俺と蛙さんの異世界放浪記~八百万ってたくさんって意味らしい~

くずもち

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3巻

3-3

 え? 結局どっちなんだ?
 意図はわからないが、気になる言い回し。

「すぐには、ですか?」
「そう。すぐには、だ。外の奴らの様子がおかしかったろう? ありゃあいつの……いや、あいつの持っている鎧が原因なんだがね」

 俺の最も気にかけていた話題がさっそく出て来た。
 虎丸一号が関係なければいいのになと願っていたが、ズバリ言われると、もはやどうしようもない。

「……やっぱりあの鎧がまずかったですか?」

 冷や汗が止まらない。
 どう反応するかじっと見ていると、族長さんは静かに首を振って、適当にかじった骨付き肉を俺に向かって突き付ける。

「いいや? あたいとしては戦力が上がってむしろ喜ばしいと思っている。だけどそうは思わない連中もいるんだよ。問題があるってなら、鎧というよりあたいらのほうにあるんだろうさ」
「そうなんですか? それじゃあ……鎧をあげた巨人さん自身はどんな感じですか?」

 尋ねてみると、族長さんは語りだした。

「あいつ自身はそんなに変わってないよ。知ってるかもしれないが、あたいらは……まぁ大人しい種族じゃない。当然戦えない奴の肩身は狭い。それでとびきりおとなしいあいつは、周りから馬鹿にされてた口だったんだよね。でも、鎧を手にしてあいつは強くなった」

 うーんと唸る族長さんのしかめっ面は、本当になんとも言えない感じだった。
 確かにドワーフの村で出会った巨人さんは、巨人族の性格を知るナイトさんとカワズさんが驚くほどに穏やかな性格だった。実際、巨人さんはここではかなり浮いていたのだろう。さっき俺が体験した入口の一件みたいなのが日常茶飯事だとすると、無理はない。

「それで、村の皆さんは鎧の話をするとあんな態度になるんですか?」
「ああ。あいつが突然みょうちくりんな格好をして帰って来たと思ったら、いきなり狩りで大活躍だ。ここにいる連中は単純だからね、最初はあいつの持ってる鎧のせいだって、奪おうとした奴もいたようだよ。でもすべて返り討ち……つうか、襲い掛かっても傷一つ付けられやしなかったんだと。おかげであいつは鎧を滅多に脱がなくなっちまうし、文句を言われないのをいい事に、集落の端っこで前にもまして土いじりの日々。弱かった奴が強くなったのに、その力を村のために積極的に使おうとしない。おかげで仲間内がギクシャクしちまってるってわけだ。いじめられたあいつの印象がいきなり変わった事を、みんなまだ受け入れられないのさ。あたいから言わせれば、その程度で動揺するってのはさすがに情けないがね」

 腹立たしいと、族長さんはイライラがぶり返したのか荒々しく残りの肉を平らげる。
 それにしても、また最悪な展開になったものだと俺はクラクラしていた。

「……そ、それはまずいっすね」
「まぁね。だから、あいつが一旦村の連中と距離を置く事は別に反対しない。というかあたいはそうするべきだと思っている」

 いきなりイメージが変わった事で、仲間の中で戸惑いが生じたと。その上、もしどこかの場面でアレを着た状態でアルコールでも摂取していたとしたら……きっと彼らは虎丸一号というか、あの巨人さんの真の力を目撃してしまったに違いない。

「……なんかすいませんでした」
「勘違いするなよ? なにもあんたが謝る事はない。あたいは結構好きなんだアレ、笑えるし。一番気に喰わないのは、いちいちびくつく他の連中の反応なんだ。正直に言えばごちゃごちゃ言う奴らのほうを叩きだして、あいつを残したいくらいだ」
「そ、そうなんですか?」

