俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~

くずもち

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3巻

3-2

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     ◇◆◇◆◇


「……で? なんでこうなった?」

 数十分後、カワズさんは俺の力作を前にしてあきれていた。

「いや、ちょっと気分がノッてきちゃって……でもいい仕事してるだろう?」

 俺はグッと親指を立て、雲固めもそこそこに、作り上げた傑作の数々を披露する。カワズさんはそれを見ながら淡々と感想を述べる。

「……やりすぎと言えるくらいにな。順番に説明してもらえるかの?」
「おお! まずはこいつから見てくれ!」

 そんなに気になるなら語ってあげねばならないだろう。
 まず俺は、この木の頂上部分から突き出たつるを指差す。

「なんじゃ? アレはお前が育てた木の先端じゃろ?」
「もっとよく見てよ! ほら、先端になにかくっついているだろう?」

 蔓をほれほれと指差してみて、ようやくカワズさんは気が付いたらしい。

「これは……豆のふさかの?」
「そうだよ! 豆がるようにこいつを品種改良してみたんだ!」
「……だからなんなんじゃ?」

 ……この蛙には、ある有名な童話の素晴らしさを説かねばならないようである。

「馬鹿野郎! これでこそジャックと豆の木だろう!」
「だから、わしはそのジャックと豆の木とか知らんのだが?」
「……ああ、そっか。ジャックと豆の木ってのは童話のタイトルだよ。ある日、ジャックって名前の少年が豆をまいたらでっかい木が育って、雲の上の巨人の城にたどり着くってお話なんだ。そこで彼はいろんな宝物を見つけて裕福になったんだと」
「じゃからと言って、これも豆の木にする必要はないんじゃないかのぅ?」
「……それはそうだけど、リスペクトって大事だと思う」

 指摘されて納得してしまったけど、それはさいな問題だった。
 俺はすぐに続ける。

「しかもただの豆じゃないんだぞ? 一房に三粒! この三粒にこのでっかい木が吸い上げた養分がすべて集約されるんだ! 一つ食べたら一年はなにも食べないで生活出来るほど栄養満点! 死人だって飛び起きる! カリッと歯ごたえも抜群なんだ! ここ重要!」
「……なるほど、わからん。じゃあ、あのニワトリは?」

 これまたいいところに食いついてくる。
 カワズさんの視線の先で、コッコと雲の上を走り回っているのは、市場で買ってきたニワトリ達。生き物を召喚するのは大変なので、移動系の魔法を使って下界へひとっ走りしてきたのだ。

「聞いて驚け! こいつらは俺特製のエサを食べさせる事によって、なんと黄金でできた殻の卵を産むのだよ!」

 走り回る一匹を捕まえて掲げてみせると、ニワトリはコケーっと元気よく鳴いた。

「へー……エサが大事なわけじゃ」
「まあね。このエサ、卵の殻を黄金にするのに加え、トップブリーダーも廃業必至の栄養バランスを実現しているのさ!」

 きっと生まれた卵は割りにくいだろうが、中身は濃くてうまいに違いない。

「そりゃ結構じゃけど。まぁいい……では、あの金銀財宝はなんなのかのぅ?」

 カワズさんが指差す先には言葉の示す通り、金銀財宝が山となって積まれている。これに関しては個人的にはあまりテンションが上がらない。

「おいおいカワズさん。そもそもここに来た目的は、登頂者が喜ぶものをって話だったじゃないか? まぁ、手堅くいってみたわけですよ」
「……どうやって持ち帰るかが問題じゃな」
「だろうねぇ。黄金かついでつるから落下なんて、考えたくもない」
「わかった……ここまではかろうじてわかった。じゃが、あれだけはどう説明されても納得いかんぞ!」
「なんでだよ! 超かっこいいでしょうが!」

 最後の最後で声を荒らげたカワズさんが指差した先にあるものこそ、今回の最高傑作なのだ。それだけに、その評価は心外だ。
 独特の存在感を持ってそびえ立っていたのは、俺のデザインがえわたる塔だった。
 よくわからない金属で構成されたのっぺりとした外装にはSFチックな光が走り回り、所々に不思議なとっが突き出している。
 そしてなにより高さが尋常じゃない。宇宙人が作ったと聞かされれば信じてしまいそうな一品なのだ。こんなものを実際に建てられるのは、異世界広しと言えど俺くらいだと思う。

