです先輩」

「まぁ……要はバランス感覚ってことかなぁ。ホラ行きましょう。まだまだ沢山あるんでしょう?」

「……もちろんですよ?」

 今一納得できないが、確かに先は長かった。





 今回は浅い層だったわけだが、案外こういう機会は元の同好会の時の様で懐かしい。

 ああだこうだと言いながら廻るのは楽しかったが、先輩の表情は最終的に呆れ顔に収まった。

「おかしなところはなかったですね。おかしいな……」

「……私はなんとなーくそりゃあ噂の一つや二つはされるだろうねって納得した感じだけど?」 

 僕は皆目見当がつかなかったが浦島先輩は何かに気がついたらしく、驚きだった。

「本当ですか! どのあたりが?」

「全部総合的にだよ」

「えー」

 そんな便利なのにと納得できなかったが、浦島先輩の言い分はこうだ。

「あんな手の込んだオーパーツみたいなトイレがポコポコ生えたら本家の怪談も真っ青なんじゃない?」

「そ、そうですかね? 利便性にはこだわったんですが……」

「完全にやりすぎ。なんだいあの高性能なトイレの数々は? なんかどのトイレも花みたいな香りするし。ウォシュレット設置率50パーセント以上ってなんだよ」

「……いらなかったですかね?」

「欲しいよ! 最高だよ! あれだけあれば混雑知らずでしょうよ! ありがとね!」

「それほどでも?」

 貶されているのか褒められているのかよくわかんないけど、結局浦島先輩はこう結論付けた。

「まぁ、噂は諦めた方がいいね。怪談と共に生きていくしかないよ。これからもトイレの妖怪ワタヌキさんとして頑張って」

「トイレの妖怪ワタヌキさん!? また変なあだ名が増えるんですか!?」

「甘んじて受け取りなさいな。名誉勲章だわよ、ここまでくると」

「えぇ~」

 情けない声を出してしまったけれど、正直納得しかない。

 どうやら僕は作るのが楽しくなりすぎて視野が狭くなってしまっていたようだった。

「とにかく問題なし。さて帰ろう帰ろう」

「はい……」

 うう……コツコツと丁寧な仕事を続けたつもりだったが、僕は拘りすぎたみたいである。

 そりゃあ確かに? 最近探索中にトイレで困ることがなくなったなと、こっそり満足感に浸っていたけどそれは異常な事だった。

 そりゃあ攻略君もなにも言ってはくれないはずだ。

 すべては自業自得の産物だったということか。

 何となく釈然としないものを心に抱えながら、自分の心に整理をつけていると、なんだかまた、いや、いつかよりも派手な戦闘音が聞こえて来て僕らは耳を澄ませた。

「……また派手にやってますね」

「この揺れは景気よくぶっ放してるんじゃない? ワタヌキ君いける?」

「もちろん」

 念のため、僕はカメラ君に偵察を命じた。
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