 これは予想外の高評価。族長さんも大きく頷く。
 しかし族長さんはまだ渋い顔で、頭を抱える。

「だが、それじゃあたぶん解決はしないだろう。そもそもあいつの中身が伴ってないのが頭の痛いところなんだよね。どういう手段を使って強くなろうが構わないが、その力に見合った振る舞いが出来ないってのが混乱の一番の原因なんだろう」

 わからないでもない。結局、巨人さんの性格と虎丸一号の強さがとことんアンバランスであるゆえに集団の和が乱れているのか。

「あー、あの巨人さんじゃ強気にふるまうとか無理ですよねー……なんかホントすんません」
「だから謝るなって」

 そうは言っても多少は責任を感じてしまう。個人的に胸が苦しい俺だった。
 話し終えると、族長さんは気だるげにため息をつきつつ、体重を自分のクッションに預ける。

「実はこっちが厄介なんだけど……あいつのここでの立場がもう上がっちまってるんだよね」
「えぇー!? そうなんですか?」

 族長さんの言葉に俺の声は少し上ずった。これもまた冗談なのかと思ったが、どうもそうではないようだった。

「巨人の間じゃ力こそがものを言う。もちろん中には、変化に動揺してる奴らばかりじゃなく、あいつの力を高く評価している奴らもいるんだよ。だから、族長のあたいがあいつが出ていくのを許可しても、そいつらがきっと反対する。そしてそういう奴らは大抵あたいでも無視するのが難しいくらいの立場と力を持っている」
「はぁ……でもちょっと巨人さんをお借りできればいいだけなんですけど? そんな大した話ではなく」
「ちょっととは言っても、いざという時に、武器が手元にないのは不安だろう?」
「虎丸一号はいちおうただの鎧なので」

 ここだけは譲れないので補足すると、どうでもよさ気に流された。

「なんでもいいさ。だがあたいにはちょいと考えがあってね、そのへんの事をまとめて解決出来そうな策がある。そこであんたの出番ってわけだ」
「……出番、ですか?」

 突然指を差されて戸惑ってしまった。
 族長さんはそんな俺ににじり寄ってきて、挑発的な目で俺を軽く睨む。

「あたいにはわかる。実はあんた、かなりやばいだろう? あの鎧を作ったっていうのなら相当な魔法使いってのもわかる。だからあんたの魔法で一つ、あいつが出て行く事に反対しそうな連中を黙らせるのに手を貸してもらおうと思ってね」

 なにを言い出すかと思ったら、思いのほか物騒なお願いだった。
 脅すやら黙らせるやら、力を使って他人をねじ伏せよう、みたいなのはちょっと違う気がする。もし、そこを踏み越えてくるような提案なら、さすがに突っぱねよう。

「……」

 少し黙っていた俺に、族長さんが口を開く。

「なぁに簡単な事だ。ただのせ物探しさね」
「へ?」

 思っていたのとはかなり違ったお願いに、思わず気の抜けた声が出てしまった。

「この集落のそばに『死の山』って場所がある。生き物も全く寄り付かない、気味の悪い岩山なんだが、あたいらの間にはある話が伝わっているんだ……。岩山のてっぺんに、ご先祖様が使っていたおのが突き立っているっていうんだよ。だが、妙な魔法がかかっているのか巨人族でもまともに斧までたどり着いた奴はいない。そのあたりは立ち入り禁止にしてあるんだが、強力な魔法使いがいりゃあ話が違ってくるとあたいは睨んでいるんだよ」
「? それがあるとなにか変わるんですか?」

 その斧とやらが手に入ると、どういう理由で巨人さんをすんなり連れだせるのだろう? と思ったが、族長さんにはある程度の自信があるようだった。

「大いに変わるさ。歴史には重みってもんがあるからね。これまで誰も手に入れられなかった斧をこの村に持ち帰り、あたいがみんなに自分の強さを示す事ができれば、少なくてもあたいがあいつ一人を外に出すくらいの事でガタガタいうやからはいなくなるだろう。あたいらにも先祖をうやまう気持ちくらいはあるんだよ」

