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漆黒の世界。

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 漆黒に塗りつぶされたそんな空間。

 もはや光はここには届かない。

 目、ではなく、心でみる。

 そんな場所。

 ただ暗いだけではなく黒に黒を塗りつぶした様な黒さ。



 洞窟に入って最初の頃はまだ光をうすぼんやり感じていたはずだったのに。

 あれは漏れ伝わってきた表の世界の色なのか?

 まあ。わかっていた事だ。

 ここは、ダークマターで構成された世界。

 光で照らしたとしても、その光は反射することなく吸収される。

 表の世界とは違うのだから。




 意識を切り替えてマナの形で周囲を視るようにしていくと。

 世界がその全貌をあきらかにする。


 ああ。

 ここが、魔、の在る世界。

 魔界に来たのだ、と。




 普通の人間には無理だ、というのも納得なこの世界の常識として、生物が獲得した眼という器官がここでは全く役に立たないのだという事はもう随分以前から理解されていた。

 暗黒の世界。

 漆黒の世界。

 深海であればそこに光を持ち込み照らす事が可能だ。

 眼という器官が退化した生物であっても、そこに光を当てる事で観測する事ができるのだから。

 しかし。

 このダークマターの世界ではそんな常識は通用しない。

 光は反射することで初めて認識されるのだから。



 じゃぁ、この世界の生物は何を頼りにしているのか?

 それが、マナ、だ。

 自分が発したマナを感じる事で、周囲をみる。

 通常世界であっても周囲を探索するのに使うことはあるけれど、此処ではそれが一般的に使用されて居る。

 此処に住むあらゆる生物が、また、あらゆる魔が、そうやって世界を認識して居るのだった。



 魔・ギアは装着して居る間中マナを消費する。

 それは通常在る現代の魔道具のマナ消費量とは比べものにならないほど大量に、それも、装着者本人の意思とは無縁に消費されてしまう為、その装着出来る可能な時間には限りがあった。

 たとえば。

 それがたとえラギレスの様な無尽蔵なマナを持つ様な存在であったとしても。

 その所有するギアを七つ全て装着して耐えられるのは精々小一時間程だろう。

 で、あるから。

 どれか一つ、この世界でどうしてもどれか一つ選んで装着するとすれば。

 それはやはりマギア・キャッツアイとなる。

 装着する前のギアは拳状のクリソベリルキャッツアイの塊。

 ただただまあるい金緑色に光る宝石。そんな状態に見える。

 装着時、それはラギレスの左眼と同化し、その魔力をコントロールするとともに、あらゆる事象をデータ化して脳に送る。

 目の前のダークマターであっても例外ではなく。視ることが出来たのだ。



 勇者ノワの場合、所有するマギア・ドラゴンズアイを右眼に装着している。


 それにより、この二人にとってはこの魔界はほぼ通常世界と変わらない、そんな世界として感じることが出来たのだ。

 光は無くともほぼ正確にこの世界を視る事が。
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