「いやぁ、苦労したね。とにかく未来っぽい外観を目指してみたんだよ。そしてこいつを見た人々は思うわけだ。これはいったいなんなんだと。宇宙人? はたまた古代文明の遺物なんじゃないか? ってね! そしてこの場所は伝説になるって寸法ですよ!」
「うん、わかった。お前馬鹿じゃろう?」
「あまりにストレートすぎる罵倒をどうもですよ!」

 ……確かに、冷静になって見てみるとわけがわからなくて、自分でもビックリしたのはここだけの話だ。テンションが上がりすぎて暴走気味だったかも。

「ふむ……じゃがこれだけやればお前も満足じゃろ?」

 俺の力作達を眺めながらカワズさんはからからと笑うが、それは早とちりが過ぎるというものだろう。

「いや実は……まだ完全ではないんだ」
「はぁ?」

 ……そう、まだ肝心な部分が残っていた。

「えー。まだなんかしょうもない事をする気か?」

 勿体もったいつけてわなわなと震える俺に、カワズさんのどうしようもなく面倒臭いものを見る視線が突き刺さる。

「しょうもない言うな! まぁ否定も出来ないんだけどね? せっかく作ったのに、ここの管理人がいないとまずいでしょ?」
「まぁ……維持するには必要じゃろうなぁ。これだけいろいろあると」
「でしょ! そこでですよ!」

 それでなくても、ジャックと豆の木をモデルにしようというのに、雲の上の塔がただの空き家など誰が納得するのだろうか? 巨人が待ち受けていないジャックと豆の木など、トウガラシの入っていない明太子。りょう点睛てんせいを欠くとはこの事だ。

「できれば巨人の誰かにお願いしたいけど……心当たりっていったら一人しかいないんだよねー」

 その心当たりとは、少し前にドワーフの村で知り合った巨人さんだ。
 とある事情でワイバーンと戦えない事に悩んでいたその巨人さんに、俺達はドワーフと力を合わせて鎧をプレゼントした事がある。あの巨人さんはしょうも穏やかだし。引き受けてくれるならこれ以上の適役もいないだろう。

「いや、こんな場所に住む物好きなんぞ、おらんのではないか?」

 カワズさんは否定的だが、そんな事はないと思うんだ。

「大丈夫! なんとかしてみる! 俺だって馬鹿じゃない! 勝手口からどこでも行ける魔法くらいなら頑張ってみるよ。本気になれば夢の国にだってつなげて見せるさ!」
「……どこじゃよ、夢の国って?」
「夢の国がどこかって? それは――君の心の中さ」
「うわー、いつにもまして発言がアレじゃのぅ。死ぬまでやってろって感じなんじゃが?」
「おいおいそう言うなよ、心の中ってのは冗談さ! なんせ……もうすでにこの場所が夢の国なんだからね!」
「いや……そんないい顔で言われても困る」

 カワズさんがため息をつく。だがもう、カワズさんのため息くらいでは、走り出した俺のロマンは止められないのである。
 これはいわば――アルバイトだ。
 自宅から徒歩0分。勤務地・雲の上。日給・金のべ棒一本。業務内容・謎の塔の管理。って感じの。

「とにかく、巨人さんに聞くだけ聞いてみるわ。カワズさんはもうちょい雲を集めといてよ」
「それ、相当しんどそうなんじゃけど? ……まぁ、ここまで来たら最後まで付き合うかの。さっさと帰ってこいよ?」
「わかってるってば。まぁちょちょいと行ってくるよ」

 俺はさっそくあの巨人さんの住む場所を目指すべく、ニワトリの買い出しの時にダウンロードした魔法を使った。

「……ってお前さんなにしとるんだ?」
「シッ! 静かに! 今、気を探っているんだから邪魔しないで!」
「気とな!」

 この魔法を使っている姿がカワズさんには奇妙に映ったようだが、ここが肝心なのだ。
 人差し指と中指を額に当てながら魔力を探る。このポーズ、本当はいらないんだけど、こういうのは雰囲気も重要なので。
 えーっと巨人さんの魔力は……もしくは俺製の虎丸一号の足跡をたどって――。

「見つけた!」

 シュピンとかっこいい音を立てて行ったのは、いわゆる一つの瞬間移動というやつだ。



   1


 パッと行って、ちょっと尋ねて、サッと帰ってくる。
 ただそれだけのつもりだったのに、俺はさっそくつまずいていた。
 カワズさんには早く帰って来いと言われているけど、そもそも帰れるのだろうか?
 巨人さんの住む村と思われる入口で、俺は足止めをくらっている。
 このづらは、どう考えても俺の大ピンチにしか見えないだろう。
 明らかに凶暴そうな巨人二人に囲まれている。
 てか、確かに巨人さんの魔力を感知した場所に移動したはずなのに、巨人さんが見当たらない。少しズレたみたいだ。この魔法、もう少し練習が必要だな。