 一気に言い切った族長さんは悪だくみをしている顔で、不敵に笑っていた。
 だから「すぐには」って言ってたのか。まぁ、その斧にどれだけの価値があるかはいまいち理解できていないが、彼女の族長としての立場をよりばんじゃくに出来る代物なのだろう。
 つまるところ、巨人さんを連れていきたければ、その斧とやらを手に入れてこいってわけですね。
 しかし、巨人でもまともに手に入れられないものとなると、相当厄介なのは明らかだ。

「まぁ、あんたにも都合がいいし、あたいも余りある見返りを手に入れられる。素晴らしい案だろう?」
「俺、なんかよからぬ事に利用されてません?」

 どうもいいように利用されている気がして尋ねる。だが、そんな事は意にも介さず、族長さんは言った。

「ここの和を乱した責任を感じてるんだろ? あたいが欲しいのはその乱れを正す強い結束だ。言っておくが、こいつはあたいにとっても賭けなんだからね? あの鎧を作った魔法使いだというから話をしたが、本当なら人間なんて貧弱な種族と組みはしない。捜索方法については全部あんたに任せる! あいつを呼んでいるから、来たらさっそく始めるとしよう!」

 ぐっ……確かに原因を作ったのは俺だ。それでも強引なやり方にしか思えない……責任を感じる事はないみたいな風に言ってたくせに……。
 いろいろ考えたが……急いでいるのは事実だし、巨人さんさえ連れ出せるのなら悪くはないか……。
 結局、俺は協力する事にした。

「まぁ、今回だけという事で」
「よし! そう来なくっちゃね!」

 条件はただの物探しだし、あまり時間をかけずに済むだろう。
 族長さんとしばらく談笑しつつ、待つ事数分。独特の鳴き声が聞こえて、俺達はテントの入口に顔を向ける。するとあのおなじみの丸い顔がひょっこり出て来た。

『ウニャーン……』
「来たか! 入っていいぞ!」

 族長さんは大きな声で呼びかけて、訪ねて来た巨人さんを迎え入れた。
 相変わらず滑らかな光沢と、着ぐるみみたいなデザインが冴えている。それにしてもこの第一印象の強力さは、久しぶりに見てもビックリする。
 ここは巨人ばっかりだし、せっかくだから虎丸一号と呼び名を統一したほうがわかりやすいかもしれない。
 というわけで注目の虎丸一号はものすごくビクビクと緊張しながら、なぜか族長さんの前でひざを抱えて体育座りをする。
 族長さんは虎丸一号の前に立ち、話でもするのかと思ったら、いきなり彼の頭に拳を落とした。

「まったく! まだ鎧を着たままなのか!」
『ウニャーン……』
「なに言ってんのかわからんわ!」
『ウニャーン!』

 未だに虎丸一号状態だったのがまずかったらしい。
 族長さんは更にガイーンと頭を一撃していたけど……彼女は痛みで手を振っているのに対して、虎丸一号は全く効いていなさそうだ。

