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第一章 幼少期編

35.初めての奴隷⑩

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「それで? そうまでして守りたい秘密って一体何なのかしら」

「その話をする前に、こちらにサインをお願い致します」

 ちゃっかり先に話をさせようとするお祖母様に、父さんが契約書を勧める。
 
「もう! 分かっていますよ! ……ただ、本当に秘密を守りたいのならカインは席を外させた方がいいんじゃないかしら」

「そのご心配には及びません。こちらの契約書は、書かれた内容を破ると罰則が自動的に発動するよう魔法が掛けられています。同意し署名さえしていただければ、この情報が漏れることはまず有り得ません」

 俺たちにはもう馴染みの深い契約書だが、二人にとっては余程驚愕だったのだろう。
 二人とも目を剥いて契約書に目をやる。

「なによそれ……そんな魔道具聞いたこともないわ。カイン、あなたはどうかしら?」

「……いえ。私もその様なお話は初めて耳にしました。少なくとも、私の情報網にはない物ですね」

「そう……あなたが知らないのであれば、少なくともブリオン王国には存在していないのでしょう。どこのダンジョン産かしら……」

 そう言って、ブツブツと考え込むお祖母様。
 この世界に現存する全ての魔道具はダンジョンから産出されている。
 だからお祖母様も、この契約書がダンジョンから産出された魔道具だと勘違いしているのだろう。
 しばらく考え込んでいたお祖母様だが、周りの視線に気づいたのか少し頬を赤らめて、コホンと一つ咳払いをする。

「まだ半信半疑ではあるけれど、秘密の漏洩の心配が無いことは理解出来たわ。でもこんな貴重な物を、今使ってしまって大丈夫なのかしら?」

「御心配には及びません。こちらの契約書は、作ろうと思えばいくらでも製作出来ますので」

「「なっ……!?」」

 父の言葉に、絶句する二人。
 まぁ確かに、魔道具と思っている物がいくらでも生み出せると聞いたら驚きもするだろう。
 
「はぁ、わかったわ。どうやらこれは私の想像を遥かに超える話になりそうね。とりあえず、まずはこの契約書を使用してみましょう。カイン、あなたも良いわね?」

「は、はい……」

 まだ驚きから覚めていない様子のカインさんを促しつつ、お祖母様は契約書にサインを記す。
 すると、いつもの様に契約書に魔法陣が浮かび上がり、眩く発光しながら二つに分かれ、お祖母様とに吸い込まれていった。
 その光景を呆然と眺めていたカインさんもハッと我に返り、同様に契約を完了させる。

「全く……とんでも無い魔道具ね。それもいくらでも生み出せるって……フィリップさん? 契約した以上は、きちんと全て話してくださるんでしょうね?」

「当然です。少々長くなりますので、紅茶を取り換えさせましょう。ミリー、頼めるかな?」

「はい、只今!」

 そう言って元気よくお茶の支度をするミリー。
 そんな彼女を見ながら、お祖母様は父さんに言う。

「まさか、ここにいる使用人たちにも……」

「当然、この別邸にかかわる全ての者たちとの契約は済ませております。ですから、これからの話が外部に漏れることはまず有り得ません」

 父さんの言葉を聞いたお祖母様は、今日何度目かのため息をつき、運ばれてきた温かい紅茶に口を付けた。


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