「……」

 見上げるだけで首が痛い。
 黙って見ていると、巨人の一人がトゲトゲした巨大な棍棒こんぼうを肩にひっかけたまま、中腰になって下品に笑っていた。

「ヘッハッハッハ! おいおいこんなところでチビ人間がなにしてんだっつーの!」
「イエヘヘヘヘヘ! まったくだ! 人間のくせに生意気だぞ!」

 なんだなんだ、この物騒な方々は?
 ちくか? 俺は今から駆逐されてしまうのか?
 ごくりと生唾を呑み込み、やや緊張しながらも話しかける事ができたのは、たぶん今までの経験のおかげだった。

「あ、あのすいません。このへんに変な鎧を着た巨人さんがいませんかね? 『ウニャーン』って鳴くんですけど?」

 あっ、自分で変な鎧って言っちゃった。
 尋ねてはみたものの、話なんて通じないんだろうなぁと思っていたが、俺の言葉を聞いた途端、巨人の二人から薄ら笑いが引っ込んで、表情がなくなる。
 二人とも完全に青ざめ、明らかに狼狽うろたえ出したのだ。
 顔がでっかいだけに、その変化はすごくわかりやすかった。

「お、おまえ……あいつの知り合いなのか?」
「あ! 俺、用事思い出した!」
「えぇ? ちょ、ちょっと待って――」

 俺は呼び止めようとしたのだが、すすすっと素早く距離をとる巨人達。
 そのあと、全力で走って逃げていく彼らの動きは、巨体の割にしゅんびんだった。
 取り残された俺は、彼らの残した風に前髪をなびかせながらぼやく。

「なーんか……もうすでにやらかしちゃった気配が漂ってるかなぁ? いや……まだあきらめるな俺!」

 どう考えたって俺が鎧をプレゼントしたのが原因な気がするけど、とりあえず本人を見つけて直接尋ねてみたほうがいいか。
 もうだいぶ村の住人に迷惑をかけている気がする。まぁ来ちゃったもんはしょうがないので、巨人さんの家を探して村内を見て回る事にした。
 巨人の村はのどかな集落といった感じで、ドワーフさん達の村と似たような岩山の中に位置しているらしい。
 だだっ広い広場に、まるで遊牧民族でも暮らしていそうなテントがいくつか張ってある。巨人だけあってその規模はすさまじくダイナミックだ。一つ一つがサーカスのテントみたいな大きさなのだから、それに比例して村全体も広い。
 そんな中、俺はようやく新たな巨人達を見つけて、話しかけた。

「すいませーん! このへんに可愛らしい鎧を着た巨人さんはいませんかねぇー?」

 手を添えて大声を張り上げてみる。

「んん? なんだ?」

 すると、ズシンズシンと俺の呼び声に反応して巨大な影がいくつも近づいてくる。自分で呼んだのに、つい及び腰になってしまうほどの迫力だ。

「鎧を着た巨人さんを探してるんですよー」

 寄ってきた巨人達に再度告げる。
 だが彼らは俺の叫んでいる内容を理解すると、途端にやはり青い顔になって一定の距離をとってしまう。
 そのまま俺を遠巻きに眺め……。以下繰り返しである。
 数分してさらに増えた巨人達に取り囲まれる。距離は微妙に開いたまま。気分は小学校に紛れ込んだ子犬のようだ。

「な、なんなんだこれ?」

 俺の動揺など無視して、ひそひそとこちらに聞こえないくらいの声でささやき合う巨人達。
 俺が一体なにをしたというのだろうか?
 もういっそ諦めて帰ろうかというところまで追いつめられていた俺だったが――。

「なにをやっているんだ、お前達!」

 現状を打ち破ったのは、少し高めの怒声。
 びくりと身をすくませた巨人達は一斉に声の主に道をける。
 小さなビル群のような巨人の道を堂々と歩いてきたのは、これまた驚いた事に、美しい女性の巨人だったのだ。
 腰まで伸びた真っ赤な髪を揺らし、すらりと伸びた足で歩くたびに大地を揺らす地鳴りが響く。彼女はまっすぐこちらに向かってくる。
 猛禽もうきんのような目で見下ろされると、ハムスターにでもなった気分だ。