『……ウニャァーン!』

 ただし精神的には結構効いているようで、どことなく悲し気な鳴き声を漏らす。

「まぁいい……お前に客だ」

 族長さんから若干疲れ気味の紹介をいただいて、俺は手を上げて虎丸一号に挨拶した。

「やぁ、しばらくぶり」
『ウニャーン!』

 おっ、今度は嬉しそうだ。
 再会の挨拶もそこそこに、族長さんはほとんど間もおかずにストレートに用件を伝えていた。

「さて、役者もそろったし行くとするか。あたいらはこれからこっそり死の山までいく用事が出来たから、あんたもついて来な!」
『ウニャン!?』

 唐突に飛び出した有無も言わさぬ命令口調。虎丸一号はかなり驚いた様子で両手を上げていた。
 鎧生活が長いせいでいちいちリアクションが派手になっているらしい。

「こっそり?」

 豪快な彼女らしくないなと思って尋ねる。

「言ったろ? 立ち入り禁止なんだって」

 族長さんは「内緒だぞ?」と人差し指を口元に当てている。俺はハハハと乾いた笑いを浮かべてしまった。

「さて、こんなもんで説明は終わりでいいだろう」
「えぇ? それで終わりなんですか!? 本人が全然納得しているように見えないんですけど!」

 おろおろしている虎丸一号があまりにびんでツッコんでしまったが、肝心の族長さんは俺の言葉の意味が本気でわからなかったらしく、逆に聞かれてしまった。

「ん? 納得なんて必要ないだろ? あたいが行くって言ってんだから?」
「わーい、暴君発見だよ」
『ウニャーン……』

 こっそりと同意を示す虎丸一号。なかなかの苦労人である。
 族長さんは部屋の隅に置いてあった斧を手に取り、ぐるぐると腕を回しながらもののついでのように虎丸一号に言った。

「ああそれと、この魔法使いはお前に頼みたい事があるんだそうだ。お前、その鎧を作ってもらったんだろう? この一件が終わったら、しばらく手伝いに行ってこい」
『……!』

 続けざまにまた強烈な決定事項を告げる族長さんは、とことん容赦ようしゃがない人だった。


     ◇◆◇◆◇


「……」

 連れてこられた死の山を見て、俺はさっそくげんなりした。
 雲まで達しようとしている岩山は断崖絶壁だんがいぜっぺき。頂上なんて見えるわけもなく。岩肌がどこまでも続いていたのだ。
 ここを登る? あまつさえ探索をして、斧を一本探して来いと? なんともめちゃくちゃな事を言うよね。
 まともに挑戦していたら、帰る頃にはカワズさんは冬眠しているに違いない。
 族長さんはそのへんで適当に拾った石を使い、地面にガリガリとマークのようなものを描いて指し示す。それは斧が二振り重なった家紋みたいな印。ついでに彼女には絵心がある事も判明した。

「こんな感じで、柄に斧が二つ合わさったマークがあるって聞いてはいるが、それ以上はわからん。まぁ巨人サイズの武器だから目立たないなんてのは考えにくい。まぁ、ゆっくり探してくれ」
「……暗くなる前には帰りたいんですけど?」
「そりゃあ、あんた次第だろう?」

 族長さんの顔からは、さてどうなるかという好奇心が透けて見えるようだ。

「まぁ、ほどほどに頑張りますよ……」

 俺は呟き、岩山を改めて眺める。
 いちおう入口みたいな道もあるが、とてもピクニック気分で登れるような山ではない。もし、こいつを普通に登ろうとしたのなら、一流の登山家並のスキルを要求されるだろう。
 もっとも、実際に登ってのんびり探索するつもりはないけどね。
 とりあえずこの山全体を見渡せるところから、まずは解析させてもらうとするか。
 俺はプラプラと手足を揺らしながら、山に近づいていく。そしていい感じの距離を見極めると、空になにもない事を確認して、息を大きく吸い込んだ。
 それから深く膝を曲げて、力を溜め――。
 トン、と軽い音のあと、俺の体は高速で真上に飛び上がった。
 風を切り、雲を抜ける。
 真っ白い水滴の壁を突き抜けて、あっという間に頂上を見下ろせる位置に到達する。そこからかんで山の全貌ぜんぼうを眺めると、ごつごつした山は、地上から眺めたそれよりもちょっとだけ小さく見えた。

「……高さはかなりあるな。でも、面積的には特別広いわけではないのかな? なんかでっかくて細長い大岩って感じに見える」

 感想としてはそんな感じ。

「どれどれ、その斧とやらはいったいどこにあるのかなと……」

 解析の魔法で情報をある程度絞れば、斧の位置など数秒もあればわかるだろう。
 さっそく解析の魔法を山に向かって使うと、目標の斧はすぐに見つかった。
 ――頂上付近に突き刺さり、柄だけがかろうじて見えるほど深く埋まっている。どうりでもくできないわけだ。ただ、どういうわけか結構な魔力で封印をかけて抜けなくしているみたいだ。まぁ、俺にとっては大した問題じゃない。

