「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠

文字の大きさ
37 / 43

【旅立ち】

しおりを挟む
「本当にいいの? ジュリウス様とお話ししないまま外国に行っても。後悔しない?」

「ええ。おかあさま。わたくし、ジュリウス様がおっしゃった意味がようやくわかりかけてきたのです。『一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね』『私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために』そう、おっしゃったジュリウス様。わたくし、ジュリウス様がおっしゃったこの言葉をずっと考えていました。そして見つけたのです。第二の人生って、幸せになれる人生って、やっぱりわたくしにはお仕事しかないんじゃないかって」

「お仕事だけなの?」

「わたくし、なんだか目の前に新しい世界がひらけたような気がしているのですわ。この旅で、本当の自分を見つけられるような気がします。だからおかあさま、心配しないで」

「そうねえ、ええ。好きにやりなさい。あなたがそんなに目を輝かせている姿を見るとわたくしももう止める気持ちにはなれないわ。頑張ってね、マリエル。あ、でも」

 ローズマリアはマリエルのほおにふれて。

「恋を諦めることはないのよ。あなたが好きな人ができたなら、わたくしは全力で応援いたしますからね」

「ありがとうございます。そうですよね。恋、かぁ。まだ今のわたくしには……」

 あのままレイングラード侯爵家にいてジュリウスがあちらこちらの女性に声をかけるだろうところをただただ見ているのには耐えられなかったマリエル。
 マリーに見せていたような笑顔を、他の女性にも見せるのだろうかと、想像するだけで辛かった。
 ジュリウスのマリーに対する態度が遊びだったのか本気だったのかはわからないけれど、ジュリウスはマリエルに言ったのだ。『お互いに』『第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだ』と。
 それはマリエルに対してだけではなく、当然、ジュリウスもがマリエルと離婚した後の伴侶を真剣に探していたということでもある。
 ジュリウスはマリエルのことなんてなんとも思っていなかった。
 それを思うと、それが真実だという証拠がジュリウスのマリーに対する求愛だったのだと、そう考えるだけで心が張り裂けそうになってしまっていた。

 そんな気持ちを押し殺している時に従兄弟のジンが外国に行こうと言ってくれた。
 外国に行って、新たな仕入れルートの開拓をする。
 もちろんそんなに甘いものだなんて考えているわけではなかったけれど、ジンの言葉はマリエルにとって、甘露な飴のように魅力的に思えた。

 そして。
 そんな魅力的な提案に心が躍るうちに、「ああ、ジュリウス様のおっしゃっていたことは、このことだったのだわ」と、腑に落ちたのだ。
 お互いに縛られるのではなく、自分のための人生を生きる。
 そう考えると今回のこともいいきっかけだったのではないかと、そう前向きに思えてきた。
 きっと、自分が恋していると思っていた気持ちも、子供の憧れのようなものだったに違いない、と。
 もしかしたら、この旅の間に悲しかった気持ちも癒えてくれるのではないか、と。
 そう期待したら、マリエルの心は少し軽くなった。

 ジュリウスを好きだと思うその気持ちが消えてしまったわけではなかったけれど、それでもそれを悲しみ何もできないでいる自分はもっと嫌だった。

 だから。

 前向きな気持ちで旅立とう。そう誓ったのだ。
 自分が自分でいられるように。



 
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】お世話になりました

⚪︎
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

⚪︎
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

処理中です...