「……族長だ」
「……族長が来たぞ」

 そんな彼らの呟きが耳に入って、俺も妙に納得する。
 なるほど、確かに族長だ。
 露出の多い毛皮っぽい衣装はともかくとして、よく見れば色鮮やかな羽をあしらった装飾といい、骨でできたアクセサリーといい、族長という言葉は、彼女にしっくりと来る。
 族長さんは俺の前まで来ると、口を開いた。

「お前、人間か? どこの馬鹿かは知らないが、巨人の集落に足を踏み入れるとは中々の度胸じゃないか。だが……騒ぎを起こすのはいただけないね」
「い、いやー。俺も騒ぎを起こすつもりは全然なくてですね? こちらにこう……素晴らしく可愛らしい虎っぽい鎧を着た巨人さんがいるんじゃないかなぁと思いまして。『ウニャーン』って鳴くんですけど……俺は彼に用事があって来たんです、はい」

 そう尋ねてみると、彼女は眉間にしわを寄せ、しばし考え込む。どうやら心当たりがあるようだった。

「……ありゃまぁ虎と言えば虎なのか? お前、ひょっとしてあいつの着ている鎧の関係者か?」
「はい。鎧の製作者の一人で、魔法使いやってます」

 思い当たった鎧があるとすればアレしかないだろう。返答とあわせて簡単に自己紹介をすると、広場がどよめいた。
 一方族長さんは、腕を組んで唸ってこそいたけれど、取り乱しているようにも見えない。それどころかなんとなく、楽しそうだ。

「ほう……お前があの鎧を作った一人なのか。あたいも話は聞いている。あいつの説明じゃなんとも要領を得なかったんだがね」

 族長さんは言うと、今度はしゃがみこんで値踏みするように俺をしげしげと眺めてくる。
 そんな風に美人に眺められると照れるのだけれど。サイズが大きいだけに目力も三割増しだった。
 だけどそれ以上に気になるのは、やはりあの巨人さんについてだろう。
 村人の反応といい、族長さんの反応といい、なにをやらかしたんだ巨人さん?
 ざわめきが未だに収まらない中、それが気に入らなかったのか、族長さんは周囲の巨人を怒鳴って叱りつけた。

「お前ら! いちいち動揺するんじゃない! それでも巨人族か! 馬鹿者共が!」

 ズンと腹に響く一喝。
 たった一発でざわめきを鎮めてしまう族長さん。さすがにすさまじい迫力である。
 族長さんは改めて俺に視線を戻すと、今度は一転して唇の端をゆがめて言った。

「そういうわけなら少し話を聞かせてもらおうか! おい、人間の魔法使い! あたいについて来な。歓迎してやろう!」
「え? いや、なんていうか俺、他に用事もありますんで、彼の居場所だけ教えていただけたらいいなーなんて」

 正直もう巨人さんに会うのも怖くなってきたのだけれども……いや、しかし別の意味で早く巨人さんに会わなければいけないような気もしているし。
 様々な感情(主に不安)がないまぜになって、俺がしどろもどろに伝えると、振り返った族長さんがギン! と音でもしそうな視線でにらみつけてきた。

「あん? あたいの許可なしで、ここで好き勝手出来ると思ってるのか?」
「……よろしくお願いします」

 一瞬で降参した俺を笑ってやって欲しい。
 俺の台詞を聞いてニッコリと笑った族長さんは、パンと大きく手を叩くと、すぐさま準備を始めたのだ。

「よし! 話は決まった! それじゃあお前達、今すぐ酒と食い物を用意しろ! あたいはこいつと話がある!」

 途端に慌ただしく動き出す巨人達に、悪かったなぁと心の中で謝る。
 強引なのにはやっぱり弱い事を再確認しつつ、俺は族長さんについて行った。


     ◇◆◇◆◇


 連れてこられたのは一際大きなテント。族長さん一人のためのものらしい。
 結構な広さがあるにもかかわらず、大きな皿に盛られた料理が次々と運び込まれてきて、室内はすぐにきゅうくつになってしまった。
 牛っぽいなにかの串焼きに、ワイバーンの姿焼き。俺の身長よりも間違いなくでかい点が気になるが、こんがりと狐色に焼き上がり、油がしたたっていてうまそう。添えられている野菜も、巨人的にちょうどいいサイズなのだろうが、とてつもなくでかい。どうやって栽培してんだよ、これ。
 料理のどれもこれもが豪快の一言に尽きた。

「……」

 しかしこれだけの料理があるというのに、だだっ広いテントの中には俺と、見るからにくつろいだ様子の族長さんがいるのみというのは少し寂しい。
 大きなクッションに寝そべる族長さんは、食事にしてもいちいち動作が豪快だった。