「そうりゃ! うんとこどっこいしょ!」

 気合い一発、狙いを定めて力任せに斧を引き寄せる。
 封印は容易く壊れて、斧はあっさりと引き抜けた。
 さすが巨人用の武器だけあって、そのサイズは並ではなかった。くるくる回して見てみると、族長さんに教えてもらったマークもある。

「うおぁ……この斧、金太郎何人分だろう?」

 的外れな独り言を呟いてみる。それはさておき、我ながら迅速な任務達成ではないだろうか?

「よし、これで依頼は完了だよね。うん、順調順調! そもそもアルバイト紹介をしに来ただけなのに頑張りすぎた感すらある!」

 あっさり終了した分、上機嫌な俺である。
 しばしニコニコしながら風景を楽しんでいたのだが、山の様子がおかしい事に気が付いた。

「……ん? なんか山が動いてる?」

 まさか、そんなわけがない。
 動かざる事山のごとしなんていうけれど、そりゃあ山が動いたら成立しない言葉だろう。

「んん? 今日は結構魔法使ってるからなぁ……疲れがたまってるのかも」

 俺はゴシゴシと自分の目をこすって、深呼吸してから目をつむる。きっと錯覚に違いない。
 そう思い、時間をかけて、元の山の映像をまぶたの裏に思い描いた。
 そして再び、目を開くと……。
 ズズズン……と、地鳴りの音と粉塵ふんじんが。

「……」

 気のせいかと思ったが、どうやら目の錯覚ではなかったらしい。

「な、なんだこれ? なんか俺またやらかしちゃった?」

 山は確実に動いていた。
 俺が魔法をかけたわけじゃないのに、この非常識の度合いはなんなのだろうか?
 異常な事態に一瞬慌てるも、冷静になり現状の把握に努める。
 今度は斧がどういうものなのかについて調べてみて、俺はいよいよ顔を青くした。
 斧はどうやら……抜けないように封印されていたわけではない。斧が封印の鍵だったんだ。


     ◇◆◇◆◇


「おいおいおい、どういう事だこいつは……!?」
『ウニャーーーーーン!!』

 あのちっこい人間の魔法使いが空に消えてしばらくしたあと、突然地面が大きく揺れ始めた。
 一体なにが起こっているのかわからず戸惑うあたい達が見たのは、今まで山だと思ってきたものの正体だった。

「なるほどね……こいつが山に入るなとずっと釘を刺されていた理由ってわけだ。まいったね」

 徐々に見上げていく。それには大きな足があり、胴体があり、腕があり。
 そして、雲の上からしゃがみこむように見せた顔には、大きな目玉みたいな空洞が二つ。
 不気味で真っ黒な二つの穴が、うつろに地上を見下ろしていた。
 あたいら巨人にとって、そもそも見下ろされるという事自体が珍しい。あまりのスケールの違いに、あたいはやれやれと冷や汗を拭う。

「まったく……欲をかくもんじゃなかったかね?」

 あの魔法使い、見た目はすごく貧弱だったが、あたいの女の勘はあいつが本気でやばいと告げていたんだ。かつて魔獣すらぺろりと平らげる鳥とたいした時だって、そこまで過敏に反応はしなかった。だから勘を信じて、あの男ならどうにか……と手を出したらこの有様。この大きさの化け物じゃ、いくらあいつでも苦戦するかもしれない。
 あたいはどうやら、思った以上に厄介なもんを起こしちまったらしい。

「だが……燃えてきたのは間違いないねぇ」

 やってしまったものは仕方がない。
 こんな状況なのに、さっきから本能が「いけ」と告げているのだ。
 相手は確かに普通の巨人でも二の足を踏むデカさだが、しかしそんなものを踏んでる暇があったら一歩でも前に進むべきだろう。

