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第7章 Memory~二人の記憶~

29 綻び…エリオットside

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彼――リカルドと初めて会ったあの日から、彼は約束を守って私に会いに来てくれていた。それはもう時間が空けば、暇さえあればと言った具合に。

私と会う時は決まって彼が城に来てくれるのだけど。毎回来てくれて嬉しいとは思う。けどそれが少し申し訳なくなってしまい、一度話した事があった。
でもそんなの俺が好きで来てるんだから気にしなくて良い、と笑って言われてしまって、そこまで言われては私もこれ以上言い返す事も出来ずに、今ではその言葉に甘えてしまっていた。

友人と言うものがどういった存在なのか、友人のいなかった私にはいまいち分からないが、それでもこれが友情と言うものだとしたら、それは本当に素晴らしいものなのだと思うのだった。


そしてそれからと言うもの、彼はこの城に良く遊びに来てくれるようになったのだった。
遊びにと言っても他愛もない話や、お互いの話をしたりする事もあるが、最近では魔法の使い方をこっそりと教えてくれたり、剣の稽古も付き合ってくれている。

私には普段教養を教えてくれる先生がいるけど、その先生が言っていた。リカルドは教え方が上手いと。
専属の先生にそう言われるのは本当に凄い事で、でもどう言う訳か、先生は彼が城へ来られない日は普段通りの勉強をするけど、彼が来ている日は彼に任せてしまうようになったのだ。
それを知った時思わず、良いのか?それ。と思ったが、後で確認してみると既に国王である父には許可を貰っているとの事だった。
とは言っても急にそんな事になれば私の相手をするのが面倒になっただけでは?そう疑問に思う。
それを聞いてみたら寧ろ逆で、大人の自分より、年が近い彼の方が、気づく事もあるのですよ、と言われた。

それは中々努力が実らないとか、毎日勉強なんかしていたくない等と言った年相応の悩みの事だろうか?

もしそうならありがたい心遣いだが、あいにく私は自分の立場を理解しているつもりだし、勉強も必要な事だと思っているから毎日していても嫌だと思った事はない。

まぁただ、最近はリカルドが来てくれた日の剣の稽古や、もうこれ以上伸びないだろうと無意識に諦めていた魔法の実践も本当に楽しくて、時間を気にせず没頭してしまっていたから、あまり調子の良い事は言えないけど。


それにしてもリカルドはあのセドリックの弟子だけあって、彼の年にしては魔法の腕が凄い。
それに彼自身からも強い魔力を感じる。恐らく、彼自身魔法士としての才能がもう既に備わっていたのだろう。
それだけ聞けば天才と思われるかもしれないが、強大な力はそれと同時に欠点も付き物。
それはコントロール技術。
どんなに優れた魔法を使えてもコントロールが出来ないのでは何の意味もないし、それでは魔法士にすらなれない。
何物にもとらわれず、無暗に力を使うだけなど、本能に忠実な魔物達と何ら変わらない。


世界には魔物と呼ばれる、一言で言うなら悪の塊、なる存在がいるそうだ。魔物の特徴は黒いオーラを放った禍々しい姿で、理性はなく、本能に従って行動し、時には生き物を襲うと言う恐ろしい怪物だ。

何処に生息しているかは定かではないが、書物に記述がある事からそれは確かに存在している。今はそれしか言えないが。
……とにかく、そんな恐ろしいものには一生出くわしたくはないな。

あぁ、話を戻すけど、とにかく彼は優秀で、なんと魔法だけでなく剣の腕も凄かったのだ。

まさに一流、まさに彼の言った通り天才だ。

聞いたところ魔法は独学で始めた事らしいが、剣は師匠であるセドリックに教わって覚えたらしい。
ちなみに、彼がセドリックに弟子入りしたのは数か月前で、まだ一年も経っていないと言うのだから更に驚く。
つまり、彼は一年と経たずして魔法と剣、両方の実力をここまでつけていると言う事なのだから。

正直羨ましいと思った。けど彼に対しては不思議と嫉妬のような醜い感情は芽生えなかった。寧ろ進んで彼に教えを乞う程だった。

そしてそんな私達の関係を知っている城の者達は、何を言うでもなく、ただ静かに見守ってくれている。
魔法も剣の稽古もこっそり、だったはずが今やバレているが、周りが何も言ってこないだけになっていた。


彼に教わるようになってそれなりの日にちが経った頃、私にも努力の成果が見え始めていた。

正直なところ、自分の剣の実力はそこそこだが、魔法の方はからっきしで、これはもう上達しないのでは?そう悲観的な考えがあったのだが、それを彼は変えてくれた。

魔法や剣術だけじゃない。なんだって努力すれば努力した分だけ成果は出る。ただその結果を出すのが早いか遅いかだけの違い。つまりはそれだけの努力をする気力がその人にあるかって事。

励ます為なのかどうなのか分からないけど、彼に言われて背中を押された気がする。それにその時私は気が付いた。

自分を天才と彼は言っていたけど、きっと裏では並々ならぬ努力をしていたのではないだろうかと言う事に。
そしてその結果努力は実を結び、彼を天才と呼ばせた。だから本当の彼は天才ではなく秀才。

天から授かったような才能を天才と呼ぶけど、努力を重ねて得た才能は秀才と呼ぶ。

彼も私と同じように日々の鍛錬で実力を身につけていったのだと。そう思った。
友人と言ってくれたのにどこか遠い存在だと感じていた彼は、本当は努力を重ねていた私と同じ少年だったのだと。

それに気が付いた時私は何処かホッとしてしまったのだった。





この頃の私は毎日が楽しくて充実していた。

だからあの日の事を未だに信じられない。


それは唐突にやって来た。私を絶望へと突き落とし、そして彼への復讐を誓う運命の日。


信じていた者に裏切られるのは、こんなにも悲しく、辛いのだと、生まれて初めて知った。
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