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第7章 Memory~二人の記憶~

28 少年達の出会い…エリオットside

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あの頃の私は、身分を気にする事なく話が出来るたった一人の友人がいた。

友人の名前はリカルド・ローレンス。

そんな彼と初めて会ったのは、私が十三歳の時。

「はじめまして、殿下。俺はリカルドって言います。よろしく」

私を王子と知ってだろうが、どことなくぶっきらぼうな言い方で挨拶をしてきたのは、年もそう変わらないであろう同じ年頃の少年だった。黒い髪と金の瞳が珍しく、とても印象に残る彼は年相応の笑みを浮かべた。

「…う、うん。私はエリオット・シュレーデル。よろしく」

私は彼の言葉に一瞬息を呑んだ。ここには幸い誰もいなかったから良いものの、もしも誰かに聞かれでもしていたら……。
と、何故か当の本人より、自分の方が焦った。

それなのに知ってか知らずか、彼は笑って握手を求めてきたのだ。その行動にもまた戸惑いを受ける私に、それでも彼は遠慮なく手を取り、握手をした。

初めは対応に困ったけれど、彼の誰に対しても同じなのだろうと思わせる明るい性格に、私は衝撃を受けた。
彼は私を王子ではなく、一個人として見てくれている。そんな気がして、彼と出会って初めて抱いたこの気持ちを私は今でも忘れない。


「ここにいたのか。探したぞ、リド」

二人しかいなかったその場に新たな人物の声が響く。

「げっ…師匠……」

男性の低い声に一早く反応を示したリカルドは、それはそれは酷い、苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。

「なんだその顔は。全く何処に行ったかと思えば、こんなところで迷子とは…全く」

二回も言った。
リカルドの様子に呆れながらこちらに歩いてくる初老の男性。私はその男性を見て思わず声を上げていた。

「セドリック!」

「お元気そうで何よりです、殿下。この度はこの馬鹿弟子が粗相をしでかしたようで、申し訳ございません」

丁寧な口調で謝罪を述べた後、セドリックは頭を下げた。

セドリックは私と面識のある、と言うよりもこの王城では知らない者はいない程の有名人だ。

誰もが憧れ夢見る職業、魔法士。そしてその魔法士達がこぞって目指すのが頂点、実際にはかなり厳しい職業で、その職に就ける者は数少ない狭き門である、王宮魔法士。
セドリックはその一人。しかも今いる王宮魔法士の中でもトップの実力者で、王子である私ですら憧れを抱く人物だ。

…って、ちょっと待って。今弟子って言った?彼が?セドリックの弟子!?

「誰が馬鹿だ!俺は天才だよ」

「黙らんかっ!」

驚いたがそんなやり取りを見ていると何処か納得だ。とは言っても、まさかあの偉大な魔法士、セドリックの弟子とはね。

「おや、リドよ。その様子では反省をしていないようだな?」

そう思っている間にも二人の言い争いは加速していく。セドリックの言い分にリカルドは負けずと反発を見せる、が。

「ひ……っ!」

しかし次の瞬間彼は顔を青くして黙り込んでしまったのだった。

……こ、これは。

セドリックの足元から強い魔力の反応。しかもその地面が凍っているじゃないか!

リカルドの態度の変化もそれを見れば頷ける。離れた所にいる私でさえ、セドリックの怒りの魔力に怖気好きそうだ。
それに彼は敢えて行っている事だが、呪文を唱えなくとも威嚇程度に魔力を外に流すなんて普通出来ない。
それが出来るのは魔力量の多い者か、魔力コントロールが恐ろしく正確な者しかいないだろう。
それを容易くやってみせるのだから彼の実力は本物だ。

「ほれ、帰るぞ。もう用は済んだのだからな。では殿下、私達はこれにて失礼させて頂きます」

「あ、はい…」

「リド、行くぞ」

「痛いっ!引っ張るなよっ」

地面だけでなく、全身が凍り付いたように固まっていたリカルドの腕を引っ張って、セドリックは元来た道を戻って行く。
私がその様子を呆気に取られて見ていたら、ふとリカルドがこちらを振り返る。

「また会おうな!」

友達と交わすようなその一言は私の心を揺さぶるには十分だった。その言葉は私が王子と知って近づいてくる者達とは明らかに違い、純粋に真っ直ぐに私個人へと投げかけられたものだったから。

「こら!殿下にそのような口をきくでない」

私は別に構わないのだが、案の定、それを聞いたセドリックにどやされている。
だけどその様子が何だか微笑ましく、そして少し羨ましく見えて……、気が付いた時には叫んでいた。

「ま、また会おう!リド!」

緊張して声が震えた気がしたが、しっかりとリカルドには届いたようだ。
彼は嬉しそうに笑い、セドリックもそれを見て一瞬安心したように笑っていた気がした。

その会話を最後に二人はその場を去って行く。

初めて言葉を交わした少年。ほんの短い時間だったけれど楽しかったし、そして何よりも嬉しかった。今はそんな気持ちで胸がいっぱいだ。

…また、会えるかな?

次に会えるのがいつかも分からないまま、会う約束をしてしまったが、いつになく私の胸は高鳴っていた。
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