「巨人がデカさにビビってちゃ、巨人に生まれた意味がないだろうが!!」

 大きく声を上げ、愛用のせんを構えると、自らの赤髪が猛烈な勢いで燃え上がっていく。
 この身を焼く激情に身を任せ、あたいは斧を持ったまま走る。
 そのままデカブツの足を踏み砕きながら駆けあがり、頃合いを見計らって斧を振り上げた。

「喰らえ!」

 熱が体を伝わり、武器にまとわりつくと同時に刃を敵に叩きつける。
『炎のティターン』のしんこっちょう、攻撃を灼熱しゃくねつの一撃に換える属性の付加。
 あたいの怪力で叩きつけられた斧は、デカブツの足、膝元あたりに深く食い込み、熱を伝え、岩肌の水分を一瞬で膨張させる。
 途端、デカブツの岩肌は弾け飛ぶ。
 それは完全に爆発だった。
 爆発の瞬間、岩肌を蹴り大きく飛び退いたにもかかわらず、衝撃波が襲ってくる。威力は十分だったはずだが、単に穴が開いただけ。大したダメージではなかった事に舌打ちする。

「かぁ! こんなもんか! ふざけやがって!」

 落下しながらデカブツの様子をうかがう。あれだけ強烈に叩き込んでやったというのに、死の山は意に介さない。それどころか痛みを感じている様子すらないのだから腹が立つ。
 ……こいつは完全に行動不能になるまでぶち壊さなきゃならないんだろう。

「まったく、厄介この上ないね! だが効かないってんなら、効くまでぶち込みゃいいだろうが!」

 あたいはすかさず空中で身をひねり、そのまま近くを落下していたデカブツの一部だった巨大な岩盤を蹴り上げ、跳んだ。
 いつしか体の熱は上がり、体中が赤熱する。

「はああああああ!!」

 粉砕、爆砕ばくさい融解ゆうかい
 斧を叩きつけるたびに起こる破壊の数々が連続してダメージを蓄積し、無数のひびが岩肌に走る。
 実際は、叩いても叩いても効いている気がしないが、それでもただ一心不乱に叩き続けるうち、一際いい手ごたえがこの手に伝わった。

「はっ! 喰らいな!」

 最後に思いきり身をねじり、振り上げた斧に相当量の魔力をこめて、罅の中心に叩き込む。
 会心の一撃が綺麗に決まると、特大の爆発であたいは体ごと派手に吹き飛ばされた。
 砕けたつぶてが吹き荒れる中、ついに煙を上げて砕けたのは、デカブツの左足に相当する部分だった。

「はっはっは! どうだ!」

 山が砕けるというとんでもない状態の中、あたいは笑う。
 だがちらりと確認した自分の得物は、すでに赤く熱して溶け出していたのだ。
 ……これじゃあ、次はないか?
 大地にようやく着地したあたいは、使い物にならなくなった斧を捨て、今度は素手でやり合う覚悟を決めた。
 だけど相手もここに来て動きが変わる。今まではたった一人の巨人なんて虫程度にしか思っていなかったのだろう。あの巨大な目が、こちらを真っすぐ捉えていたのだ。
 しばらく睨み合いが続く。そしてデカブツが動き出す。
 その左腕が驚くほどの速さで振りかぶられ、雲をかき分ける。振り降ろされる先が自分の真上だと気が付いた時には、頭上に真っ黒な天井が出来ていた。

「……こいつはちょっときついかねぇ!」

 にじむ汗を拭う暇もなく、あたいはえる。
 こりゃあさすがに死ぬだろう。しかし、逃げようにもその暇は残念ながらない。
 最後のあがきで受け止めてやろうと全身に力を込めたが、そこに思わぬ邪魔が入ったのだ。
感想 3

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