「さぁ客人! 大いに食って、飲んでくれ!」
「はぁ……どうもです」

 そう言われてもサイズが! サイズが! と叫びたい。
 結局、魔法で適当な大きさの皿を作り出し、これまた魔法で大きいナイフを出して取り分ける事にしたのだが、それが族長さんの興味を引いてしまった。

「へぇ、面白い事をする。そいつがあんたの魔法かい?」
「へ? ああ、まぁそんな感じです。他にもいろいろと作れますけど」
「て事は……それがあいつの鎧を作った魔法か? ものを作る魔法なんてものは初めて見るな」
「まぁ、すごく珍しい魔法なんで。だけど鎧についてはドワーフさん達の力もかなり借りているから一概に俺の力だけと言ってしまうのは抵抗がありますけど……」

 魔法創造を行える者が俺以外に存在しているかどうかは知らないが、簡単に使える魔法ではない。
 ただ、魔法への関心はさほどでもなかったのか、族長さんはふーんと適当な反応を示すだけだった。

「まぁあんたが、噂の魔法使いでもなんでもいいさ。あたいはここいらの巨人を仕切ってる族長だ。あ、悪いが名前は伏せさせてもらうよ? 怪しい呪いでもかけられたらたまらないからね」

 どんな偏見へんけんなのか族長さんはそう言うが、もし仮にそんな魔法があったとしても、俺に対しては心配する必要はない。

「あー、どっちにしても俺、名前が覚えられない魔法がかかってますんで、その点は問題ないですよ?」
「なんだいそれ? ……ははっ! とぼけた奴だ! それじゃあお互い、いきなり本題に入るとしようか? まず、あたいから。まどろっこしいのは嫌いなもんで、単刀直入に聞かせてもらうよ。あいつになんの用なんだ? 場合によってはあたいはあんたを殺さなきゃならないけど?」

 族長さんの目が、質問と同時にすっと細められる。気配が変わった。

「それはさすがに、やめてほしいかなーなんて……」

 しかし雰囲気にも増して変わったのは、室内の温度だ。
 ただ居心地が悪くなったからというわけではない。温度が上昇した原因ははっきりしている。赤く光を発する族長さんの髪だ。
 元から鮮やかだった赤髪が、燃えている。
 しかしよく見ると、ただ燃えているのではなく、髪そのものが炎に変わったようにも見える、なんとも不思議な現象だった。


「髪が燃えるとか……俺もそんな魔法を見るのは初めてですよ」

 教えてくれるとも思っていなかったのだが、族長さんは自慢げに自分の髪を持ち上げて見せつけるように言った。

「これかい? こいつは体質みたいなもんさ。代々族長を継ぐ奴は、生まれた時からなにかに愛されているもんなんだ。あたいは見ての通り炎に愛されている。『炎のティターン』なんて呼ばれたりもするね。ちなみにこれを見て生きて帰った奴はいない」
「へぇ……だから怖いんでそういうのやめてください」

 この話、カワズさんは喜ぶだろうな、と思ったが、今はどうでもいい。
 なにせ、こういう変化が現れたという事は、彼女の精神になんらかの変化があったに違いないわけで。
 魔法がメンタルにかかわるのは、日々実感するところだし。
 俺としても巨人の族長、恐らくは相当暴れん坊な彼女の怒りなど、できれば買いたくはない。
 しばし沈黙が続き、族長さんは再び話す。

「それで? あいつに会ってどうするつもりなんだい?」

 ここでの台詞選びが重要なんだろうなぁとごくりと唾を呑む。しかし隠していても始まらないので俺は正直に答えた。

「ああ、はい。じゃあ、俺もいきなり本題からで。……まぁ簡単に言うと、新しく建てた家があるんで、そこの管理人をしてくれないかなーと思いまして。もちろんいつでも村へ帰ってこれるようにしますし、そのまま住んでもらってもいいんですけど、そのへんは本人に聞いてみようかなぁと。やっぱそういうのダメですかね?」
「……ふーん。いいよ」
「ですよねー……って! いいの!?」

 族長さんは割と即答だった。

「ああ、構わないよ。連れていきたきゃ連れていきなよ」

 あまりにもあっさり過ぎる返答に、拍子抜けを通り越して逆に不審に思ったくらいだ。
 顔に出てしまったのか、俺の顔を見た族長さんはククッと笑い、だが、と前置きしたのだ。

「というのはあたいだけの意見なんだがね。他の連中がどう考えるか……どちらにせよ、すぐに許可は出せないかもな」
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